となりの人外~神崎一矢の不可思議な日常~

星雷はやと

第1話 自称天使


「ふわぁ……」


 麗らかな昼下がり、俺は自室のベッドで惰眠を貪る。平日だが、自宅警備員である俺にとっては関係ない。


「人間よ、私に救いを求めなさい」

「うわぁ……眩しい……」


 頭上から男の声が響くと、眩い光が部屋を照らした。夕陽の時間にしてはまだ早い。一体何なんだ。俺の昼寝を邪魔するのは許さん。俺は体を起こす。


「人間よ、私に救いを求めなさい」

「取り敢えず、発光するのを止めろ」


 何故か発光し、意味不明な発言をする人影が居た。正確には眩しい所為で、本当に人か如何は分からない。謎の人物に光るのを止めるように声をかけた。


「こほん……人間よ、私に救いを求めなさい」

「いや、要らん。帰れ」


 謎の人影は発光を止め、代わりに金色の髪を持つ白いスーツ姿の男が現れた。咳払いをすると、再び意味不明なことを告げる男。何だ?新手の詐欺か勧誘活動かだろうか?どちらにしても邪魔なので、お帰り願おう。俺は親指でベランダに続く窓を指差した。


「ちょっ!? 要らないとは如何いう意味ですか!? 私は天使ですよ!?」

「あ、ちょっ……」


 男は叫び声を上げると、自身の背中から純白の翼を広げた。羽根が宙に舞う。


「如何ですか!? 私は正真正銘、天使です! さあ、私に救いを求めなさい!」

「翼が邪魔だ。仕舞え、自称天使」


 自慢げに胸を張る自称天使。確かに翼があり、何時の間にか頭の上には光る輪が浮いている。一般的に想像する天使のイメージそのものだ。本物は自身のことを本物だと、わざわざ主張するだろうか?胡散臭い。自称天使だ。

 それよりも今は、部屋に舞い落ちる羽根が問題だ。俺の部屋が羽根だらけになったら如何してくれる。母さんは綺麗好きなのだ。羽根だらけの部屋を見たら、烈火の如く怒るに決まっている。それは如何にか回避しなければならない。自宅警備員には、家庭内の平穏が大事なのだ。


「邪魔って! 私のアイデンティティですよ!? それに私は本当に天使です!」

「知るか。蛍光灯があれば充分だろう」


 俺に詰め寄り翼を指差す。ムキになると余計に胡散臭く見えてくる。アイデンティティか何か知らないが、家庭内の平穏が保たれている以上に大切なことはない。自称天使の頭上に輝く、蛍光灯を指差した。


「け、蛍光灯!? ……これは天使の輪です!!」


 自称天使が声を張り上げると、階段を登る音が聞こえた。きっと母さんが洗濯物を取り込みに二階に来たのだ。早急にこの自称天使を片付けなければならない。


「いいから、出ていけ。自称天使の不法侵入者」

「えっ!? ちょっ……」


 窓を開けると、自称天使の腕を掴み外へと放り投げた。人間にこのようなことはしてはいけないが、相手は自称天使だ。あの翼が本物ならば、落ちても大丈夫だろう。二度と現れるなと念じながら窓の鍵を閉めた。




「おはようございます! さあ、私に助けを求めなさい!」

「…………」


 爽やかな朝、カーテンを開けると自称天使が居た。俺は無言でカーテンを閉めた。

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となりの人外~神崎一矢の不可思議な日常~ 星雷はやと @hosirai-hayato

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