正しい成人の日の過ごし方
改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 )
木星のコロニー型マンションで家族で記念撮影
「わあ、ハルカおねえちゃん、きれーい!」
「そうよねえ。ユウナちゃんも、お姉さんになったら着れるからね」
「ママあ。マイメは? きれる?」
「着れるわよ。ユウナとマイメの分の振袖もレンタルできるように、地球の
「――ユウナおねえちゃん、ごじょかいってなに?」
「たぶん『こちょこちょ会』の、おとなのやつね。おとなは、へんなところに毛がはえてるから」
「ふ~ん……」
「うーん、この帯、きっつい。ママ、この長い袖ももう少し短くできないのかな。私の耳と同じくらいの長さに」
「馬鹿言ってんじゃないわよ。ハルカの耳とたいして変わらない長さでしょう。それに、帯がきついのは、お正月にお餅を食べ過ぎたからよ。今年は成人式があるから控えなさいって、あれほど言ったのに」
「だって、早めに食べとかないと、今年も『オレオレ猿』が電話をかけてきて餅を持っていかれるぞってパパが言うから……」
「今時『オレオレ猿』の詐欺電話に
「まだ部屋から出てきてない。太陽系統一テストが駄目だったから、落ち込んでる。もう、浪人確定だって」
「まだ二次試験があるじゃないの。いまから諦めてどうするのよ。高いハードルを跳び越えてこそ兎なのにねえ」
「うお、ハルカねえちゃんが芸者さんみたいになってる!」
「うるっさい!」
「顔も違う顔になってる。変なの」
「あっち行け、馬鹿バグス!」
「ハルカ、その
「ち、違うよ、パパ。恥ずかしくなんかないやい!」
「あーあ、照れちゃって、耳が真っ赤じゃないか。よし、じゃあ、みんな居るかな。そろそろ記念撮影を……」
「待って、ウッキー。ウサジが部屋から出て来ないのよ」
「なんだ、まだ落ち込んでいるのか。仕方ないなあ。もしかして、サッキーが何か言った?」
「なんで私のせいにするのよ。『どどんと焼き』には家族全員参加だって言い張ったのはウッキーでしょ。なにも試験前日に連れていかなくてもよかったのに。太陽までは結構遠いじゃないの。時間を取られたって、ウサジも恨んでたわよ」
「『どどんと焼き』で正月を
「なんで急に地球の方言なのよ。ウッキーは土星出身でしょ」
「まあ、そうだけど、一応な。――はあ、しょうがないなあ、みんな少しだけ待っていろよ。パパがウサジ兄さんを呼んでくるから」
「パパ、パパ……」
「なんだ、ハルカ」
「ウサジが部屋から出てきたよ」
「お、なんだ、出てきたか。よし、ウサジ、こっちだ。みんなでハルカの成人祝いの記念写真を撮るぞ。早く来いよ」
「僕はいいです……。遠慮します。僕のような人生の
「おいおい、ウサジ。しっかりしろ。耳が垂れているぞ。顔が隠れちゃってるじゃないか」
「ウサジ兄ちゃん、顔もビスカッチャみたいになってる。くくく」
「こら、バグス、やめなさい。落ち込んでいる兎をからかうもんじゃない。ウサジもウサジだ。パパが言っただろう、兎は足腰で勝負だって。日頃の鍛錬を怠らなければ、跳び越えられない草はない。毎朝みんなで縄跳びを続けてきたように、ちゃんと勉強も続けてきたおまえなら、きっとうまく……」
「ぐえっ!」
「サッキー……なにも息子に不意打ちで兎蹴りしなくても……」
「いいのよ、これくらい。ウサジ! しっかりしなさい。あなたは兎でしょう! 今年は干支番なのよ! 干支の兎が一月から耳を垂らしてうつむいていたら、宇宙中の皆さんに申し訳がないでしょ! また亀に馬鹿にされるわよ! 今年は跳躍の年よ。高く跳ぶためには、一度屈まないといけないの。深く屈んだからこそ、兎は高く跳べるのよ! 人参根性みせなさい!」
「そうだ、ウサジ。ママの言うとおりだ。おまえなら出来る。パパも信じてるぞ」
「パパ、ママ……分かった。僕、頑張るよ。最後まであきらめず、跳んでみせるよ!」
「よし、それでいい。じゃあ、記念撮影だ。ハルカ、真ん中に来なさい」
「あの、その前に……」
「どうした、ハルカ。急に改まって」
「帯がきつ過ぎた? 少し緩めましょうか」
「ううん。違う。……パパ、ママ、今日まで育ててくれて、本当にありがとうございました。こんな立派な振袖まで準備してくれて。まだまだ未熟者の私だけど、今日から大人の一員として精一杯頑張るので、これからも厳しいご指導、よろしくお願いいたします」
「は、ハルカ……」
「うう……いつの間にか、こんなに立派になって……」
「あはっ、パパとママ、おめめがまっかっか」
「め……目にゴミが入っただけだよ、コニマル……うう……」
「ママも泣いてるよ。かなしいの?」
「大丈夫よ、ピーター。これは嬉し泣きっていうのよ。――グズッ……」
「ハルカおねえちゃんもないてる。マイメもなみだがでてきた」
「でも、マイメ、ハルカおねえちゃんは手に目薬もってるよ」
「しっ! ユウナうるさい! ご祝儀のためなんだから、余計なこと言わないで。バレちゃうでしょ」
「俺はできる。やれば跳べる……」
「関係ないぞ、ウサジ。パパとママの感動が半減するじゃないか」
「だいたいさ、大人になるための成人式がエウロパ衛星の『エウロパッパランド』で行われるんでしょ。あそこ、遊園地じゃん。子供が遊ぶところで大人になる儀式して、変なの。どうせ、式が終わったらみんなで遊んで帰るんでしょ。だから嘘泣きしてパパとママから沢山ご祝儀もらう計画だって、昨日ハルカ姉ちゃんが……イテっ」
「余計なこと言うなって、バグス! もう少しなんだから、黙ってて!」
「ハールーカー……」
声をそろえてそう言ったウッキーとサッキーは、前歯をカチカチとさせていた。
正しい成人の日の過ごし方 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます