第43話 ジェノは疑う


 セーラ達一行は別れ、ビルの護衛にセーラ、シュウダ、サイドが残り、ジェノとハーゲン、ラーンはゴブリンの様子を見ていた。


「本当にまかせても大丈夫なのか? 失敗すれば全員の命にかかわるぞ」


 ジェノは疑いの目でハーゲン達を見ていた。


「まぁ、見ててジェノさん。俺とハーンで静かに、殺して見せる」


 二十匹のゴブリンを殺す事は可能だが、他のゴブリンに気づかれないよう、静かに殺すとなると難易度が跳ね上がる。

 

 それをできると言った、ハーゲン達。これが本来の姿での発言ならばジェノも疑う事すらしなかった。


 だが、シュウダ達はセーラとジェノに本来の姿を誤魔化して同行している。


 そのためジェノは昨日のオークの討伐から、この冒険者ランクに合わない強さを持つ冒険者達を疑っていた。それは、人には言えない何か悪い理由でランクを誤魔化しているのではないかと。


「よし、結界を張った。ランあとは頼んだよ」

「任せてハーン」


 ハーゲンが結界を張り、ラーンが魔法を使う。しばらくすると、ゴブリンが異変に気づき叫び声を上げはじめる。


 はじめ結界に閉じ込められたゴブリン達は、何とか自力で脱出しようと結界の破壊を試みる。

 だが、すぐに結界が破壊できないことに気づくと、今度は近くの仲間のを呼ぼうと叫び声を上げはじめた。


「これなら静かに殺せるだろ?」

「ああ、疑ってすまなかったラン。これなら仲間を呼ばれる心配もない」


 今も結界内のゴブリン全てが叫び声を上げているのだが、その叫び声が辺りに響くことはない。

 なぜならハーゲンの張った結界は、音を遮断する能力を付与されていた。そのため、結界を張ったハーゲンでさえ中の音を聞くことはできない。


「それで結界内のゴブリンはどうやって殺すんだ?」

「それは、もう少しすればわかるから見ててくれ」


 ジェノとラーンが話をしていると、結界内で叫び声を上げる続けるゴブリンに再び異変が起こる。叫び声を上げていたゴブリン達が一匹また一匹と地面に倒れていく。


「俺の魔法で結界内の空気を抜いているんだ。炎や雷で焼いたりすると匂いがでるだろう?」

「ああ、これなら匂いで他のゴブリンも集まってこない。だがこれほどの結界を張って魔力はだいじょうぶなのか?」

「問題ありません。結界の範囲は広いですが、時間も僅かな間ですし何より攻撃されても、危機感が低い事からあまり強くないですし」


 ジェノの言葉にハーゲンがラーンに代わって返事をする。


「たしかに閉じ込められていたが、ゴブリン達の危機感は高くなかった……結界を壊そうとしたが、それもすぐにあきらめて呑気に仲間を呼んでいたな……とてもじゃないが死ぬかもしれないと思っている様には見えなかったな」

「はい。仲間が集まってきたり、時間が経てば危険を感じたかもしれませんが、空気が抜かれる事も気づかなかったでしょうし」

「なるほど、こんな感じで殺していくのか……」


 それからしばらくの間、ジェノ達は次々にゴブリンを始末していき、その過程で巣を見つけることにも成功した。


「あそこだな……」


 そう言ってジェノが睨んでいるのはゴブリンの巣。


「人が捕まってないと良いんですが……ランお願いできますか?」

「ああ、任せろ」


 ハーゲンに言われラーンは魔法を詠唱すると、ラーンは目をつむる。

 目をつむったラーンの頭の中にゴブリンの巣の映像が流れはじめる。


「うん、巣に……」


 目を開いたラーンが言う。


「そうか……」


 ジェノもラーンの言いたい事が分かり、少し声のトーンが落ちる。


「では、もう遠慮をすることもないでしょう。一気に巣を滅ぼします」


 普段、ゆっくりと話すハーゲンの口調が早くなり、ジェノもラーンもハーゲンが怒っていることに気づく。


「そうだな。一気にやってしまおういつも通りハーゲンが炎をだして私が風を」


「⁉」


 突然口調の変化とその言葉の中に出てきた名前に驚くジェノ。


「ジェノ。今は黙ってみててくれ」


 二人がそう言うとゴブリンの巣の真ん中に炎の竜巻が出現する。


 騒然となるゴブリンの巣。


 ゴブリン達は炎の竜巻が出現すると散り散りに逃げようとするが、竜巻はどんどん大きくなりゴブリンの逃走を許さずその全てを飲み込んでいく。


「さすが、賢者と大賢者の合体魔法……」


 しばらくして、ゴブリンの巣に動くものがいなくなるとハーンとランの姿が歪む。


「騙してすまないジェノ」

「ごめんねジェノちゃん」


 そう言って頭を下げる二人。


「……では、残りの二人はサイドと……」

「うんシュウダだよ」


 ジェノはため息をついた後、二人にたずねる。


「ここで姿を現したと言う事は……」

「ああ、まだセーラには我々の事は教えない」

「そっちの方がいいでしょう?」

「はい。そうして頂けるとありがたいです……」


 そう言ってジェノは二人に深々と頭を下げるのであった。

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