第40話 それぞれの思い


「しかし、悪いな。俺だけ酒を飲んでしまって」


 嬉しそうに、酒を飲むドワーフのビル。


 野宿する夜、ジェノとサイドの二人が作った料理は、全員を大満足させるものであった。

 そんな料理を食べる途中、ドワーフのビルが思わずこぼした言葉に全員が構わないと言った結果、一人だけ酒を飲んでいる。


「しかし、ジェノとサイの料理は美味いな! 酒が進むってもんだ!」

「そう言ってくれると嬉しいな」


 ジェノがチラリとサイドを見る。


「はい! 料理を褒めてもらえるのは嬉しいです!」


 褒められた事に、よろこぶサイドだが、シュウダ達は自分達の存在をセーラ達にばれてはいけない。


(このサイというドワーフ娘の料理のくせ、サイドに似ている気がする……)


 和気あいあいと話す中、ジェノは鋭い視線でドワーフの娘姿のサイドを見ていた。その視線に気づいたシュウダ以外の面々は笑顔を引きつらせていた。


 食事もおわり、しばしの会話も楽しんだ後、ビルが大きなあくびをする。


「明日もあるから、そろそろ寝るとするか」

「そうですね。今日は彼等が持つ魔道具のおかげで、全員がゆっくり寝る事ができるようですし」

「依頼の途中で全員でゆっくり休めるの本当に助かります。ありがとうございます!」


 セーラは本当にありがたいと深々と頭を下げる。


「まぁ、たまたま俺達が持っていただけだ。そんな礼を言われると逆に申し訳なるぜ」

「ランの言う通りです。全員がゆっくり休めると、依頼の護衛にも力をそそぐ事ができますし」

「それじゃあ、明日もよろしくお願いします」


 そう言って全員が自分達のテントに帰っていく。


 シュウダ達は、シュウダとサイド、ハーゲンとラーンに別れテントに入る。


(全員つながったかな?)

(はい、師匠)

(僕も大丈夫)

(こちらサイドです。よろしくお願いします)


 テントに入るとラーンが魔法を使い、全員が心で会話をする。


(なんとかバレずにすんでいますね)

(う、うん……そうだね。で、でもサイドちゃん、ジェノがたまに鋭い目で君を見ていたよ)

(ほ、本当ですか⁉ 全然気づきませんでした!)


 サイド以外の全員がジェノの鋭い視線を思い出す。


(それは私も見たな……サイド君を疑わしそうに見ていた)

(う、うん、僕も見たよ)

(何がいけなかったんでしょうか?)


 全員がサイドの様子を思い出すが、これと言って疑われた理由がわからず黙ってしまう。しばらくの沈黙の後ラーンが気づく。


(もしかしたら、ジェノはサイドちゃんのくせなんかを知っているのかもしれないね。これからは、少しジェノとは距離を取る方がいいかもね)

(ああ、それはありそうだな。師匠の言う通り、自分で気づいていない癖を知っているのかもしれない)

(そうだね。僕達より二人の付き合いは長いし、ましてや家族。自分でしらない癖を知っててもおかしくないね)

(わかりました。でも、これから料理はどうしたらいいでしょうか? 今日一緒に料理をしてしまいましたし……)

(まぁ、料理を一緒に作っても、別々の品を作るようにすれば、良いんじゃないかな?)

(そうですね、それがいいですね)

(それじゃあ、明日もあるし今日の話は終わろうか)

(そうですね師匠。お休みシュウダ、サイド君)

(ああ、二人ともお休み)

(はい、失礼します)


 シュウダ達が魔法で会話していたころ、セーラとジェノもテントに入り今日の事を話していた。






「セーラ様。今日一緒にいて彼等に何か思う事はありませんでしたか?」

「彼等にですか? そうですね……とても強いと思いました」

「セーラ様もそう思いましたか……」

「ジェノ?」


 純粋なセーラは、あまり疑う事をしない。逆にジェノはまわりを疑いながらここまで来た。


「彼等の冒険者ランクをビルから聞きましたが、ランクに不釣り合いな強さな気がします」


 ジェノはセーラのそう言うと難しい顔をする。


「ジェノ。それは何か悪い事なんでしょうか?」

「はい、セーラ様。本来冒険者はランクが上がれば、依頼のランクも高いものが受けれるようになります。そうなれば依頼の報酬も上がるため、冒険者達は自分達のランクに会った依頼を受けるのが

「なるほど、強い冒険者はランクも高くなりますね。と言う事は、彼等は自分達の強さにあっていない依頼を受けていると……」


 セーラの言葉にジェノはうなずく。


「セーラ様。私達は正体を隠すために姿を変え、冒険者ランクも目立たない様に偽っています。私達の様に彼等にも何か理由があり、強さに見合ってない依頼を受けている場合、その理由が良いものなら良いのですが……」


 そこまでジェノが言えば、さすがにセーラもジェノが何を言いたいのか気づく。


「悪い理由なら……と言う事ですね。でも皆さん、すごく良い人に思えます」

「はい、私もそう思います。だから理由が私達やビルさんに害がなければ良いのですが……」

「そうですね……」


 セーラは思わず黙り込んでしまう。落ち込んだと思われたセーラだが、すぐに顔を上げるとジェノに言う。


「でも理由が悪いとも限らないですし! 私はジェノの様に考えが回りませんでしたが私も気をつけるようにしますのでジェノも何かあったら教えてください」


 セーラの言葉に思わずジェノも笑顔になる。


「はい、セーラ様もお気をつけください。それにセーラ様も何かあれば教えてください。もちろん私も全ての事に気づけるわけではないので」


 ジェノがそう言うとセーラも笑顔になる。


「わかりました!」

「はい、では明日もあるので、疲れが取れるようにそろそろ眠りましょう」

「はい、お休みなさい。ジェノ」

「おやすみなさいセーラ様」


 そう言ってセーラとジェノも眠りにつくのであった。

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