第19話

 気がつくと俺は、マシンの中でぼーっとしていた。ゆっくりと手足の感覚を確かめる。体が動く……。まだ死んでなかったのか……。じゃあ、さっきまで見ていた光景は、なんだったんだろう。とにかく俺は、自分の部屋に戻って来たのだ。まあ、間もなくあの世に行くわけだが。二度寝みたいな感じか。

 マシンのすぐ横に、スーツを着たドクターがうずくまっている。

「お待たせ。大丈夫かドクター?」

 俺は言った。

「体の具合は?」

 ドクターが難しい顔をして言った。

「具合も何も、もう関係ないだろ。今すぐ逝ってもおかしくない」

 俺は言った。

「限界を突破したみたい」

 ドクターが真面目な顔で言った。

「は?」

「あなたのお父さん、コウダイさん。死ぬときの汚染率が74%だったの」

「うん、知ってるよ?」

「たぶんだけど、あなたもそれぐらい行くかもね」

 ドクターが涙を流して、でも努めて冷静に言った。

「マジかよ。みんなとカッコよくお別れして来たんだけど……。どんな顔して次会えばいいんだ。めんどくせぇ」

 俺は呆然として言った。ドクターが、俺の腹に重いパンチを食らわせた。一瞬息が止まった。

「……。俺いま、戦場から帰って来たんだぞ? 最後は君と、ネットワークで抱き合って死のうとか思ってたのに」

「もっと殴るわよ。殴りたいわ……。これから最低240時間、浄化作業しますからね」

 ドクターが冷たく言い放った。

「嘘だろ? 240時間? ムリムリ。飯は?」

「胃に穴を開けて、寝ている間はそこからカロリーを入れてあげる。思いっきり食べさせてあげるわ」

 泣きたい。

「あ、そうそう。あなたが無茶な戦い方をしたから、サイカが激怒してたわよ。覚悟しておくのね」

 ドクターが楽しそうに笑って言った。そして俺の体にイソイソと浄化装置を取り付け始めた。

 あーあ。俺、ちょっと死にたいかも……。

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お兄ちゃんは免疫系のディフェンダーなのでひたすら耐えるしかない ぺしみん @pessimin

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