第16話 彼もまた混沌を求める

光明寺に後を託され、葛城が待つビルの最上階を目指しエレベーターに乗り込んだカツミ。

この大幡重工は二十階ほどの大型のビルではあるがエレベーターはすぐに最上階へと到達した。

そして扉が開くと、彼の目に飛び込んだのは青空だった。


「ようこそ、私の城へ」


声の主はカツミの真正面に座り、ただただ歓迎の言葉を掛ける。

白いスーツに長い髪をし、病的にまで痩せている彼こそが全ての元凶、葛城譲二その人だった。

彼はデスクに静かに座り、カツミが来るのを待っていたのだ。


「お前が…葛城譲二か」

「待っていたよ、君の活躍は配信を通して見ていた。客も君のような爆発を意図的に起こせる強化兵を欲しがってたよ」


今までの戦いは未だに配信されていて、カツミの戦いは達にとってかなり良いものだったという事実を告げられると、彼は憤慨した。


「…悪趣味な野郎だ!一体何を考えてやがる!」

「それはただ、夢の為…金でもなく、支配でもない。俺は君のような行き場のない人間の救世主だ」

「何を…!答えになってねぇぞ!!」


突然夢を語り出し、更に自分を救世主とまで言い出した相手に冷や汗をかくカツミ。

目の前の男の得体のしれなさにただただ睨んでいると、葛城はその口元を緩めさせる。


「…まぁまぁそんなに怖い顔をするんじゃない。これからが面白くなるんだ」


彼はそう言いながら、デスクの棚を開けて中から意味深な機械を取り出す。

ガラスの蓋で保護された中にボタンのような赤い突起が見え、葛城はそれをゆっくりと開ける。


「おい!それはなんだ!!」


カツミは葛城に何をしたのかを叫びながら聞くと、彼はにっこりと笑うだけ。

しかし、脳裏には大久保のあの言葉が強く浮かんでいた。


『また戦争がしたいんだって、彼』


それに気付いた瞬間、彼は叫んだ。


「そうか…お前ッ!」

「やっと気付いたか…そうよ、俺の夢はただ一つ!ただただ戦いを楽しみたい、それだけさッ!!」


その瞬間、カツミは言葉よりも早く体を動かした。

とにかくあのスイッチを破壊するか何かしなければやばいと本能が彼を突き動かしたのである。

しかし葛城もまた、カツミの動きを察知してまた別のスイッチを取り出した。


「さぁ、新しい世界の門出だ!存分に楽しもうか!」


そう言いながら彼はまた別の起動スイッチを押すと、何かの起動音が鳴り響く。

次の瞬間、天井が開いて上から巨大な物がカツミの前を塞ぐように飛び降りて来た。


「ッ!!」


カツミの前に現れたモノ、真っ黒い装甲の隙間から筋肉のようなものが覗き、その上に色とりどりのコードが見え、足はキャタピラで、左腕をクロー、右腕をチェーンソーで武装した戦車のような化け物だった。


「そいつは私の趣味で作った試作サイボーグ戦車、名付けるならそうだな…鉄鋼戦車、とでも呼ぼうか?まぁ、とりあえずそこでそれと戯れていていたまえ…三十分もしたら、すべてが終わる時だ…」


そう言うと彼の背後には人一人が乗り込める昇降機のような物が降り、彼はそれに乗り恐らく屋上へと向かっていた。


「それじゃ、頑張ってくれ。そいつを破壊できたらワンチャンスあるかもよ」


そのままゆっくりと上へ向かって行く彼を、カツミは黙って見過ごすはずがなかった。

何とか目の前の巨大な化け物の横に回り込んで阻止しようとするが、鉄鋼戦車の予想以上の機動性の前には虚しい努力に終わった。


「ギィィィッ…」


獣のような唸り声を上げ、戦車はクローアームをカツミへ叩き付けた。


「ぐあっ!!」


凄まじいパワーで吹っ飛ぶカツミ。

しかし彼は吹っ飛びながらも感情を昂らせて、もう一つの姿へと変身する。

白い霧を噴出させながら、彼は異形の姿へと変貌した。

そして彼は掌を爆発させ、その反動で一気に戦車への距離を縮める。


「そこをどいてもらうぞ!!」


距離を縮め、彼は戦車の顔のような部分にしがみついて腕の甲殻を赤く光らせ、思いっ切り叩き付けた。


「吹っ飛べ!!」


殴り付けると同時に、鉄鋼戦車の顔は爆炎に包まれた。

かなりの爆発エネルギーをぶつけた、間違いなく破壊できたと彼は思ったのだがそう甘くはなかった。

何と戦車は何事も無かったかのように動き出しクローアームでカツミを掴み上げた。


「こ、こいつっ!まともに俺の拳を食らって動くのか!!」

「ガァァァァァッ!!」


そして煙が晴れると、中から現れたのは機械のコード類と金属がめり込んだ醜い顔だった。

そう、この戦車はサイボーグと機械を融合させた狂気の一作だったのである。

更に驚く事に顔の周辺を再び金属が覆い始めていた。

まるで生き物のように金属が醜い金属を覆い隠すと、戦車はカツミを強く握り始めた。


「え、液体金属の装甲…!!」

「ギギィッ!!」


戦車は右腕を動かし、チェーンソーをカツミの首へと徐々に近付けていた。

必死にもがくものの、自分以上のパワーを発揮され中々脱出出来そうにない。


「黙ってやられるもんか…!!」


するとカツミは両腕を赤熱化させて爆発させ、クローアームを破壊して脱出する。

その際、自身も爆風で吹っ飛んだもののすぐに体勢を立て直して再び立ち向かおうとするが、戦車はそれを許さなかった。


「ギギャァァァ!!」


戦車の肩部分から銃身が飛び出し、レーザーサイトの光がカツミの体に当たるとすぐさま、弾丸が発射された。

それは弾丸と言うより大砲の砲弾であり、凄まじい威力でカツミは再びカツミは後方へと大きく吹っ飛んだ。


「うおッ!!」

「ギ、ギ、ギ…」


彼を追うようにキャタピラを回し、金属を軋む音を響かせながら戦車は前進する。

カツミがよろめきながら立ち上がる度に、彼は再び肩のキャノンを撃ち続けて壁へ叩き付け、今度はチェーンソーを回す。


「うおおッ!!」


再びチェーンソーを押し付けられ、カツミは刃を掴んで必死に抑える。

凄まじい火花と、金属を斬るような高い音を鳴らしながら激しい攻防戦が始まった。

何とか力で抑えている物の、刃はやがて彼の腕の甲殻を少しずつ削り始めていた。


「く、クソッ…タレがッ」

「ギリギリギリギリッ!!」


やがて少量ではあるが、燃えるような血が流れ始めていよいよ不味い状況に陥った瞬間、カツミは一か八かの賭けに出る。

彼は両腕で抑えていたのを、敢えて片手にしてもう一方の腕をフリーにする。

空いた手を高く上げ、その肘をチェーンソーへ叩き込んだ。


「とおッ!!」


カツミの血が付着したチェーンソーに自身の腕をぶつけ、連鎖的に爆発を起こす事により刃を破壊する事に成功する。

しかし相手は新型液体金属を持つ事を忘れてはならない。


「グギィッ!!」


獣のようなの声を上げ、戦車は怯むが瞬時に破損した部分へ液体金属が流れて行き、すぐにチェーンソーとクローアームを再生させてしまった。


(クソッ、このままじゃ奴の計画が終わっちまう!なんとかしねぇと…)


いくら装甲を破損させても、すぐに再生する相手の装甲をどうにかしなければ勝機はない…

カツミは葛城の示した三十分というタイムリミットが迫る中、彼は再び腹を括った。


「よぉし、こうなったら無理にでもお前を破壊させてもらう!!」


彼は掌の血を体に塗り、再び拳を構える。

装甲を破壊しても液体金属で再生されてしまうが、本体を破壊すればどうにか出来る。

そう考えた彼の戦法は一つだけ、捨て身だ!


「ギ、ネィッ!!」


戦車は機敏な動きでチェーンソーを真正面に伸ばし、カツミの胴体を真っ二つにしようとするが彼はこれをギリギリで回避し、肩に傷を負う。

更にクローアームの掴みも躱すが、またもや避ける際に傷を負うがこれで良いのだ。

何とか避けてジリ貧になるくらいならば敢えて食らいながら接近して距離を詰める事にしたのだ。

そしてキャノンを撃ち、何とか自身に近付けまいとするが、自身のタフさに任せた捨て身戦法の前についに懐への接近を許してしまったのである。


「おおおおおッ!!」


ついに接近した彼は、両腕に熱を集中させて渾身のダブルパンチを炸裂された。

その瞬間、部屋は凄まじい閃光に包まれた…


──────────────────────


「…おっと、結構派手に揺れたね」


屋上階で佇んでいた葛城は、下の階で派手に戦闘を行っているものだと思って呑気に呟いていた。

そんな彼の目の前にはまるでダンプカー並に大きなコンテナが置かれており、それを眺めつつ時計を確認していた。


「…残り十分、いよいよ盛大な花火が上げられるねぇ」


と呟いていると、背後から昇降機が登ってくる音がするので振り変えるとそこにいたのはボロボロになった鉄鋼戦車であった。

普通に戦車が勝ったのかと、葛城はため息を付くが彼はすぐに異変に気が付く。

破損した部分が液体金属によって再生しておらず、ただただ銀色の液体を垂れ流しているだけだった。


(うむ、金属制御のジェネレーターがやられている…これは)


彼の予感は的中し、ガラクタを押しのけられてもう一人がその背中から姿を現した。


「よう…!!待たせたな…!!」


そう、先程全身を敢えて傷だらけにして出血し、限界まで腕に血を集めて熱量を高めて拳を叩き付けた為に大爆発を起こしたのである。

その爆発は今まで起こした物とは比べ物にならず、装甲どころか中に詰められていた生体CPUに多大なダメージを負わせたのだ。

もちろん彼も無事ではない、自身の爆発にも耐えれる頑強な皮膚や甲殻はボロボロになり、所々筋繊維がちらりと顔を覗かせていた。


「なるほど、先程ビルが揺れるほどの爆発は君が…」

「もうここまでだ…観念しろッ!!」


いくらボロボロとはいえ、葛城は普通の人間。

抵抗する手立ては無いはずだが、彼はにこやかだった。


「観念…?する必要はないと思うけどね」


次の瞬間、彼の背後にあるコンテナが大きな音を立てて二つに割れて何かが少しずつその全容を見せてくる。

その中身とは…


「こ、こいつは…ミサイルッ!?」


果たして、葛城の真意とは…

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