第26話 ミラーマッチ
2人のリチャードが剣を構えて相対する。
そこにはこれから命のやり取りをする彼らの間にえもいわれぬ独特な雰囲気が漂っている。
リチャードから見れば相手はほかならぬ自分であり、どこまでその動きが読まれているかは把握できない。
だからこそ慎重に動くことしか出来ない。
先ほどまで加勢していたドランもまだ忠誠心が高まっていないせいかどちらに攻撃すればよいか戸惑っている。
先に動いたのはミラースライムだった。
【核読み】を持つ俺にはどちらがスライムであるかまでわかるのだが、周りの面々はわかっていないようで、
「動いた!けどどっちがどっち?」
「明らかにあっちがリチャードだろ」
「いや反対がリチャードよ」
なんて言ったりしている。
それもそのはず、両者は全く同じ動きをしているのだ。
ミラースライムの【模倣】には副次効果がある。
それは、見た目やスキルの模倣だけでなく自らの意思によって動きをトレースした場合に身体能力に補正がかかる。
つまり、模倣元と全く同じ動きをすることによって相手の一枚上手に回れるのだ。
一度補正がかかれば、動きのトレースができた時間が長く、動きが一致しているほど補正の持続時間も伸びる。
ミラースライムはそれを理解した上で動きを完全に合わせているのだ。
「同じ動きをしやがって!真似すんじゃねえ!」
先に同じ動きの立ち合いから抜け出したのはリチャードの方だった。
「王国軍式剣術、穿孔突き!」
リチャードの剣はまっすぐミラースライムの胸元へと向かう。
確実に貫いた。
しかし、
「ど、どうなってやがる!」
ミラースライムはなんとリチャードが間合いを詰めてきたことを利用して核の位置を移動し、攻撃を仕掛けたのである。
これにリチャードは狼狽しながらも一度立て直すために下がる。
ミラースライムはそれを見逃さなかった。
「追撃してきたか!くそっ!」
一気に距離を詰め、ミラースライムが繰り出したのはリチャードが最初に放った技、正剣切りだった。
「それは俺のだッ!」
リチャードは何とか頭上に構えた剣で防ぎ、さらに押し返して相手の体勢を崩させる。
「核の位置を掴むんだ」
「はぁ?んなこと言ったって魔術が使えないから感知魔術が使えねえんだよ!」
俺のアドバイスを一蹴しもう一度斬りかかる。
しかし結果はさっきと同じ。
できた傷の位置に核はなく、カウンターに間合いを利用されてしまう。
「リチャード!感知魔術じゃない!考えろ!お前が奴だったらどこに核を置く?」
「そんなの当たり前に一番狙われにくい位置だろ!一番ダメージが少ない部位…そうか!」
リチャードは剣を持ち直し、穿孔突きの構えをとる。
「つまりどういうこと?アルト」
アミルにそう聞かれたので、
「ミラースライムは戦いながら学習する。つまりリチャードが攻撃で狙ってくる部位や、自分が攻撃した時に相手が守る部位などから急所をある程度把握するわけだな」
「それで?」
「しかし【模倣】スキルの特性上、奴はそっくりに模倣する。と俺たちは思っている。それを利用されたわけだ」
「つまり何が言いたいのよ」
横で聞いていたミナが聞いてくる。
「つまり奴はリチャードの動きを見て、1番急所からかけ離れている部位に核を置いている。」
瞬間、リチャードは片手でを持っているミラースライム空いている方の手を貫く。
「取ったぜ」
そういうリチャードが持つ剣先には貫かれた核があった。
「おめでとう、上出来だよ」
「へっ、こんくらいなら余裕だ。だけどよドラン、活躍させてやれなくて悪かったな」
それに呼応するようにドランが鳴く。
「よし、これで3人目が終わったわけだ。次は誰が行く?」
そう問いかけると意外な人物が手を挙げた。
「私、行きます!」
それはこの中で最も魔法以外の戦い方に慣れていないクレアだった。
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核術概論〜悪魔と世界の関わりについて〜 舵輪 @Darin
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