死者を占うな ~憧れの先輩の心霊体験を聞いた話
東紀まゆか
咳の音がする
お洒落で明るい慶子先輩は、大学のゼミの人気者だった。
僕も密かに憧れていたが、所詮は高嶺の花だった。
先輩は占いが得意で、よく女子をキャアキャア言わせていた。
元々は手品が趣味で、「手品と占いと催眠術は兄弟」と気づいたそうである。
占いは未来を見ているのではなく、マジシャンズ・セレクトという技術で、相手を誘導しているそうだ。
「皆、自分の望む未来を言って欲しいからね。私は、それを聞き出しているだけよ」
そんな先輩のおばあちゃんが危篤になった。
病気ではなく老衰なので、どうにも出来ないそうだ。
小さい頃から、おばあちゃんっ子だった慶子先輩は、大学を休んで郷里に帰った。
おばあちゃんが亡くなり。通夜と告別式を終えた先輩が、東京に戻って来た時。
躊躇いがちに声をかける僕らに、憔悴しきった顔で先輩は言った。
「おばあちゃんをね、占っちゃったの」
おばあちゃんの最期を看取ったのは、先輩だったそうだ。
「もうずっと寝ているんだけど、痰が喉に詰まると、苦しそうにケッ、ケッと咳をして起きるの」
そして亡くなる数分前。咳をして起きると、苦しそうな息の下で、おばあちゃんは言ったそうだ。
「慶子ちゃんが結婚するまで、私が生きられるか占って欲しい」と。
親族の集まりで、よく年下の従妹を占ってあげていたのを、おばあちゃんは覚えていたのだろう、と先輩は言った。
そう言われて戸惑ったが、先輩は形だけ占いの真似をして「おばあちゃんは、私が結婚するまで生きる」と答えた。
その言葉を聞いたおばあちゃんは笑顔になり、眠る様に亡くなった。
先輩は、おばあちゃんの望む未来を伝えてあげたのだ。
「最期に、いい事をしてあげたと思いますよ」
僕の言葉に、先輩は困った様な顔をして言った。
「それからね……。毎晩、おばあちゃんが来るのよ」
告別式を終えた夜から。先輩が寝ていると、夜中にどこからか、ケッ、ケッと苦しそうな咳が聞こえて来るという。
それは先輩が東京のマンションに帰って来ても、毎晩、続いた。
「私、失敗したと思ってるの。死ぬ前の一番苦しい状態で、おばあちゃんをこの世に引き止めちゃったのかな、って」
悲しそうに黙り込む先輩に、僕は思わず言った。
「先輩が結婚すればいいんですよ! さぁ、今すぐ結婚しましょう!」
「でも、相手がいる訳でもないし……」
僕は思わず叫んでいた。
「僕でしたら、すぐにでも!」
少しビックリした顔をすると。先輩は、やつれた顔に笑みを浮かべて言った。
「ちょっと~。そんな雑なプロポーズ、ないよ~」
それが、僕と妻との馴れ初めです。
ありがとう、おばあちゃん。
死者を占うな ~憧れの先輩の心霊体験を聞いた話 東紀まゆか @TOHKI9865
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