第44話ご飯

刺繍の教室に着いた。自由に席を座って良いらしいので、最後尾の端の席にした。

やはり端が一番だ。リンも私の隣に座った。できたら端っこは譲って欲しかったが仕方ない。しばらくすると、ドタバタと騒がしい音が聞こえてきた。


「お姉ちゃん、お待たせー!」


そう言いながら走ってきたのは優子だ。優子はそのまま私の左隣に座った。そしてそのまま抱き付いてきた。まぁ別に抱き付くのはいいんだが、大勢の人が居るところでするのはやめて欲しい。

周りの視線が痛い。リンからの視線もすごく痛い。なんか手をワキワキしてるし、目が危ないし、少し怖い。

そんなリンだったが、正気に戻ったのかコホン、と咳払いをして私に向き直った。


「ユウカさん、この方は?」

「私の妹のユウコだ。優子、挨拶して」

「うん! 初めまして、カンズ公爵家次女、ユウコ・カンズと申します。以後お見知り置きを」

「私の名前はリン。冒険者をしているわ。よろしくね」


ユウコがお嬢様してるとこ初めて見たな。私に対してはアレだが、やはり公爵令嬢としての自覚はあるみたいだな。


「それにしても、貴女がユウコなのね」

「なになに? 私のこと知ってるの?」

「カンズ家のユウコと言えば、平民にも分け隔てなく接してくれることで有名なのよ」

「えへへ〜、当たり前のことをしてるだけだよ〜〜」


割とそうでもないみたいだな。でも、優しい子として人気なのか。だったら別にいいか。


「リン、おまたせ」


そうこうしていると、一人の女の子が現れた。リンと比べて小柄な茶髪の女の子だ。名前はアッシュデュ、略してアッシュ。私の弟子のうちの一人で、次期賢者だ。


「そこの二人は?」

「一人は同じクラスのユウカ・カンズさんで、もう一人はユウカさんの妹のユウコ・カンズさんよ」

「リンが他の人と関わるなんて、意外ね」

「どういう意味よ」

「言葉通りよ。二人とも、リンが何か迷惑とか……」


言いながら私達を改めて見たアッシュの動きが突然止まる。口をパクパクと動かして、リンと私を交互に見ている。まぁ、言いたいことはわかる。


「久しぶりだな、アッシュ」

「え、シンさん……なんで?」

「色々あって来た」

「そう、わかったわ。深くは考えないでおくわね」


アッシュが優子の隣に座り、先生が入って来た。そして刺繍の授業が始まった。どうやらこの授業で一つオリジナルのハンカチを作ることが課題らしい。糸は各自で用意するらしいので持っているものを使う。

ふむ、どういうのにしよう。白をベースにして、薔薇を飾ってみるか?

うん、シンプルだしそれが良さそうだ。

私は糸を縫い合わせ、イメージしたハンカチを作っていく。数秒後、ハンカチが完成した。よし、一応課題クリアだ。


「え、お姉ちゃんもうできたの!?」


私が出来上がったハンカチを眺めていると、優子が目を丸くして尋ねてきた。まぁ確かに自分でも早いと思うが、あまり大きな声を出さないで欲しい。何事かと見られているからな。


「優子、静かに」

「あ、ごめん」

「ユウカさん、相変わらずね」

「そうね。私に魔法を教える時も普通は苦労するはずのものをポンポンと出していただけあるわ」


やめろ二人とも。私をそんな目で見るな。できてしまうんだから仕方ないだろう。

それから私は黙々とハンカチを作っていった。五百枚ほど作り上げた所で、授業が終了した。

刺繍の授業が終わり次は昼休憩だ。食堂で食べるもよし、自分で持ってくるもよしで結構自由だ。なぜか自分で作ってもいいらしいが私は持って来たサンドウィッチを食べるつもりだ。

リンとアッシュは食堂で食べるらしいのでここで別れた。

今は優子と一緒にご飯を食べるのに最適なところを探している。理想は誰もいない所だが流石にそんなところはないので、中庭のテラスで食べることにした。

スマホのメールで兄さんに現在位置を伝えておく。

そう、スマホだ。以前二人が私を探していた時に使っていたスマホが気になったので作ったのだ。

兄さんが使ってたのはスマホ型魔剣というスマホにもなるし剣にもなるものだったようだが、私が作ったのはスマホ型魔導銃だ。

これはスマホにもなるし魔力を込めることで弾を装填できる魔導銃にもなる代物だ。

私は手加減があまり得意ではない。普通に戦う分には大丈夫なんだが、感情が荒ぶった時は力をうまく制御できない。

バラキエルと戦った時も、感情が荒ぶり力が制御できなかったので森が消滅した。それに留まらず他の国にまで影響が及んでいたらしい。とりあえず森は修復したし他の国への影響、主に魔物の大発生なんかも解決することができた。

まぁそんな感じで、感情が荒ぶると最悪世界が滅ぶのでこうしたものは必要なんだ。

実際旅をしていた時に感情が荒ぶり世界が消えたので本当になくては駄目なんだ。まぁ、流石にこの学園で使うことはないだろうがな。


「二人とも、待たせたな!」

「もうお兄ちゃん遅いよー!」

「悪い、なんかめっちゃ話しかけられてな」


ようやく兄さんが来たようだ。兄さんも席に座り、三人でご飯を食べる。私は先ほど言った通りサンドウィッチで、兄さんが焼肉弁当、優子がおにぎりだ。

実は今日の昼食は私が作ったものだ。私は少食で、屋敷の人が用意したものでは食べきれない可能性がある。

なのでどうせならと私が全て作ることになったわけだ。

屋敷の人にも味見をしてもらい納得してもらった。弟子にして欲しいと言われてしまったので空き時間に教えることにする。


「うめぇーー!!」

「うっま……」

「ふふっ」


自分の料理を褒めてもらうのはとても嬉しい。二人が喜んで食べてくれるところを見ると、自然と笑顔になってしまう。

私も自分のサンドウィッチを食べる。美味しい。

もう何万年も感じていなかった感覚が、今でははっきりとわかる。

今までは味は美味しいがなにか満たされない感じがしていた。でも今は、胸がいっぱいになるほどの幸福感を感じることができる。

やはり家族と一緒に食べるご飯は、とても美味しいんだ。

昼食を食べ終われば自然と雑談に花を咲かせてしまう。


「いやぁ乗馬の授業の時にさ、すげえ奴が二人いたんだよ」

「へぇ、どんな?」

「一人はドルージバって言ってよ、冒険者をしてるらしいんだ。で二人目は雅彦まさひこって奴で、なんか異世界から来た勇者らしいぜ?」

「勇者!? やっぱりいるんだねぇ……」

「しかも異世界からから来たらしいぜ、もしかしたら同じ世界かも」

「うーん……でも私達は過去から来た感じだから異世界とは違うよね」

「あぁ……それもそっか」


なんか、ラノベであるような展開になって来たな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

孤独を愛する神様 呂色黒羽 @scarlet910

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ