第四話 CCC(チーズ・チーズ・チーズ)②
「で、そのcenter・cosmic・control stationこと中央宇宙管制局の人がなんでオレなんかに付き纏ってるんだ?」
「ですから、二時間前に話したばかりでしょう。我々は宇宙の平穏を守る警察官であり、ピザ・ハンターは銀河の崩壊を招こうとしている悪人だと──あなたにはピザ・ハンターと戦う戦士になってほしいのです」
「だからそれが意味わかんねぇんだって。そもそも宇宙をどうにかしちゃう様なヤツを相手にただの人間のオレが勝てると思うのか?」
「あなたがただの人間?」
不意に
「あ? どっからどう見てもただの人間だろうが。オレは人体の改造とか、他の生き物の遺伝子とか入れんの嫌なの。そう言うヤツはまだ沢山いるぜ?」
「おかしいですね、あなたの中には他の人間とは違う得体の知れない力を感じるのですが……」
「不気味な事言うんじゃねぇ。いいか、オレはただの人間でそんな宇宙の平和を守る事とかは無縁なの。分かったら他所に行ってくれや」
かれこれ十時間ばかり続いたジィーナの話しをオレはその一言で終える。はっきり言ってイカれた話の長さに何度キレそうになった事か。オレは寝室に向かいベッドに横たわる。
「お願いダニエル、あなただけがこの星の……いえ、銀河の希望なの」
「うっせぇな! とりあえずお前のクソ長い話しのせいで、見てみろ! もう朝なんだよ、寝かせろ!」
「ダニエル……」
カーテンの隙間から覗く朝陽に目を逸らしてオレは枕を頭の上に乗せて全ての音と光を遮断して布団を被った。
やっと眠れる。とっくのとうに酔いなど覚めた頭でオレはそう思う。勝手に落ちていく瞼に任せて眠りにつこうとした。
その時だった。
やけに瞼に光を感じて眠りかけていた意識が僅かに浮上し、次にベッドの真横で道路工事でも始まったかの様な凄まじい轟音が響いた。
「なんっだようるせぇな!?」
がばりと起き上がったオレにジィーナが飛び掛かってきた。
「ダニエル伏せて!」
「はぁ!?」
飛んできた黒猫の体を抱き止めてオレは咄嗟に布団を被ってうずくまった。
直後、布団の向こうから熱が伝わるのを感じるのとさっきと同じ轟音が間近から聞こえてきた。
一体何が起きてるのか、まるで分からないままオレは布団をめくって外の状況を確認する。すぐ側で起こった現象を見て、オレは絶句した。
「……もう気付かれてしまったみたいね」
布団から這い出てきたジィーナが呟く。
オレはジィーナの意味深な呟きを無視して寝室の壁に穿たれた直径二メートルほどの大穴を見ていた。
「なんだコレ……」
「ピザ・ハンターの雇った刺客の攻撃ね。極太の熱線破壊兵器、通称ペパロニ・バンカー。宇宙ではごくありふれた兵器だけど、まさかこんな星で使うなんて……」
「へ、兵器!? なんでそんなモンがウチに撃ち込まれンだ!?」
「あなたがこの星で唯一ピザ・ハンターを倒せる人間だからよ! ヤツはあなたを消したくて仕方ないみたいね」
中央宇宙管制局だか、銀河の敵だか、そんな馬鹿げた事があってたまるか。宇宙の事なんてオレには知ったコトじゃない。
「あんなヤバい兵器使ってくるヤツとオレが戦えるわけがねーだろ!!」
「そんな事言ったってもう戦うしかないわ、ほら、次が来るわよ!」
ジィーナに言われ、壁に開いた穴の向こうに視線を向ける。百メートルほど向こうの建物の上で大仰なクレーン車に似た機械が見えた。機械はその首をもたげたキリンに似た形状をしており、こちらを向いている黒い空洞の先端でオレンジ色の光が収束を始めていた。
「ウソだろ、オイ」
呟くと同時、全身にどっと汗が噴き出る。瞬発的に真横へと飛んで、ジィーナを抱える様にしてオレの体は床を打った。その頭上をさっき見たオレンジの光が通過して、事務所の中を貫通して通り道にあったモノを破壊した。
「くそったれ!」
ジィーナを肩に乗せて、オレは立ち上がって事務所を飛び出した。事務所に居ても狙い撃ちされ続けるだけなら、外に出てしまえばいい。戦うのはまっぴらゴメンだが、殺されるのも嫌だ。オレは撃ってきた相手がいるであろう方向から遠ざかる様に背を向けて逃げ出した。
「ちょっとダニエル!?」
ジィーナの困惑した声が耳元で響く。
「アレと戦えってか? ムリに決まってんだろ!」
「逃げたってムダよ! 奴らはこの星全体に網を張ってるんだから」
「はぁ!?」
話の規模が理解の範疇を超えてやがる。くそ、なんだってただのピザ屋のオレがこんな事に巻き込まれなきゃならねぇんだ。
喋る黒猫に、宇宙の秩序?
何もかもオレには関係ねぇ!
第一まともに寝れてすらいないんだぞ。コンディションだって最悪だ。
どうしたらオレの平穏は守られる?
どうしたら元の、なんて事のない日常を取り戻せる?
原因は分かりきってる。オレは立ち止まって、肩のジィーナに話しかけた。
「……お前さっきオレの中に他の人間と違う力があるって言ったよな?」
「き、急になんですか?」
「その通りだぜ。オレにはお前の言う通り得体の知れねー力がある」
「戦う気になったのですね!?」
「見ての通り、オレはただのピザ屋だ。宇宙の秩序とか戦士なんて関係ねぇ、オレが戦うのはオレ自身の日常を取り戻すためだ。まずはクソッタレのピザ・ハンターとやらをボコす」
「お願いをしたのは私ですが、相手は強大です。どうやって……?」
「んなもん、決まってる。オレはピザ屋だ、ただピザを作って届けるだけだぜ!!」
オレは再び光の収束を始めた機械へと視線を向ける。黒猫は目を見開いて光に釘付けになっていた。オレンジ色の光が放たれ、周囲の廃墟を破壊しながら迫ってきた。その正面に立って、オレは左手の掌を光へと向けて、右手を引いて腰を少し低く構える。
光がオレの視界を埋め尽くすほど巨大になり、そして、オレはしっかりと見据えた。
「ピザ屋流戦闘術・壱式〈
光に向けて拳を突き出す。その瞬間からのオレの拳を真紅の焔が包み、光とぶつかり、エネルギー同士の衝突が生む雷光が周囲へと迸り空気を揺らす。
オレの腕に今まで経験した事のない感覚が生じていた。今まで“この力”をピザ作り以外で使った事はなかった。
「こんなモンで、オレのピザ屋の矜持は折れやしねぇぞ──うおらぁぁぁぁあッッッ!!」
オレは光を
「さぁ、次はてめぇだ」
オレは廃墟ビルの上でこちらを見下ろす人影に指を向けた。
PIZZA・HUNTER ガリアンデル @galliandel
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