第53話 面白く無い話の行方
「そうとも言えないとは――どういったことなんですか?」
私がそう訊くと兄が「うーん、どう言ったら分かりやすいかな……」と、悩むような声が聞こえ、小さく咳払いをしてから兄は話始める。
「現在、王国内の派閥争いというのは非常に複雑で混沌としているのは二人とも知っていると思うんだけど、複雑化してしまったのは現在の王が王権派とは随分思想が違い、どちらかと言えば貴族派閥――特に改革派に近い。最近は王権派でも意見が分かれているところではあるが、王権派閥の貴族というのは多くが保守的で大きな変化を嫌う傾向にある」
それを聞いて私と姉は「まぁ、そうでしょう」と、いう雰囲気で話を聞いていた。この派閥争いは魔王軍との戦いを行っていた頃からずっと存在するわけだが、当時は共通の敵がいたおかげで派閥争いといっても、派閥の数は多くなく複雑さはそこまで無かったが、現在は非常に複雑怪奇なのは確かだろう。
しかし、ニーディル公爵は改革派急先鋒でシェセスタ公爵家は王家絶対の派閥重鎮であるのは確かで、普通に考えれば王権派閥の重鎮が消えればニーディル公爵には利しか無いと思うが、兄が説明するのに困るほどの何かがあるのか。
「フィスパー伯爵家は立場的にはシェセスタ公爵の腰巾着と化していることで王権派と思われていることが多いのだが、過去を見るとニーディル公爵家に付いている時期もある。それだけで無く、様々な派閥に顔を出しているのだ。故に蝙蝠貴族と言われている要因だが、正直そこはどうでもよいのだ。最も問題なのは古くからニーディル公とシェセスタ公は仲が悪い。特に魔王軍との戦いが終わってから、隣国との国境紛争はあれど、国内では内戦や紛争は基本的には無い――と言いたいところなのだが、両公爵家だけは数年おきに紛争を起こしている」
「と、いうことは――フィスパー領は緩衝地帯なのですね」
私がそう言うと兄から「正解、イリーナは偉いね」と、褒められたわけだけど、どこか褒められているような気にならないのは気のせいだろうか。
「そして、問題なのはシェセスタ公爵が反乱となった場合だ」
「なるほどね、フィスパー伯爵はシェセスタ公爵陣営に入らざるを得ない何かがあるのね。そして、そうなるとニーデイル公爵は不利な立地にいて、面倒事の最前線となるわけね。ま、南方は戦乱の種が沢山落ちているものね」
と、我が姉がどこか楽し気に言う。南方――ここで出て来る南方というのはたぶんだけど、南方辺境地域の各領を巻き込んだ内戦になる可能性がある。と、いう感じだろうが、ニーデイル公爵がもっとも警戒しているのはたぶん、シェセスタ公爵では無く、南方のティパレス辺境伯を含めた王権派の反乱では無いだろうか。
「で、結局のところ何が面白いのかしら?」
我が姉は少し呆れた雰囲気でそう言うと、兄が「え?」と、素っ頓狂な声を上げた。
「え?」
私も思わず声にしてしまう。我が次兄よ、話の落ちはどこに放り投げたのだ。
「うーん、面白く無かったかい? でもさ、フィスパー伯爵家から見ても今回は確実っぽい話らしいから、これから各派閥の貴族達が激しく動き始めるのは確実で、状況――と、いうか、たぶん反乱軍への派兵という話になれば第二王子の第三騎士団が出るだろうね」
兄は楽しそうに話しているが、さらに楽しそうな話から遠ざかって行っているのだけど、果たして楽しいのか姉の方を見ると小さく苦笑されてしまう。
しかし、勇者の称号を持つ王子が討伐に出る――か、その勇者とはどれほどの力を持っているのやら。たしかにアレは戦いという点において強かったのは事実だ。私達のパーティーは十三人のメンバーがいたが、その中でも最も強く、英雄の加護を持っていてもおかしくない男だったが、アレは加護を持っていないと言っていたし、女神も加護を与えたとは言っていない。謎の人物ではあったのだが。
「私は知らないけど、その第二王子と第三騎士団は強いの?」
と、姉は獲物を見つめるような視線を兄がいる場所へ向ける。その気配を感じたのか、兄は「我が妹は戦闘狂か?」と、言いながら小さな溜息を吐いた。
「まぁ、そこらへんの騎士よりも強いよ。魔法は不得意のようだけど、全く勇者とは何なのだろうね」
確かに兄の言う通り、今の
「そういえば、イリーナ。気になっていたのだけど、称号と加護は違うのかしら?」
と、姉は自身でも知っているであろう事を私に訊いて来るのであった。
勇者マストダイ! ―勇者の事は絶対に許しません!― もいもいさん @moimi0055
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者マストダイ! ―勇者の事は絶対に許しません!―の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます