大多数決
秋待諷月
大多数決
「五三兆六七七七億三六八一万一二七三、対、四六兆四一二四億五五五二万四八九〇! よって本案は可決成立しました!」
途端にどっと湧き上がるすさまじい歓声、一斉に突き上げられる拳。まるで地震のように揺れる場内は、群衆から放たれる熱気で満たされていた。
「とうとう成立したか。長かったな」
鳴り止まない拍手喝采の嵐の中、俺は両耳を手で庇いながら、右隣でやはり己の耳に指を突っ込んでいる友人に話しかける。彼の現在の心境が痛いほどに伝わってくるからだろうか、この大音声の中で耳を塞いでいるにも関わらず、友が口にした言葉はしっかりと聞き取れた。
「ああ、本当に長かった。ここに辿り着くまでに、一体どれだけの同志が倒れていったことか……」
「全くだ。俺たちが生きているうちに、この瞬間に立ち会えるとは思わなかったよ」
その言葉を聞いた友人は感極まって、ズズ、と洟を啜りあげた。汚っねぇな、と揶揄しながらも、俺は忽ち滲んでいく己の視界を鮮明に保つことなど到底できなかった。
群衆は沸き立つ。ようやく下された、この歴史的な決定に。
だが、これは出発点に過ぎない。全てはこれからだ。これから始まるのだ。
歓喜の渦に呑まれる場内の中心、壇上に立った代表が、今、ここに生き残っている全ての者たちへ向け、喉も裂けんばかりに声を張り上げた。
「ただいまより多数決を持って、『多数決による決定を禁止する法律』を採択します! これにより今後、賛成と反対の数を数えているうちに有権者が死亡していく悲劇は無くなることでしょう! それでは以上をもって、全体内細菌会議を終わります!」
Fin.
大多数決 秋待諷月 @akimachi_f
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます