そして美しく

「コンペの結果だけども」



 会議室、ミオとヒメが相対して座る中で狩谷が少し間をおいて、無感情に報告を行う。



「今回は、ベースを岩永さんの案。部分的に鳳さんの案も取り入れる形となった」


「部分的、ですか」



 ミオが聞き返すと。「そう」と、狩谷が続ける。



「クライアントとしては実数値でのインパクトが欲しいらしいから、少々乱暴ではあるものの基本的に岩永さんのプランを採用。ただ現地に住む人々の生活を考えると果断即行というわけにはいかない。住民に配慮しつつも徐々に開発させていく必要があると判断し、二人の案のいいとこ取りでまとまった。折衷案というところだね」


「どっちつかずともとれますが」


「それは考え方一つだよ」



 ヒメの皮肉は一蹴され、形式的な話は続く。



「で、プロジェクトリーダーの件だけど、ベースになった方の岩永さんに任せたいと思う。鳳さんには申し訳ないけれど……」


「いえ、そもそも私が最初に言った事ですから」


「そういっていただけるとこちらとしても助かるね。プロジェクトには引き続き参加してもらって、岩永さんをサポートしてほしい」


「私はサポートなんていりませんが」


「……君ねぇ。そういう言い方はないだろう」


「生憎と社交辞令などは苦手でして」


「いいですよ、別に。私は私の仕事をするだけですから」


「そうしてください。せいぜい、足を引っ張らないようにお願いします」


「なんでそう憎まれ口を叩くかな」


「本心を述べたまでです」



 辟易として様子の狩谷に睨みつけるもどこ吹く風。ヒメは彫刻のような顔立ちで、すました顔をしており、ミオはただ、微笑みを浮かべているだけだった。


 河川敷での一件以来、二人の関係性に変わりは見られなかった。ヒメはミオに突っかかり、ミオがそれをあしらうという構図。会議があれば悶着を起こし、周りを疲弊させる日々。これから本当に一緒にチームとしてやっていけるのだろうかという周囲の不安は募る一方だった。

 だがそれはあくまで周囲の目から見た二人の姿である。

 



「リーダーはお任せしますね、岩永さん」


「……」



 手を差し出すミオ、そして、ヒメはそれを握り返す。




「まぁ、もう少しだけ貴女の愉快な顔を見せてもらいましょう」


「私も、貴女の性格の悪さを観察させてもらいますね」



 薄ら笑いを浮かべ握手に力を入れていく二人。その光景を狩谷は黙って見守り、冷や汗を流した。




「よろしくね、不細工」


「こちらこそ、性悪」




 罵り合うミオとヒメ。互いの手と手は硬く、強く、長く結ばれていた。

 そこには苛立ちがあった。嘲りがあった。羨望があった。妬みがあった。そして、奇妙な絆と友情があった。ドロドロとした感情の中で輝く一縷の光が垣間見えていた。


 真の美しさとは、醜さの中に生まれるものなのかもしれない。

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