第44話 ラーンとジェノの相談
「じゃあハーゲン。遮音の結界をはるから見張りをお願いするね」
「はい、師匠。まかせてください!」
「ラーン様。ハーゲン様も一緒にお話をされないのですか? ラーン様?」
ラーンはまるで聞こえてないかのように、呪文を詠唱をはじめる。
詠唱が終わると、結界の外の音が聞こえなくなる。
「これで良しっと、返事をしなくてごめんねジェノ。ハーゲンはセーラの悩みを知らないから……」
「ハーゲン様はセーラ様の悩みをしらないのですか? それは……良かった……」
ジェノはセーラの悩みがたとえハーゲンだろうと、異性に知られずにすんだことに安堵する。
「うん、セーラの昔からの悩みと新しい悩み両方ね」
「えっ⁉ セーラ様の悩みは二つあったのですか⁉」
ジェノの様子にラーンは首を傾げ尋ねる。
「うん? ジェノは昔からのセーラの悩みを知らないの?」
ジェノは真剣な目でラーンを見つめたまま、コクコクとうなずく。
「ジェノは知らなかったのか……でも昔からの悩みはもう解決してるからいいよね……」
ラーンはジェノにセーラの昔からの悩みの話をしてしまった事を後悔する。だが、すぐに今後の話をするうえで必要な事と思い直して話を続ける。
「ジェノはセーラが女神様に願ったスキルの話は聞いた?」
「はい……その、毛を自由に生やすスキルだと……」
「うん、でもそれでどこの毛を生やしたか聞いた?」
「あっ……そういえば……」
「まぁ、どこに生やしたかは問題じゃないんだ……問題はセーラが毛が生えていない事を悩んでいる事……いや、今は毛が生えている事に悩んでいるのか……」
「はい……」
「まぁ、その悩みの解決方法は、ジェノ達が考えている方法が正しいものでは無い事が私にはわかる」
「そうなんですか⁉」
ジェノは思わず声を荒げてしまう。そんなジェノを見てラーンは話を続けず、じっとジェノを見つめる。
「すいません……落ち着きました」
「うん。ジェノが慌てるなんて珍しいね。だけど、落ち着いて聞いて欲しい。二人はムダ毛をなんとか処理しようと考えていたよね?」
「は、はい」
「でも、それじゃあ結局ムダ毛の処理ができるようになっても、新しい悩みはずっと生まれると思うんだ……」
「では、いったいどうすれば……」
「では、なぜムダ毛を処理しなければとセーラは考えたのだろう?」
「そんなもの決まってます! セーラ様はシュウダ様に最高の自分をお見せするために⁉」
そこまで言ってジェノはあることに気づき青くなる。
「そう、セーラの思う最高の自分だけど、それがシュウダにとって最高かはわからないよね? なら話は簡単、今のセーラの姿がシュウダにとって最高となれば良いよね?」
「たしかに……今のセーラの様のお姿がシュウダ様にとって一番だとわかればセーラ様も納得されるかも……」
「よし、じゃあ今度はセーラと話がしたいけどどうしようか……」
「それであれば、今夜までに私の方からセーラ様にお話をいたします」
「うん、それが良いね! シュウダが寝た後で話ができればば良い」
「わかりましたセーラ様をよろしくお願いします」
「ああ、任せておいて! もちろんシュウダにもお仕置きをするからね!」
ラーンがそう言うと結界がとかれる。
「ハーゲンお待たせ。皆の所に戻るよ」
「お話は終わったんですか?」
「うん、大丈夫。この大賢者にまかせて」
そう言ってラーンは自分の胸を叩く。
ハーゲンはラーンをよそにじっとジェノを見つめる。
「大丈夫ですハーゲン様」
ジェノが力強く頷くとハーゲンも納得して、皆が待つ方に向かうのであった。
「お⁉ 帰って来た。三人とも上手く言ったか?」
「ああ、ビルさん。二人と一緒にゴブリンの巣をきっちりと潰してくれた」
それを聞き、ビルがハーゲンとラーンに視線を向けると、二人ともサムズアップする。
「さすがジェノさん!」
「ハーンもランもお疲れ様」
セーラとシュウダが三人に労いの言葉をかける中、ビルが馬車から降り深々と頭を下げる。
「すまん! 皆、俺のわがままでゴブリンの巣を潰してもらって。しかもこんな時間になっちまったから、今から次の目標の場所に向かうのは無理だ。だから今日はここで野宿になる。もちろん追加の報酬も用意する、皆すまない」
ビルが言った様に空は茜色になっており、これから次の目標の場所に着くのは誰の目からも無理であった。
ビルが頭を下げたまま固まっていると、ジェノは話しはじめる。
「ビル気にするな、ゴブリンの巣があったのはビルのせいじゃない。それに巣の証拠もあるし、ゴブリンの討伐の報酬もギルドにきちんと報告すれば貰える」
「ああ、ジェノの言う通りだ。俺達はまんまとビルとギルドの両方から報酬がうけれる」
ラーンはそう言ってニヤリと笑いビルを見る。そんな様子にハーゲンがため息をつき話しはじめる。
「ビルさんハーンはこう言ってますが照れ隠しです。ビルさんが言わなければ彼の方からゴブリンの討伐をしようと言っていたはずです。それに彼の言う通り、私達はビルさんとギルドから報酬をもらう事になったので、感謝は受け取りますが謝罪は結構です」
ビルは顔を上げると苦笑いしながら、頭をかく。
「そう言ってもらえるならありがたい。今日は早めにやすんでくれ」
ビルの言葉に全員がうなずくとサイドが声を上げる。
「皆さん食事の準備ができました! 今日は時間があったのでオークの煮込みにしました。自信作なんでたくさん食べてくださいね!」
サイドの言葉にジェノはサイドがかき混ぜていた鍋の中をのぞく。
「ああ、美味そうだ。食事の用意を手伝えなくて悪いなサイ」
そういってジェノはサイの頭をなでる。
「いえ、ジェノさんはゴブリンの巣の討伐に行っていたのですから、気にしないでください。それに今日はゼラさんも手伝ってくれました」
サイドは久しぶりに姉に頭をなでられて嬉しそうにする。
「いや、逆に邪魔にならなかったか心配だったよ」
「ふふふふ、そんな事ないですよ」
セーラにも頭をなでられ、さらに嬉しそうにするサイド。
そんな温かい空気の中、叫ぶ者がいる。
「美味い! おい皆! さっさと食べないと俺が全部食ってしまうぞ! ビルも今日は早い夕食だ。また酒を飲めばいい!」
一人先に煮込みを食べはじめ騒ぐラーン。皆がヤレヤレと思いながら夕食にするのであった。
ダメ! 絶対! 聖剣を使ってムダ毛処理をしてはいけません。~拝啓、勇者様 世界が平和になったのでしばらく聖剣をお借りします、理由は聞かないでください~ もう我慢できない @mougamanndekinai
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