第27話

 涼しい風が吹いてくる午後、白雪さんがすやすやと俺の膝で寝ていた。

 たまに……白雪さんは眉を顰める。 

 もしかして悪夢でも見てるのかな……、あの白雪さんがこんな顔をするからちょっと可愛かった。白雪さん、普段はこんな顔をしないし。俺が覚えてるのはエッチをする時の顔とか、本を読みながら冷たい声で「そう?」って答える時の顔だけ……。こんな可愛い顔が見られるのは多分今だけだと思う。


「…………」


 びくっとする白雪さん。

 なんか、遠いところで落ちる夢でも見たのか……?


「うっ……、ここどこ?」

「俺の客室だよ。美波……、眩暈して倒れそうになったから……」

「そ…うだったよね。えっ……、私…浴衣着てる」

「…………あの! 飲み物とか要りますか! か、買ってきます!」

「……樹くん、私浴衣着てるけど……?」

「やはりスポーツドリンクがいいかな……!」

「私の話に答えなさい」


 と、お腹をつねる白雪さんだった。

 とはいえ……、裸の白雪さんを着替えさせたって言ったら怒られるかな……? でも、それは仕方がないことだから。俺もすっごく恥ずかしかったけど、そのままじゃ心配になるからやるしかなかった……。


「……眩暈…」

「ありがとう。私のこと心配してくれたよね?」

「は、はい……」

「怒ってないから緊張しなくてもいいよ。ただ……、無防備だったのが恥ずかしいっていうか……」


 そう言いながらすぐ照れる白雪さん、その姿を見るのは初めてだった。

 彼女の頬が少し赤くなったような気がする。


「ううん……。私の男に抱かれるのは悪くない……、ずっとここにいてくれたの?」

「うん。一応……、起きた時に誰かいないと困るはずだから」

「ふふっ。風呂の中でくっつくのが気持ち良すぎて……、油断しちゃった」

「本当に心配してたよ。次はびっくりさせないで……」

「ごめん……」


 なんかキスをする流れだったけど……、俺は向こうからこっそり覗いていた二人に気づいてしまう。


「あっ! バレた!」

「だから……、開けない方がいいって!」


 いつからそこにいたんだろう……。


「芽依、そして先輩……」

「眩暈は大丈夫?」

「はい」

「心配してたよ〜。そろそろ夜ご飯食べよう!」

「うん。あの、先に行ってて……」


 その話を聞いた水原さんがにやつく。


「分かったよ。早くきてね〜」

「うん」


 すぐ行かないのか……? やはりまだ……眩暈が。

 もうちょっと寝かせた方がいいかなと思って布団をかけてあげたら、すぐ俺を倒してキスをする白雪さんだった。眩暈じゃなくて……、これをするためだったのか。普段より激しくなったのは、完全に回復したってことかな……。


 うわ……、白雪さんに食べられちゃう。

 しかも、温かくて……すごく気持ちいい……。


「はあ……、夜ご飯食べる前に樹くんのことを食べたかったけど……」

「今はみんなと旅館に来たから……帰ってからやってもいいと思う」

「私、今日は樹くんの客室で寝るから。これも持ってきたよ?」

「…………な、何変なことを取り出すんだよ! さっさとポケットに入れて!」

「なんで? ナマでする気?」

「んなわけないでしょ! 恥ずかしいから、どっかに入れといて!」

「じゃあ、今夜はやんないの?」

「…………どうしてそんなことを……」

「せっかくだし……、いいじゃん。どうせ深夜1時頃にするはずだから」

「わ、分かった! じゃあ、一応それ入れといてくれ……」

「うん! あげる! ちゃんとそこに入れといてね」

「…………」


 白雪さん……、今日はすっごく積極的だ。


 ……


「…………うん?」


 夕飯を食べに行く廊下で、俺は自分のスマホを忘れてしまったことに気づく。

 どこに落としたんだろう……?

 でも、今は夕飯の方が先だから後で探すことにした。


「うん? 樹くん?」

「はい! 行きます!」

「ぼーっとしてたけど、何か忘れ物でもある?」

「いいえ……」


 そしてみんなと食べる夕飯。

 普段は一人で食べることが多くて全然知らなかったけど、意外とこうやって食べるのも悪くはないなと思ってしまう。ずっと一人だったから知らないこと、たまにはみんなと一緒に何かをするのをちゃんと楽しまないと……。大切な思い出になるはずだから。


「樹くん……! これ食べて、美味しいよ!」

「あ、ありがとう。さえちゃん……」

「え〜。さえちゃんって雨霧くんのこと好きかな?」

「雨霧くんカッコいいし……! 先も私のこと褒めてくれたよ……?」

「あはははっ。確かにね。雨霧くん、学校でけっこうモテる人だよ?」

「へえ!」


 何こくりこくりするんだよ……。さえちゃん。


「樹くん」

「は、はい……」


 すると、そばからお肉を食べさせる白雪さんがこっちを睨む。

 何もしてないけど……、白雪さんが怒ってるような気がする。誰かが好きになるとこんなことまで……、気にするのかな……。その曖昧なところが俺にはまだ難しい。ただ誰かに合わせて……どんどん学んでいくだけ。その、感情っていうのを……。


「夕飯を食べた後はみんなで肝試ししようよ! どう!」

「肝試し……。樹くんは?」

「いいと思います」

「じゃあ、私も行く」

「いいじゃん! いいじゃん!」

「じゃあ、やりますか!」

「私も行きたい! やえ姉ちゃん!」

「いいよ!」

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