第7話 第四の訪問者 未登記建物前編

 やっと屋外も寒さがやわらぎ、春の暖かさを感じられる頃となった。

 朝10時に事務所のシャッターを上げると一人の上品なご婦人がすでに待っていた。


 「私は北村と申します、あの、予約してないのですが大丈夫ですか?」


 今日は午後まで予約はないから大丈夫だ、午前中はゆっくりカクヨム訪問と更新するつもりであったが業務優先、カクヨムの仲間たちも許してくれるだろう。


 「大丈夫ですよ、どうぞお入りください。」


 事務所に招き入れてソファを勧め、おっと、白折を切らせている。

 武尾くんに買ってきてもらうつもりだったのでやむなく武尾くんのハーブティーを拝借することにした。


 「あ、ローズマリーですか?いい香りですね。」お客様が褒めてくださった。武尾くんにはその旨伝えておこう。


 「それではお話をお伺いしますね、北村さん、本日はどのような相談ですか?」


 「実は広島県の北部の父の実家の土地建物の相談なんです。」


 これは相続放棄か相続土地国家帰属制度の相談だな。とピンときた。


 「詳しくお話をお聞きしましょうか?」


 「実は夫と私には子供がいません、遺言書はそれぞれが作り、お互いの財産は残った方が相続するという話はできているのですが、そこで問題になったのが広島の土地建物なのです。」


 「その不動産の名義人はどなたですか?」


 北村さんは少し間をおき、ハーブティーを一口すすってから口を開いた。


 「土地祖父のものです。」


 少し奥歯にものが挟まったような言い方だ、こういう時はえてして困難な問題が潜んでいるものだ。


 「は、ということは建物の名義はどなたなのでしょう?」


 「そ、それが、登記がのです。」


 これは考えられうる中で最悪のパターンである。いわゆる未登記建物問題である。


 これがなぜ最悪なのかというと「建物を原始取得した人」が特定できないからである。

 登記があるなら数次相続であっても面倒だが辿ることはできる。

 しかしそこには登記そのものがないのだ、ということは建築確認などもなく勝手に建てられたものの可能性もある、また建築だけして表題登記すらしてない建物、実は日本にはかなりの数の未登記建物があり社会問題となっているのだ。

 この未登記建物は解体業者も二の足を踏む、下手をすると民事訴訟だけではなく器物損壊罪、刑法犯にもなりかねないからだ。


 土地が祖父のものだから普通、建物も祖父が建てたのだろう、という推測は使ってはいけない。不動産は土地と建物は厳格に別物とされており底地に借地権付きで建物を所有する例など掃いて捨てるほどある。


 これはそうとう突っ込んだ調査が必要である。とても午前中で終わりそうにないので北村さんにはできる限りの資料を集めるようリストを渡し、後日出直してもらうことにした。未登記建物、テキトーは許されないのだ。

 後編に続く

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