合言葉はラッキートレイン

夕日ゆうや

宝物庫

「開けごま」

 そう言うと、ガガガッと音を立てて石扉が引き戸のように開いていく。

 この世界には何故か魔法というものがあり、音声認識で開くことがある。

 だが、それがまさかの日本語とは。

 俺は異世界語も日本語もできる。

 いわゆる異世界転生者であり、小さい頃から俺はチート能力を持っていた。

 クロノス――刻を操る能力。

 俺は扉の向こうに向かって歩き出す。

 そこは宝物庫らしく、金銀財宝が転がっているではないか。

 これを独り占めできると分かるとテンションが上がる。

 能力だけでなく、財産だってこのように手にすることができるのだ。

 真ん中にあった石碑に手をかざすと、色々な情報が得られた。

 この宝物庫は同じ日本人に向けた祝福だと。

 そして扉の奥にある電車を各地に伸ばしてほしいと。

『ラッキートレイン』

 そう呟くと電車は起動を始める。

 これが各地を結ぶ架け橋になるというのなら、大量の荷物や人を運搬できるようになる。

 異世界にとってそれは貴重なことだ。


 俺は財宝をかねに換えて、電車業を営むことにした。

 電車はラッキートレインと名付け、走らせる。特殊な電車で座標転移ワープができる。

 これで一儲けできたら、あとは次世代の子に任せる。

 俺は田舎で悠々自適なスローライフを過ごすことにした。

 もう戦わなくていい。

 もう死を感じなくていい。

 解放された。

 でも故郷には帰れない。

 もう、母の顔も、父のタバコの匂いも忘れてしまった。

 俺、生きている。

 宝物庫を作り、その合い言葉を『ラッキートレイン』と日本語で登録した。

 またくる、顔も知らぬ他人のために。

 名も知らぬ人のために。


 俺はお風呂に入り『ラッキートレイン』の歌を歌う。

 今宵はいいことがありそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

合言葉はラッキートレイン 夕日ゆうや @PT03wing

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ