第41話 セーラの優しさと後悔


「おはようございます」

「サイさん、おはよう。昨日の夕飯は皆が喜んでくれたみたいでよかったな」

「はい、ジェノさん。皆が喜んでくれて、とっても嬉しかったです」

「今日の朝食はどうする? また、一緒に作るかい?」

「今日は1人1品づつ作ってみませんか?」

「それも良いな。じゃあ俺が少し肉を焼くからスープを作ってくれるか?」

「わかりました」




「おはようございます。あっサイさん昨日の夕飯はとっても美味しかったです。ありがとうございます」


 そう言ってセーラはニコリと笑う。


「お口にあったようで良かったです」


 サイドも自分の料理を褒められ嬉しそうに笑う。

 二人が笑顔でいるとランがテントから出てくる。


「おはよう! おっ! 今朝はジェノさんが肉料理でサイがスープを作ってくれてるのか! いいにおいだ!」


「おはようございます。もう少しで完成のするので待っててください」

「ああ、頼む。料理が完成するまでの間に顔を洗ってくる」


 ランが顔を洗いに行くとシュウダとハーゲンが入れ違いに戻ってくる。


「ラン、おはよう」

「おはようシュウ、ハーン。起きたらなら俺も起こしてくれよ」

「まだ、朝食まで時間があったし、気持ちよさそうに寝てたから……」


 ラーンの言葉にハーゲンが困った顔で答えると、ラーンがハーゲンのそばにやって来る。


 ちゅっ!


「おはようのキスだ」

「朝から皆の前で何をする!」


 ハーゲンが思わず杖をふろうとするが、ラーンがハーゲンの腕をつか耳元でささやく。


「悪い悪い。今度から皆に隠れてする」


 先日のハーゲンの告白から、ラーンのハーゲンに対するスキンシップが目に見えて増えていた。

 シュウダとサイドは、二人の正体を知っているため、何も言わずにいたが、セーラは顔を赤くしてランとハーンのやり取りを見ていた。


 それに気づいたラーンがニヤリと笑い、セーラに声をかける。


「ん? ゼラどうかしたか?」


 二人のやり取りを見ていた事に気づかれセーラは慌てて返事をする。


「いや、すまない。俺もそんな風に恋人とできたらと思ってしまった」


 そんなセーラの言葉に身をびくりとふるわせるものがいた。


 ガシャン!


 何か落ちる音がし、皆が音の方を見ると、シュウダが洗面道具を地面に落としていた。


 それを見たセーラがシュウダに声をかける。


「シュウさん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫。手が滑ってしまって」


 セーラは、シュウダに声をかけながら、シュウダの落とした洗面道具を一緒にひろう。


「あ、コップが割れてしまった。痛っ!」

「シュウさん! 俺が拾うから待って!」


 そう言うとセーラはシュウダに代わってコップの破片を拾いはじめる。

 破片を拾いおわるとセーラは、シュウダの手をとる。


「⁉」


 突然、手をとられたシュウダは驚くが、セーラは笑いかけながら言う。


「シュウさん。傷を見るね」


 セーラに言われるままシュウダが手を出すと、セーラが破片で切った手に回復魔法をかける。

 傷はすぐに消え、セーラがシュウダの手に残った血をハンカチで綺麗にふき取る。


「これで大丈夫だね」


 そう言ったセーラはシュウダの傷が綺麗に治った事を嬉しそうに笑う。


「……あ、ありがとうございます!」


 セーラを行動をぼんやりと見ていたシュウダは慌てて頭を下げる。


「大丈夫。気にしないで……」


 シュウダの肩をポンと叩き朝の準備に戻るセーラ。

 そんなセーラをよそに、シュウダはしばらの間、顔を上げる事ができなかった。


(だめだ……今、顔を上げたら……)


 しばらく上げる事の出来なかったシュウダの顔は、驚くほど赤くなっていた。




 朝食もおえ、出発の準備がすむとビルが皆に挨拶をする。


「出発の準備は良いか? それじゃあ、今日の護衛もよろしく頼む」


 ビルの言葉に皆がうなずくと、ジェノとセーラは先頭にして、一行は歩きはじめる。

 次の目的地に向かう中、一行は何事もなく進み、ちょうど太陽が真上に来る頃、ビルが昼食にしようと言う。


 昼食も全員が大満足でおわり、少しだけ食休みをとる。

 今朝セーラの言った事が気になっていたシュウダが、座って休んでいるセーラに話しかける。


「今朝の話ですが、ゼラさんは恋人がいるんですか?」


 突然のシュウダの言葉に驚くセーラ。だが、セーラはすぐに悲しそうな目をして視線をそらす。

 セーラはシュウダと視線を合わせないまま話しはじめる。


「うん。とっても大切な恋人がいるんだ……」


 そう言ったセーラの瞳は、シュウダには潤んだように見えた。

 セーラは続ける。


「でも……俺は、そんな大切な恋人を傷つけてしまった……」


 そう言って悲しそうにするセーラはうつむく。シュウダにはセーラが泣いてるように見えた。

 思わずセーラの肩に手をのばしそうになるシュウダ。だが、正体を隠していることを思い出しシュウダはのばした手をひき戻す。


 手を引き戻したシュウダはセーラにたずねる。


「いったい何があったの?」

「俺は……何も言わずに恋人から逃げてしまった。か、彼女を傷つけてしまった……」


 それは懺悔の様に聞こえる。


「なんで彼女から逃げたんですか?」


 しらばく黙り込むセーラ。


「……彼女の大切なものを壊してしまった……俺の命なんかより大切なものを……」


「あなたの命より大切なものなんて、そんな事「そんな事あるんだ!」」


 セーラが思わず声を荒げてしまう。


「ごめん、少し頭を冷やしてくる……」


 そう言ってセーラは立ち上がると、近くに流れる川に向かって歩きはじめるのであった。

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