寅の先生

佐々木 連

第1話 着物の将軍

藩の軍隊が通っていった 

”なんじゃ ありゃ?”

一番最後の最後に 着物を着て団扇を手にバタバタ扇いで

のしのし歩いてゆく変わった男がいる

”あんなのがなんでおるんじゃ”


戦いが始まったようだ

遠くで音が騒がしい

あのパン パンって音はなんじゃ?

あれは鉄砲ってもんじゃねーか?

寅吉には関係ないことである


こっちにはこねーだろうな?

そーだ音がとおいから 大丈夫だろう


ありゃなんじゃ

”おーい 屋根に上がって何しとんじゃ?”

さっきの着物の男が屋根に上ってなにかしてる


”ここでは見えん”

男はいった

”もっと高いとこはないか?”

良く通る声

そーれなら 寅の家ならどーだあ


もっと高いかあ

ゆっくり降りてきて 爺臭い姿

”案内してくれ”

”はあ ええけど 何しとるんじゃ?”


”みとるんじゃ”

”みとる?”

”そーじゃ 具合をな?”

”戦いをみとるのか?”

”そーじゃ みにゃならん”


変わったやつと思いながらも 寅吉は案内をして

”ここなら よー見えるでな”

亀が岩を登っているように 屋根を上ってゆく

”おーお よう見える よう見える”

何か筒を熱心にのぞき込んで 音のする方を見ている


変わったやつだ そー思いながら 寅吉はしばらく

見ていたが 

”いつまでも 付き合っておれん”

家の中へ入いる


何刻か経ったのだろう

声がした


”終わったぞー 終わった うーん 予定通りじゃ”

”そうか 終わったか?”

”はらー減ったのう うーん腹が減った”

とても満足そうなこの笑顔は

戦いが終わったからなのか 腹が減ったからなのか

よくはわからないが


”豆腐ならあるで”

”豆腐か!?”

”うちのおばばから教わった豆腐じゃ”

”豆腐はええのう”

”喰うか?”

”ええのか?”


豆腐をぱくぱく食っている

”豆腐はええのう”

”豆腐はええぞ”

”ふーっ 旨かった”

食べ終わって  手ぬぐいで 汗だくの顔を吹いて

にこにこしながら 満足そうだ


”この豆腐は 特にうまいのう”

”当たり前だ うちのおばばの直伝だからのー”

”また 食したい”

”また 朝になったら作ってやるでーえ”


”朝か? 次の朝か。。。

もう 帰らにゃならん”



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