第43話二度目の学園生活

天使との戦争から数日が経った。そしてなぜか私は今優子と兄さんと一緒に馬車に乗っている。なぜ、私はここにいるんだろうか。

全てはあの日、兄さんが私を帝国の学校に誘ったのが始まりだった。

帝国の学校、正式名は『マルール学園』。人間の国の中で随一の学園であり、他国からの留学生が数多く在籍しているエリート校だ。

この学園を卒業すれば将来安泰と言われており、私の五人の弟子や勇者の雅彦まさひこ達もこの学園にいる。

まさか私が人間の学園に入る事になるとは……。はぁ、憂鬱になってきた。

学園に入るにあたって制服や文房具などを買った。私は一応編入という形になり、二年生に入る事になる。兄さんが三年で優子が一年生だ。

この学園は五年生まであり、二十歳まで勉強できるらしい。大学と高校が一緒になった感じだな。

そしてここで一つ問題がある。それは、知り合いが多数在籍している事だ。その中でも弟子五人はかなり危険だ。

五人とも私の顔を知っているからバレる可能性がかなり高い。そもそも何であの五人が学園にいるのかと言うと、アッシュとダヴィは次期賢者と次期騎士団長としてのコネ作りで、ブラトも経営拡大のためなので似たような理由。

冒険者の二人は教養を養うために冒険者の仕事を休業して勉強しに来ているらしいのだ。

冒険者のシンとして活動している時に手紙で知らされているので間違いはないだろう。

そんなわけで、このままの姿でいけば100%バレる。だから私は変装する事にした。変装と言っても、シンの時のようなガッツリとした変装ではなく、髪色と目の色を変えるだけの簡単な変装だ。

今回私が編入する時に使う設定は、病弱で外に出られなかったカンズ家の長女となっている。なので優子達と同じ髪と目の色にすればいいわけだ。

髪と目を漆黒にする。人間だった頃の私と同じ姿だ。

それで制服を着込んだら完成。二人と並んでも違和感とかはないな。

この制服を着た時、優子は「またお姉ちゃんと学校行ける……」と泣いていた。別に泣く程のことでもないと思うが……まぁ、私もちょっと嬉しかったりする。

学校に編入するにあたって、私はカンズ公爵家の屋敷に住む事になった。

使用人には今まで他の所にいた病弱な長女として紹介された。だがさすがに古くからいる人にはバレるので、その人には事情を説明した。

案外物分かりが良かったから非常に助かった。

さて……現実逃避は終わりにしよう。

馬車が学園に着いたので降りて外観を確認する。

マルール学園の校舎は白を基調にした清潔感溢れるものだ。

そしてとても大きい。普通の高校の二倍はあるぞこれ。校舎の大きさもすごいが、敷地の大きさもすごい。

城の庭と言われても気付かないぐらい広い。敷地内には門から見える限り訓練場や闘技場、宿泊施設などがある。

二人と共に校舎に入り、渡された地図を見ながら自分のクラスに行く。二年S組と書かれた教室に着いた。とりあえず中に入る。

中には数人の人がいた。思ったより少ない。

あ、ブラトとリンがいる。こっちには気付いていないようだ。よし、このまま気配と足音を消して指定された先に座ろう。

二人に気付かれないように私は自分の席に着いた。最後尾の窓側、これほどいい席はないだろう。

しばらくすると一人のお爺さんが入ってきた。ドワーフと見紛うほどの髭を生やした背の低いお爺さん、現賢者その人である。

あの柔和な笑みに騙されてはいけない。奴は私が初めて王城を訪れた際開口一番に魔法をぶち込んできたヤバい奴だ。

この学園で働いていたのは知っていたが、まさか私のクラスの教師だったとは。……最悪だな。あいつの授業がまともなはずがない。

きっと朝から晩まで魔法の研究に付き合わされるんだろうな(実体験)。

まぁさすがに気配も消してるし、私に気付くことはないだろうな。あの二人も同じだ。だから私に気付くなんてことは絶対にな———


「さっそくだけど、新入生を紹介しようか。新入生は前へ」


………前に出るか。

私は気配を出して前に出る。何人かの息を飲む声が聞こえる。弟子二人がこちらをガン見しているがとりあえず無視だ。


「自己紹介お願いね」


スカートの裾を摘んでお辞儀をし、そのまま自己紹介をする。うん、二人の目が見えなくていい感じだ。


「カンズ公爵家の長女、ユウカ・カンズと申します。本日から、よろしくお願いします」

「うん、ありがとう。僕はこのクラスの担任のワイズマンっていうの。ぜひ頼ってね。あ、席に戻っていいよ」


ワイズマンに促さらたので席に戻る。さっきからこっち見てる二人、そろそろ見るのやめようか。

私が席に着くのを確認したワイズマンが授業を始める。やはり魔法の授業らしく、さまざまな魔法についての歴史や効果について語られていく。普通の人からしたらとても貴重な情報で、ためになる話なのかもしれない。

でも私にとったら、つまらないことこの上ない時間だ。

そもそも魔法やスキルを創ったのは私だ。それ故に魔法の効果は全て把握しているし、魔法の歴史についても冒険者のシンとして活動している時に全て知ったので今更説かれても意味はない。

みんな必死にノートに書いているようだが正直、書く気になれない。

そのまま授業は終了した。途中で当てられましたが、歴史や魔法の効果などを事細かに説明することで対応した。

ワイズマンや他のクラスメイトは驚いていたが、所詮人間の短い歴史だ。答えられない方がおかしい。

魔法の授業が終わり、次の授業に移る。

次の授業は男子は乗馬、女子は刺繍らしい。この授業は学年混合で行われるらしく、私のSクラスは他の学年のSクラスの女子と合同らしい。

とりあえず移動するか。

席を立ち、私は移動するべく歩き出した。だがその歩みを止める影が一つ。


「ユウカ・カンズさん、一緒に行っていいかしら?」

「………いいですよ」


ニコニコと笑うリンと共に、私は刺繍の教室に繋がる廊下を歩く。人がまばらになったところでリンが耳元に小声で話しかけてきた。


「シンさん、何してるの?」


……やっぱりバレてたか。まぁ顔も見られてるし、バレるのは予想していた。


「別に。ただ家族に誘われただけだ」

「へぇ……シンさんってカンズ家の人だったんだ」

「まあな。あとリン、ここではユウカと呼んでくれ。シンだと誤解を招く」

「わかったわ、ユウカ」


そんな感じで、私の二度目の学園生活が幕を上げた。上げてほしくなかった。

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