最終話 反日支持不明者はもう帰らない

 海斗は一心に机に向かって筆を進めていた。


ゲル「おっ、ついにやる気が出たのか、どれどれ」


 ゲルは、海斗の背中越しに机の上に開かれた死神手帳に書かれている内容を見ていた。その内容はゲルの想像とは大きく違った。


ゲル「これは何だ?」

海斗「想像と違ったか。でも、これでいいんだ」


 海斗が死神手帳に書き綴っていたのは、死の状況ではなかった。そこには、各政党の情報にアクセスして手に入れた名簿から有力な人物を選び出し、その者が見舞う出来事が記されていた。選び出された者の特徴は、経営者や重要部署・役員などだった。彼らが関連する仕事をSNSで調べ、架空の取引や誤った情報、詐欺被害などに陥る者であり、死神手帳で直接命を奪うモノではなく、破滅させ、大きな借金や破綻を背負わせ、活動をできなくするものだった。被害者の中には将来を悲観して自ら命を絶つ者も少なくなかった。世間がざわつき始めた。経済的事件が多発し、その多くの共通項が政権批判で有名な人物であることがマスコミで拡散された。その数は半端なく多かった。海斗は積極的に立嫌民臭党・日本強酸党・零倭新鮮組の会合に出席し、中心人物や金を出している者を次々に調べ上げ、次々に不幸を背負わせていった。

 そこには多くの式神が動員されていた。式神を使うには死者の精神が冥界(ドゥアト)へ入るための呪文「エロエムエッサイム」と執事の判断で式神を選び、動かすものだった。海斗が導くのは死者ではなかった。執事の判断を死神メフィに頼み、肩代わりさせて貰うことを承諾させていた。海斗は閻魔大王に要望を伝え、それを受け、閻魔大王は式神を疫病神と行動を同じくさせて、不届き者たちを容赦なく成敗していった。その成果は、徐々に世間をざわつかせていった。あの党や関係者と関わると不幸が舞い降りると噂が噂を呼び、政党の文字さえも嫌われ始めて行った。ひ弱な政党は名前を変えるが、全く効果はなかった。一般社会生活の中で、立嫌民臭党・日本強酸党・零倭新鮮組などに関わった者は、常に明日は我が身かの恐怖に脅かされていた。関わらなければ人畜無害であることも同時に広がり、SNS上では反日支持者への暴言は納まりを知らなかった。

 勿論、与党であれど関係はなかった。他国と関係を持ち、正当な理由なく肩を持つ者も成敗の対象者となっていた。土壌汚染や大火の原因、防災無線を無効にし、人命を自他ともに危険に晒す国内製以外の太陽光パネル推進者や団体も含まれていた。

 TVや報道機関も例外ではなかった。実際の人気や情勢を反映せず、ゴリ押しする経営陣も次々と粛清されていった。歴史にそぐわない誤報や考えを流す企業もターゲットになっていった。毎朝新聞は、購読者を激減され、新聞事業の存続さへ出来なくなり、配管の道を探り始めていた。テレビ局もスポンサー離れが加速し、缶酷企業の要望が通らなくなっていた。それは缶酷は悪者との印象操作にも発展し、日缶関係は悲惨さを増していった。

 不法滞在者に対し、警察は圧力に屈することなく、国費の力も借り、疑わしくは罰すると考えを改め積極的に強制送還を実行していった。外国人優遇の処置の多くが見直され、貧困や高齢者のために公団住宅は使われるようになり、外国人による自治会は解散させられ、住居人も全体の10%を超えないとし、本来の日本人救済のために使われるようになった。それを受けて役所などの判断も遠慮することなく、法に従って機能し始めた。それでも意義を申し立てる団体や組織が現れるが、表沙汰になった団体・組織の有力者が不幸に陥って行った。自由な発言が日本ではできないとマスゴミが騒げば騒ぐほど信頼を失うという異常な雰囲気が日本で起こっていた。

 番組の内容によってはスポンサー批判がなされ、不買運動も起こることもあったが、政府はあくまでも製作者の問題であり、スポンサーではないと表明し、暗にスポンサーの番組内容への関与活動の抑止に勤めていた。NHKの体制も見直され、従事者の給与の上限はBBCに準ずるとし、勇士者のみで本来の形の放送局となった。オリンピックや大型誘致の費用は国家予算の範囲で賄われるようになった。

 これらの動きが日本に浸透し始めた頃、粛清の嵐はピッタトと止んだ。異常な区別が蔓延しすぎないほどよい匙加減で粛清ブームは落ち着きを取り戻していた。可笑しな動きや緩みが発生すれば再び嵐が吹き荒れる雰囲気を残して。

 海斗は魂界の者に働きかけ、高齢者がワーキングシェアできやすくし、労働益には税金を掛けない制度や子供に関して犯罪歴・非行歴がない場合は、成長に必要な金額を国費で賄う制度を樹立させた。同時に自国民で運営できない高校や大学への補助金を打ち切り、廃校に追い込んだ。口座や役所の届けは国民番号で管理し、戸籍は戸籍として運用させた。いわゆる通名で処理し、手続きの簡略化を成し遂げた。子供に関してその人数に対し、税額が軽減され、富国強人を目指した。海斗は、この国の在り方を見守るため、これからも暗躍する形で生き延びる決意をしていた。

 海斗は、拘束島に出資してくれた企業に支えられていた。拘束島には、粛清された者が追い込まれ、行き場を失った者が今は収容されている。逃げまくる彼らからすれば天国のような場所になっている。インスタントだが食事はある。雨風も最低限凌げる。島内での自由も。海斗たちは拘束者の反乱に注意し行動していた。島には遠く離れた場所に船を停泊させ、空気ゴムマットに荷物を載せ、紐を島に打ち込み、それを拘束者に回収させる方法を取っていた。投石などの攻撃を受けないためだ。反乱を起こせば食料の中断を行うことは伝えてある。拘束島は定員の二倍になっていた。

 海斗は、島内の派閥や争いを野党の縮図としてデータを取っていた。本土への帰還者はいまだにゼロであり、今後もないだろう。そう、誰もこの島からは出られない。仮釈放なしの無期懲役と同じであった。

 

ゲル「つまらないなぁ。この国は良くなったようでも新たな問題も抱えることにな

   る。その時にはドキドキするような粛清を望みたいね」

ギル「そうならないことを願うよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

警死庁死霊課粛清係(死神手帳) 龍玄 @amuro117ryugen

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ