作者の描く登場人物たち集めてみた

【第一回】登場人物たちによるお料理対決!







※パラレルワールド的なものです※

※全作品の本編には影響ありません※



















「これを読めばいいのね?」


 長い前髪を額の真ん中辺りで分けた、黒髪ロングの女性が紙を片手に、確認を取る。


「えーっと……それでは第一回、登場人物たちによるお料理対決!…を、始めたいと思います」


 そして、マイクに向かって説明を始めた。


 今回行う企画は、小坂あとの作品に登場する人物たちを集め、その名の通りお料理対決をしてもらう…というものである。


 それぞれ参加者は、


【あざとすぎるよ、皆月さん】より。

皆月楓みなづき かえで友江渚ともえ なぎさ紗倉桃さくらもも

【未熟サキュバス、恋します!】より。

津賀深澪つがみれい

【ダメ女がイケメン女子大生と出会ったその日にお持ち帰りされた話】より。

白川樹希しらかわいつき倉田優奈くらたゆうな


 この六名となっている。


 対決はチーム戦、社会人組と大学生組に別れて行う。


 社会人組は楓、深澪、優奈の三人。


 大学生組は渚、桃、樹希の三人である。


 制限時間は二時間。


 作る料理は不問。材料も不問。方法も不問。


 不正もあり。


 つまりは自由に料理を作り合い、競うのみである。


 審査員は、【あざとすぎるよ、皆月さん】に登場する皆月家の母と妹⸺椿つばき紅葉もみじが担当する。

 採点方式はそれぞれ独断で評価をし、おいしかったと思った方の札を上げ、どちらにも選ばれたチームの勝ちである。


「…それ、審査員が奇数じゃないと勝敗分けるの難しくない?企画考えたやつなに考えてんの」


 全員がなんの気なしに聞いていた中で、唯一桃だけは怪訝な表情で小さく呟いた。

 そのことに気付かず、椿は言葉を続ける。


「勝ったチームには賞金としてひとり五万円ずつ差し上げます…って、書いてあるわ」

「はぁ、そんなはした金いらないから帰りたいんだけど」


 椿が説明を終えた途端、気だるげに声を出したのは桃だった。


「はした金って……五万円は大金よ?」

「あたしにとっては、そんなん小銭にもなんないから。てか誰なの、こいつら」

「あら。お口が悪いわ?」

「うっさい。あんた代わりに出れば?見た目若いんだから、大学生ってことでイケるでしょ」

「さすがにむりよ……私をいくつだと思ってるの」

「知らない。とにかくだるいから、あたしはパス」

「だめよ。…お願い、参加して?」

「……なんか逆らいづらいな、この女」


 豊満な胸と、とても⸺歳とは思えない若さと美貌の持ち主である椿を前に、桃は面食らって眉をひそめる。


「まあまあ、桃。五万入ったらビール何十杯も飲めるんだから」

「……確かに」

「これ終わったら飲み行こ」

「仕方ない……やるか〜」


 そこへ渚が宥めに行って、無事にお料理対決は開始のゴングを鳴らした。


 まずは社会人チームの様子から。


 楓、優奈、深澪の三人はそれぞれ戸惑いながらも軽い自己紹介と挨拶を済ませ、どうしようかと話し合いを始めた。


「見た感じ材料はたくさんあるから……ひとり一品ずつ作るのはどうかな?」

「それなら、和洋中で揃えるとか…?」

「自分はなんでも…」


 基本的に楓が会話の舵を取って仕切り、優奈がそれに加えて提案して、深澪は基本頷くだけという流れで何を作るかを決定していった。

 結果、楓は洋風担当、優奈は和風担当、深澪は中華担当となり、それぞれ具材を取りに冷蔵庫や食材の置いてあるスペースへと向かう。


「わたしはローストビーフと、ポトフ作るね」

「じゃあわたし、肉じゃが…作ります」

「餃子包むよ」

「うん、さっそく始めよっか!」


 社会人チームの三人は日頃から自炊をするタイプだったことも相まって、平和的に料理をスタートさせた。


 一方、大学生チームの三人は。


「この中で、料理できる人」

「は?あたしが作れるわけないじゃん」

「まともに作ったことないっす」


 渚以外、ほとんど料理ができないという、早くもお先真っ暗な現実に直面していた。


「これ絶対、人選ミスでしょ…」


 始まる前から心折れかけている渚は深いため息をついて、大学生チームの負けをすでに悟る。

 おまけに、料理ができないふたりはとことんマイペースで、


「こんなん金にモノ言わせりゃいいのよ。…ってことで、一流シェフ呼びつけたから。後は勝手にやって」

「いつの間に……ちょっと桃、どこ行くの」

「おぉ……美人な上に料理うまいとか最高じゃないっすか!私はおねーさんに手取り足取り教わろっかな〜」


 桃はどこからともなくプロのシェフを雇い連れてきてどこかへと去り、樹希はそのシェフの女にダル絡みを始めた。


「……あの人、優奈さんのパートナーでしょ」

「う、うん…」

「…ああいうの、嫌じゃないのかよ」

「……もう慣れたことだから。へーき」


 その様子を見ていた深澪と優奈はそんな会話をして、落ち込んでいるだろうに無理した笑顔を浮かべた優奈を見て、深澪は何を思ったのか天井を仰いだ。

 そして何も言わず、食材のある箇所からいくつか果物を取ってきて、これまた無言で切り始める。

 何をしてるんだろう…?と優奈が隣から覗き込んだあたりで、ちょうどひとつ完成させた深澪も振り返った。


「…元気出して。って、うさぎさんも言ってる」

「わ……かわいい…」


 差し出されたりんごのうさぎを受け取って、優奈はつい頬を緩ませた。


「ありがとう、深澪さん…」

「お礼なんていいよ。…ついでに、果物の盛り合わせも作ろうと思っただけだから」

「ふふ、わたしも手伝うね」


 横並びになって包丁を持った優奈が深澪を見上げて笑いかけて、深澪もまた優奈を見下ろして照れた顔で微笑んだ。

 見つめ合って、目線の違いに改めて気が付いた優奈の表情が少し驚いたものへと変わる。


「深澪さん……身長高いね」

「よく言われる」

「女の人で、樹希さんより大きい人、初めて見たかも…」

「はは。逆に私より小さい人、あんま見たことないな」

「ん、ふふ。だよね。そんなに高かったら、ほとんどの女の子みんな小さいと思う」

「…小さい方が、かわいいけどね」


 そう言って静かに笑った顔が、男性寄りな容姿は中性的な樹希と、どことなくモテそうな雰囲気が似ていて、彼女もまた女たらしであることを知る。

 自覚あるたらしと、無自覚なたらしでは似てるようで違うことも知った。

 下心なんてまるでない、慣れない優しさにソワソワしつつ、「これ樹希さんに聞かれてたら怒られそう…」と別の意味でも心をドギマギさせた。


 優奈の心配する通り、それを遠くから見ていた樹希が、


「……なんだあいつ、ムカつくな…」

「ちょっと待ってください、樹希さん」


 静かに憤って包丁を手に取ったのを見て、慌てて渚が止めに入った。


「なんすか、止めないでくださいよ」

「さすがに暴力はちょっと……アウトです」

「だってあいつ、うざいじゃないっすか。女なのに男みたいにデカいし…腹立つ」

「樹希さんも身長高いじゃないですか…」

「私よりイケメンがいるのが許せん」

「ま、まあまあ。落ち着いて…」


 と、必死で渚が嫉妬心のみで動こうとする樹希を宥めてる間に、


「ん、よし。下準備終わったから、わたしなにか手伝うよ〜」


 開始からそうかからずほとんどの工程を終わらせた楓が、深澪と優奈の元へやってきた。


「今は何してるの?」

「…果物の盛り合わせ作ってるとこだよ」

「いいねいいね。わたしも皮剥くね?」


 状況をすぐ理解した楓はそばにあったりんごをひとつ手に持って、慣れた調子で剥き始めた。

 シャリシャリと薄く皮を削いでいって、あっという間にひとつ剥いて、種のある部分を切り落としながら何等分かに切り分けたのを、ふたりは驚愕して眺める。


「す、すごい……はやいね、楓さん」

「慣れてるだけだよ〜」

「いや、それにしても……すごすぎないか。皮もちゃんと一本じゃん…」


 楓の残した皮の残骸をつまんだ深澪は、綺麗に途切れることなく一本に繋がったままのそれを見て感動にも近い声を出した。

 自分達とは次元が違う料理スキルの高さに畏怖の念を抱きつつ、やり方を教わりながら皮むきを進めていく。

 ひと通り終わった後で、皿への盛り付けは優奈と深澪に任せて皮の掃除を始めた楓は、自分達が剥いたそれらをいくつか手にして、


「んふふ。すごい…上手に剥けたね」


 そばにいた深澪に、そう笑いかけた。


「お、おう…」


 一瞬、どうしてかやらしい意味に聞こえてしまった深澪は自分の頭がおかしくなったと錯覚して、だけどすぐ、


「見て…?種もこんなにいっぱい出ちゃった」


 誤解を招いてもおかしくないかもしれない言い回しを自覚なくする楓の発言に、これは勘違いじゃないということに気が付いた。

 ⸺なんでだろ、この人……なんかめっちゃエロい。

 心の中でだけ疑問を抱いて、ちょっとムラつきかけた自分の愚かな性欲を落ち着ける。天海以外に興奮するなんて、最近の深澪にしては滅多にないことで、本人が一番戸惑っていた。


「それにしても……深澪さんは身長が高いんだね」

「はは。…さっき、優奈さんにも言われた」

「いいなぁ〜…大きいの。わたしも、もうちょっと大きくなりたかった…」

「いや、もう充分……大きいと思うけどな…」

「?」


 拗ねた唇を尖らせた楓の、豊満すぎる胸元を眼下に思わず呟く。楓は話が噛み合ってるようで噛み合ってないのが、どうしてなのか理解できず小首を傾げた。


「……殺しますか、あの人」


 遠くから見ていた渚が呟けば、樹希もそれに便乗して頷く。


「ね?ムカつくでしょ、あいつ。モテやがって…」

「皆月さんの胸を見た罰は重いです。ここは冷静にぶっ殺しましょう」

「よっしゃ、きた。こうなったら突撃っすよ」

「あ……あのぅ…」


 殺気立って、今にも人を殺しそうなふたりの間に、ビクビクと怯えた声が割って入った。

 見てみれば、桃が呼びつけたシェフが眉を垂らして困った顔をしている。


「私は、どうすれば……」

「あぁー……なんか適当にうまいもん作ってくれればいいっすよ」

「私達はお肉の調達に行ってきますね」

「あ…は、はい」

「渚ー、落ち着けー。あんたらはさっさと飯作んなさいよ」


 暴走しそうな渚達を止めるため、審査員席の方からメガホンを使って桃が声をかける。


「何を言ってるの、もう……あなたも作る側よ?」

「このあたしが包丁なんて握ると思ってんの?」

「握るのは男の股間だけ…ってね!」

「おい渚、ちょっとこっち来な?あんたの股間捻り潰してあげるから」

「すみません……立派なものついてないです…」

「はぁ、つまんないの。ち○こ生やしてから言ってくれる?」

「さっきからあなた……お口悪いわよ?チャックして」

「は?うるさ…」

「こら、静かに。もう私が塞いじゃうんだから」


 ふわり、と柔らかな手のひらに口元を覆われて、さすがの桃も言葉を詰まらせた。

 怒っているにも関わらず綺麗なままを維持して整った顔の椿をしばらく目をパチクリとさせながら見つめて、距離の近さに困惑する。

 ⸺な、なにこの女。

 普段あまり関わらないようなタイプすぎて、どう反応したらいいか悩んだ。


紅葉こどももいるから……言葉使いには気を付けてほしいな?」

「あ……う、ん。すみませんでした…」


 何も言い返すことができなくて、桃にしては珍しく素直に謝る。


「……もみじ、おなかすいた」


 自由に過ごす大人達が多い中、おとなしく審査員席で待っていた紅葉は、ひとり静かにぽつりと呟いた。

 桃に注意された渚達は調理場に戻って真面目に作業を再開させ、椿に注意された桃は調理場に戻ることはせず、


「…暇だから、話し相手になってあげる」


 隣に座る紅葉に、素直じゃない優しさで声をかけた。

 紅葉は「さっきお母さんを困らせてた人だ…」と内心警戒しながらも、退屈には抗えなくて会話に応じることにした。


「あんた何が好きなの、食べ物」

「…お母さんと、お姉ちゃんの作ったごはん」

「ふぅん……そっか。そうやって言えんのは、幸せなことだね」


 自分の家庭環境を思い返しながら、桃はテーブルに肘をついて顎を手で支え持った。


「…お姉さんは、なにが好き?」


 儚げな雰囲気を感じ取った紅葉が気を利かせて聞けば、桃は何を考えたのか苦笑する。


「酒」

「……よっぱらいのやつ?」

「そう。…何も考えなくて済むようになるから好きなの」

「おとなもたいへんなんだ…」

「ふは、そうだよ。大変なの。あんたもそのうち分かるよ。…分からないほうが良いけどね」


 何かを察して訝しげに呟いた紅葉を面白く思って、つい幼い頭に手を置いた。

 子供は苦手な桃だったが、不思議と嫌いになれないのは紅葉の持つ愛嬌故か、はたまた相性的なものが良いのか。

 そばで見ていた椿は静かに微笑んで、気を取り直して途中経過を確認していく。


 大学生チームは桃が不在の中、渚は料理をシェフに任せてお菓子作りを始め、樹希は味見担当として料理してる傍ら、出来上がったそばから食べていった。


 楓たち社会人チームは、仲良く三人で調理の最終段階まで進めていく。


 そうして、全ての料理が完成した。


「やっと食える。遅いよ、あんたら」

「…そもそもあなたは審査員じゃないんだけど?」

「細かいこと気にしてたら老けるよ?」

「っ…ね、年齢のことは触れないで。デリカシーのない、もう…」


 横柄な態度の桃にため息をついて、椿は目の前に並べられた料理に視線を落とす。

 社会人チームは和洋中で揃えた家庭料理を、大学生チームはシェフの作ったフルコースと、


「マカロン…!」


 渚が暇潰しがてら作った色とりどりのマカロンを見て、椿は感嘆とした声を上げた。

 大好物である甘味を前に、自分が審査員であることも忘れて、早く食べたい…!とウズウズしてしまう。この時点で、渚の思惑はほとんど成功したと言ってもいい。

 紅葉や桃も空腹で仕方がなかったために、椿の意図も汲んでさっそく試食を始めた。…各チームも、参考までに相手側が作ったものを食べ進めていく。


「んん〜…!マカロンおいしい〜」

「……あんた仮にも審査員なんだから、他のやつも食べなさいよ」

「ん。…ご、ごめんなさい……私ったら、夢中になって…」

「…あたしマカロン嫌いだから。あげる」

「え!いいの?ありがとう…!」


 よほど好物なんだろうことを察して、自分の前に置かれたマカロンをひとつあげてみれば、椿は無邪気な笑顔で桃の手を握った。

 距離感の近さにも、大人びた雰囲気のわりに子供っぽい表情にも呆気にとられて、言葉を失う。


「あなた、お口悪いけど良い人だったのね…!」

「……ふっ、はは…っマカロンあげただけで、大げさな」

「マカロンくれる人に悪い人はいないもの」

「く、ふはは…っ。詐欺とか気を付けなね?」


 驚くほど単純な椿に、表情管理さえ忘れて吹き出した笑った桃を見て、驚いたのは渚だった。


「珍しい……桃があんな風に笑うなんて」

「桃……あぁ、あの小悪魔っぽくてかわいい子っすか」

「うん。…案外、お義母さんみたいな年上の人の方が話しやすいのかもね。桃、ああ見えて頭いいし大人だから」

「……ずっと気になってたんすけど、あの人が母親ってまじっすか?見た目若すぎて信じられないんすけど…」

「ほんとにね、私も未だに信じられない」

「い、いくつなんすかね」

「んー……年齢は伏せるけど、皆月さんが二十五歳だから、少なくとも…逆算したら分かるよ」

「二十五足す、最低でも十……え。やば。30代前半くらいと思ってた…」

「若いよね」

「うん。とてもじゃないけど二児の母には見えん」


 驚愕しながら樹希は優奈の作った肉じゃがを口に含んで、あまりの美味しさに口元を綻ばせた。


「やっぱ優奈ちゃんのご飯が一番うまい」

「私は皆月さんの料理が一番かな」

「そうっすよねぇ……彼女の手作り料理に勝てるもんはないっす」

「はは、分かるよ」


 渚と樹希が仲良く惚気ている中、楓達は大学生チームの用意した⸺正しくは桃が雇ったシェフの作る料理を口にして、それぞれ感動していた。


「わ、おいしい……これ、調味料なに使ってるんだろ…」

「ん…!そういうの気になっちゃうよね〜、わたしも同じこと考えてたからうれしいな?」

「やっぱり考えちゃうよね…!よかった、わたしだけじゃなくて」

「うんうん、おうちでも作れないかな?とか思っちゃう」

「わかる…!でもこれはさすがに、家で作るの難しそう……深澪さんはどう?この料理…」

「…天海の作った料理のがうまいな」

「え、もしかして深澪さんもお付き合いしてる人いるの…?」

「うん。…人じゃないけど」

「?」


 あまり大っぴらに言えない深澪が小さく呟いたのを、楓も優奈も首を傾けて不思議に見つめた。

 料理スキルがプロレベルになりつつある天海の和食ばかり食べている深澪は、慣れない味にあまり心奪われなかったようで、自分の剥いたりんごをかじって口直しする。


「深澪さんの包んでくれた餃子も…おいしい」

「……ん、よかった」

「ねぇ優奈ちゃん、さっきからそいつと距離近くない?」


 ふたりがそばで話してるのを見て、いよいよ我慢できなくなった樹希が優奈の肩を抱き寄せて、深澪を睨みつけた。


「ちょっと背が高くてイケメンで料理もできる優女だからって調子乗らないでくださいよ、深澪さんとやら」

「……ん?褒められてる?」

「うん…樹希さん、今のは褒めちゃってたかも」

「貶すとこないの悔しいっす…」

「ふふ、かわいい」


 素直に負けを認めて項垂れた樹希の頭を撫でつつ、果物を食べさせて宥める。

 そんな風に大人達が和気あいあいと食事を楽しむ中、ひとり。


「…これあんまりおいしくない」


 紅葉だけは真剣にひとくちずつ吟味しながら食べて、プロの料理だけは食べ慣れない味だったからか不満げな顔を浮かべていた。

 それを横目で見ていた桃は、冗談半分呆れ半分に鼻で笑う。


「はっ…お子ちゃまにはまだ分かんないか」

「……ひんにゅうのお姉さんにはわかるの?」

「ガキ、今なんつった?」

「ふたりとも、喧嘩しないの」


 バチバチに睨み合ったふたりの間に割って入った椿は「まったく…」とため息をつく。

 

 そして、全員で料理を食べ終わった頃。


 いよいよ、審査に入った。


 第一審査員である椿は、


「マカロンおいしかったから、こっち!」


 まんまと大好物につられて大学生チームの札を上げた。

 お義母さんならそうなってるくれるだろう…という思惑通りで、うんうんと渚は満足げに頷いた。桃は呆れ果て、もう言葉も出ない様子だった。


「もみじは、こっち!おうちのご飯みたいでおいしかったから」


 次に紅葉は、社会人チームの札を上げた。


 見事に評価が割れ、両者引き分けかと思われたが……ここで、桃へと全員の視線が集まる。


「え。なに」


 自分はただ面倒だから審査員席に座っていただけで、本当に評価を下すつもりではなかった桃は、何かを訴えかけてくる両チームの視線にたじろいだ。

 だけどすぐ、まぁこの判決の仕方で審査員ふたりは無理があったよね…と、自分が勝敗を決めるため札をひとつ手に取った。


「……こっち」


 正直に、心が思うままに上げたのは……社会人チームの札だった。

 てっきり自分のチームに入れると思っていたほとんどの人間は驚いて、ただひとり渚だけは予想できていたのか苦笑していた。


「…誰かの作ってくれた平凡な手作り料理のが、うまいに決まってんじゃん」

「ほんと……愛情に飢えてるね、桃は」

「う、うっさい。プロには悪いけど、料理に大事なのは技術より気持ちだから」


 普段のキャラからは想像もつかないピュアなことを、頬を赤く染めて唇を尖らせて控えめに呟いて、照れ隠しなのかフンと高飛車に腕を組んだ。


「し、庶民には分からないかもだけど、毎日高いもんばっか食ってても飽きんの。ほんとそれだけだから」

「……今さら遅いです、桃さん」

「っ…も、もう勝負はついたんだから、さっさと帰るよ!」

「ははっ、素直じゃないなぁ〜…ほんと」


 テーブルを叩いて立ち上がり、その場を去った桃に続いて渚も歩き出す。


「せっかくだから…賞金の五万円で、みんなでお疲れさま会しよ?」

「いいんですか…?」

「うん!」


 渚の腕に飛びつきながら、楓も後に続いた。


「それなら、わたしも出そうかな…」

「よっし!人の金だし、たらふく飲もう!」


 優奈と肩を組んで、ノリノリな様子で樹希達も出ていく。


「……すみません。こんな事に巻き込んで」

「あ、いえいえ…そんな」

「お詫びに、これ…」

「いやいや……報酬はもういただいてるので…」

「私があげたいから。受け取って」


 貰った賞金はそのままシェフに渡して、深澪はさっさと帰って天海に癒やされたい…と飲み会には参加せず帰宅した。

 残されたシェフは深澪の優しさにキュンとしつつ、イケメンなら女もいいかも…なんて心揺れ動きながら、なんとか自分を律してその場を後にした。


「みんな帰るのはいいけど……後片付けどうしようかしら」

「なんか、あとはすたっふ?がやるって…さくしゃが言ってた」

「あら、そうなの?じゃあ任せてもいいかな…」

「うん!かえろ、お母さん」

「そうね。…行きましょっか」


 親子ふたりが手を繋いで出て行って、お料理対決は静かに幕を下ろした。


 この後に行われた飲み会については…また後日、機会があれば執筆しよう。
























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百合の迷路 小坂あと @kosaka_ato

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