第三章 ウサ子とわたしとわたしのなまえ

場所 白い空間


※※※


ウサ子「いそげ、いそげ、ウサウサいそげ、いそがないと、いそがないとね」

わたし「うさぎはぴょんぴょんじゃないの?」

ウサ子「ウサ子はウサウサ。ブヒはブヒブヒ。ブウ子はブコブコ」

わたし「どういうこと?」

ウサ子「そういうことになっているんだウサ」


ウサ子、ぬいぐるみのような手でわたしから鍵を受け取る。


ウサ子「ここからさきは、あなたひとりで行くウサよ」

わたし「どこへ?」

ウサ子「あたらしいとこウサ。自由なところウサ」

わたし「あたらしいとこって、なあに」

ウサ子「それはウサ子にもわからないウサ。自分の目で確かめるしかないウサ」

わたし「ブウ子もそう言ってた」


ウサ子、わたし、見つめあう。


わたし「ねえ、ねえウサ子。また会える?」


ウサ子、うなずく。


ウサ子「ウサ子はねえ。ある女の子に、大事に大事にされすぎて、ちょっと灰色になってるウサけどね。あなたのことを待ってるウサよ。いつもいつも、待ってるウサよ」

わたし「あいに行くね、きっと行くね」

ウサ子「うんうん。ウサ」


ウサ子、遠くから手を振る。

わたしもめいっぱい手を振る。

白い世界は輝度を増して真っ白くなり、やがて暗転する。


※※※


場所

 病院


陽も昇らない朝の二時、元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。


声「元気な女の子ですよ」

声「よく頑張りましたね」

声「ああ、よかった」

声「ありがとう、ありがとう、ありがとう……」


声「うそ!もう産まれたの!?どっち!?」

声「女の子だったって」

声「性別わかったら教えてって言ったのに!そうだお祝いを贈らないと……」

声「ぬいぐるみとかどう?うさぎの」

声「うさぎ年だけに?」


声「名前はもう決まってるの?」

声「もう決まってるって。あらかじめ話し合ってたみたいよ。名前はね……」

声「  」


※※※


【閉幕】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【戯曲】ウェルカム・ザ・ワールド! 紫陽_凛 @syw_rin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ