第28話
「ふふっ!」
ドヤ顔をする水原さんが懐中電灯を渡してくれた。
まじで肝試しをするのかな……。
でも、夜空がすごく綺麗だから少し歩き回りたくなる。こんなところでお化けが出るわけでもないし、ゆっくり歩いてみるといつか目的地に到着するんだろう。それにしても本当に綺麗な夜空だ……。
そして白雪さんが俺の手を握る。
「白雪さん……?」
「私は……、樹くんと行く」
「はい」
てか……、二人で行くのに懐中電灯は一つしかないのか……。
さすが水原さんだ。
わざわざこんなことをして「二人っきりの時間を楽しんで」って言ってるような気がする。でも、あの白雪さんが肝試しなんかにびびるわけねぇだろう……? よくわからないけど、……白雪さんが何かに怖がる姿は想像できない。
「山の奥にあるからかな……。すごく暗い」
「そうだよね……」
「そういえば、俺……肝試しとかやったことないから。今の状況がすごく不思議」
「へえ……、修学旅行とかでやったことない?」
「うん……。ずっと一人だったから……、誰かに言えるような思い出は多分ないかもしれない」
「大丈夫。今は私と一緒だから、二人っきり思い出を……」
その時、隣の茂みから変な音がした。
「ひっ……!」
「ど、どうしたの?」
「そ、そこで何か……変な音がしたよぉ……」
「えっ? 大丈夫……、何もない」
あれ……、意外とこんなこと苦手だったのかな。白雪さん……。
音には全然気づいてないけど……、すぐくっつくからむしろ白雪さんにびっくりする俺だった。とはいえ、暗いところはもう慣れちゃって……こんなところに来ても俺は動揺しなかった……。これはいいことなのか?
「なんで…樹くんは平気なの? ちょっとずるい」
「えっ? そう……? ううん……、わあ怖い!」
「……バカみたい」
「ごめん……」
頬をつねる白雪さんが笑う。
「ごめんなさい……」
「バカ」
でも、本当に誰もいないんだ……。
あの頃も俺の隣には誰もいなかったよな……。真っ暗で一人しかいなかったあの場所は、今と同じ雰囲気だった。怖いという感情より、全てを諦めたからもう何も怖くなかったことを思い出してしまう。
トラウマになったけど、どんどん慣れていかないと。
いつまでそんなことを……抱えては。
「ううっ……、疲れたぁ。休みたい」
「うん。そうしよう」
そういえば……、俺のスマホどこにあるんだろう。
全然気にしていなかった。
すぐ肝試しの話が出ちゃって、探す余裕もなどなかったからな……。
「あれ? 樹くん、スマホは?」
「ううん。客室かな」
「持ってこなかったの?」
「うん」
「じゃあ、私だけスマホをいじるのもあれだし……。話をしようか!」
「うん!」
適当に座れる場所を見つけた二人はそこでしばらく休んでいた。
とはいえ、これは白雪さんとくっつくための口実で……ただ誰もいないところでイチャイチャするだけだ。そしてすぐ俺に寄りかかる白雪さんは、何も言わずにじっとする。どうやら白雪さんはこういうのが好きかもしれない。
「ふふっ……」
「どうした?」
「こういうのが好きでね」
「そう? よかったね」
「でも……、私……本当に樹くんと付き合うようになるとは思わなかったよ。最初は興味があったけど、どんどん好きになっちゃってね」
「最初から……襲われたから……」
「そ、それは気になったから、樹くんのことが……。それで、嫌だったの?」
「嫌じゃないけど……、いつものイメージと違って……」
「同じクラスの女の子に襲われた気分は……? どうだった?」
「知らないから聞かないで……」
「知りたい〜」
横腹をつつく白雪さんが微笑む。
でも、ふと聞きたいことができてしまう。
「美波は俺と付き合ってもいい……?」
「うん? それ、なんの話?」
「美波はその……、俺よりはすごい人だから……もっといい人と会えるはずなのにどうして俺とこんなことをするのかよく分からない」
「好きだからだよ」
「…………」
曖昧な言葉。
それは俺が知っている「好き」とは違う意味って知っていても……、それでもよく分からない言葉だった。俺はいつになればこういう心配をしないんだろう。いつになれば……、素直になれるんだろう……? こんな気持ちを抱えたまま白雪さんと付き合いたくないのに……。
「好き……」
「は、はい……」
「じゃないの? 樹くんは……」
「えっと……、好きだよ? 好き……、美波のこと……」
今のは多分反射的な反応だと、俺は知らないうちに彼女に合わせていた。
心配させたくないから……、さりげなく言い出した言葉。
俺もこんな自分が嫌い。
「だよね……。樹くんは私がいないとダメだよね〜」
「……うん」
「へえ……、本当に? 冗談だったけど、嬉しい」
「えっと……、美波しかいないから……。彼女を大切にする方法、よく分からないかもしれないけど、それでも頑張ってみるから」
「なになに? いきなり……、超嬉しい」
今はこれが精一杯かもしれない。
「それ……、私にキスされたいから言ってることなの?」
「そんなわけないだろ……。キスなら…初中やってるし。関係ないと思う」
「確かに、その唇は私の物だからね? この可愛い彼氏にはご褒美をあげないと」
そして後ろの木に押し付けられた俺は白雪さんとキスをする。
何も見えないところで彼女の感触だけを感じる。
つれない白雪さんにいつの間にか独り占めされています 星野結斗 @hosinoyuito
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