第42話 正体を明かすシュウダ達


「すまない、ラン。ゼラを見てくる」

「ああ、行ってやれ」


 ラーンの返事にジェノはセーラを追いかける。ジェノの姿が見えなくなるとビルがシュウダに近づいて来る。


「お前は、もしかして勇者か?」


 シュウダが視線をラーンに送ると、ラーンは黙ってうなずく。


「……はい」


 シュウダは魔道具に魔力を流し、本来の姿に戻る。


「ふむ……そうなると……」


 ビルは視線をハーゲン、ラン、サイドに移していく。

 三人も魔道具に魔力を流す。


「ハーゲンだ」

「私はラーン、改めてよろしく」

「サイドと言います」

「ビルさん、騙して申し訳ない。シュウダと言います」

「いや、こちらこそセーラ達が姿を偽っているのを知っていたんだ……お互い様だ」


 ビルはそう言うと、全員と握手をする。

 握手がおわるとビルはシュウダの前に立つ。


「目的は聖剣か?」

「いえ、セーラです」

「……聖剣はどうでもいいのか? あれはドワーフの目から見ても最高傑作なんだぞ?」

「どうでもいいです」

「即答か……」


 シュウダの言葉を聞き、うつむくビル。

 だが、しばらくして顔を上げたビルはニヤリと笑っていた。


「ガハハハハ! よく言った! セーラとあったのは数日前だが、あいつが純粋な奴なのは嫌って程わかった。そのセーラが好き過ぎて逃げた相手がそこで聖剣なんて言ったら、ぶっ飛ばそうと思っていた!」


 ビルはシュウダの肩をバンバンと叩く。

 ドワーフと言えば鍛冶と言うほどの種族だが、シュウダの言葉に嬉しそうにしているビル。


「それでこれからどうする?」


 そう言って、ニヤリと笑ったビルが見たのは、ハーゲンとラーン。


「賢者様と大賢者様だろう? 何かいい案はないのか? セーラをできるだけ傷つけずにシュウダとの仲を元に……いや、前以上に良くするにはな!」


 ビルはそう言ってチラリとシュウダを見る。

 ビルの言葉にハーゲンとラーンは顔を見合わせ目を丸くする。

 だが、すぐに二人はニヤリと笑い、話しながら歩いてくる。


「ビルさん、あなたがそう言うとは思っていなかった。あなたが手伝ってくれるならやり方は増えるな!」

「話が分かるドワーフだね! ドワーフはもっと偏屈なのかと思っていた!」


 二人は、シュウダの隣に来ると、ビルと同じようにシュウダの肩を叩く。


「ビルさん、皆ありがとう……」


 そう言ったシュウダはポロポロと涙を流す。

 サイドも鼻をすすりながら、シュウダにハンカチを渡す。

 涙を流すシュウダを見て、ビルが笑う。


「いいもんが見れた! 人族の最高傑作の聖剣に続いて、魔王を討伐した勇者の涙。魔王より嫁の涙の方が怖いってか! ガハハハハ!」

「ぐぅ……うっうっうっ……」


 ビルが笑う間もシュウダは涙を流し続ける。

 ビルの笑い声が消え、なおもシュウダが涙する間、皆がシュウダを温かく見守る。


 しばらくしてシュウダが口を開く。


「……皆ごめん落ち着いた」

「誰になって泣きたくなる時はある! 気にすんな!」

「そうだシュウダ、ビルさんの言う通りだ」

「それにビルさんがこちらに協力的なら、今までできなかった事もできるし、セーラと早く仲直りしてゴールインしなくちゃね。そうじゃないと次が続けないし!」

「シュウダ様ハンカチを預かります」

「うん……そうだね……早くセーラとこの姿で会いたい。皆よろしくお願いします」


 落ち着いたシュウダは深々と頭を下げる。


「それじゃあ、次はジェノもこっちに引き込もう! 何とかジェノとセーラを引き離してジェノと私達が話せる機会を作る。そのためには……」


 ラーンがそう言ってビルを見る。

 ビルは自分を指さす。


「俺か?」


 ラーンは笑顔で頷くのであった。




 シュウダ達の話しが終わり、しばらくしてセーラとジェノが戻ってくる。


「大丈夫かゼラ」


 そう声をかけるのはビル。


「はい、大丈夫です。遅くなってすいません」


 ビルに頭を下げたセーラは、そのままシュウダの元にやってくる。


「シュウさん。さっきは声を荒げてすいません」

「いえいえ、気にしないでください! 私こそゼラさんの事を何も知らないのに……ごめんなさい!」

「いや! シュウさんが謝る事じゃ……」


 二人とも頭を下げあい続ける。それを見かねたビルが声をかける。


「二人もそれぐらいにして、先を急ごう」

「「はい、ビルさん!」」


 声が重なった事に驚く二人は顔を見合わせる。


「あはははは」

「ふふふふ」

「それじゃ、僕は前に行きます」


 そう言ってセーラは再び、ジェノと先頭を歩きはじめる。




 一行が再び進みはじめてから数時間立った頃。

 ジェノが手で制してセーラを止める。

 その合図にセーラもすぐに立ち止まると、辺りを警戒してジェノの言葉をまつ。


「少し先に魔物がいる」


 ジェノの呟きにセーラも視線を先に向けるがセーラには魔物を見つける事ができない。


「数が多いな……少し、ビルと相談する。一緒に行こう」

「はい」


 二人が振り返ると、馬車の左右と後方を歩いていた四人も馬車に集まって来る。


「前方に魔物がいるんだが少々数が多い、ビルさんここから迂回できるか?」


 ジェノの言葉にビルは地図を取り出し広げる。

 地図を見たビルは頭をかきはじめる。


「ここで迂回となるとかなりの遠回りが必要だな……旅の行程は余裕を持たせていたが、一から考えなおさなきゃならねぇな……」

「ジェノさん。正確な数と種類はわかりますか?」

「ああ、ハーン。二十匹ほどのゴブリンだ。それだけなら問題はないんだが……これだけの数がまとまっていると近くに大きな巣でもできたのかもしれない。もし巣が近くにあれば、戦闘の途中で増援があるかもしれない。そうなればどれほどの数が集まって来るかわからない……」

「ゴブリンの巣か……」


 ジェノの話を聞き終えたビルが険しい顔になる。


「なら、俺とハーンの出番だな。要は静かに素早くゴブリンを皆殺しにすればいいよな?」

「ついでに巣も駆除できれば万々歳だ……あっ! いやっ!」


 皆の視線がビルに集まる。今、姿を偽ってはいるがここに居るのは魔王討伐を果たしたパーティー。それを知っているビルはつい口走ってしまう。


「すまん……つい欲を出しちまった……」


 ビルはそう言って頭を下げるが、ゴブリンの巣ができれば他の旅人が襲われるかもしれない。それは全員が知っているが姿を偽っているのに頼めるわけがない。そう思い肩を落とすビル。


「まぁ、ビルさん様子を見て、できるようなら巣ごと駆除をしてしまいましょう」

「いいのかハーン?」

「確約はできませんが、まずは様子見です」


 話しがまとまると一行は、ジェノを先頭に慎重に進みはじめるのであった。

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