episode.2 BETABORE

 サンミリオン・フィーユの最終公演以来、どうしても生き甲斐を無くした。それは俺達壁男子皆同じだった。

 今更別のアイドルへ移行も、サンミリオン・フィーユの秘めたポテンシャル相当のアーティストはいなかった。

 そこで、定期公演も無くなり、行くあても無いので、毎月末土曜のライブハウス:スチーム・パンクには、どのアーティストだろうと、壁男子が自ずと集まり、ドリンクスタンドで歓談に入る。そこに、富永さんから、とっておきの話題が持ち込まれる。


「ここは業界筋のうんざり話だが、サンミリオン・フィーユの帯同旅行が企画されているらしい。実質解散なのに、プレイングマネージャーかんなさんさんも、はいそうですかと失職出来ないし、何かなだよな。メジャーから離れても、アンダー放逐したら駄目なのに、何を実質解散グループに、今も張り付くやら」

「ああ、でも俺、帯同旅行行きたいです」

「日吉さん、そこな。無理だと思う。その旅行は、メンバー4人のグアム挙式のトータルマリッジらしく、トータルと付く以上、グアムで結婚式挙げないと行けないらしい。お相手いるのかな」

「それは、ほら、日本国のマイ・シリアルのマリッジアプリですよ。サンミリオン・フィーユの4人同時結婚発表で、やっと世の中を賑わしましたよね」

「甘いな、日吉さん。世の中には、とっておきと言うのがある。結婚成功率が5%から中々上がらないものだから、出来レースが報道出来ないソースとして、燻ってる訳さ」

「ここは川端さんの筋が通っている。うちも細々とマッチングアプリを提供しているが、発表統計を紐づけたら、どうやら高額納税者へと順にあてがってる。それはそうだな、標準納税者優先したら、やれ控除とかで、税金厳しく徴収出来ないからな」

「明石さん、ああでも、俺、納税者として、そこそこより上です。滑り込んで帯同旅行したいです」

「だからさ、日吉さんさ。順繰りのやや上で、何事もの器量良しが、あなたに回って来るかだよ。いいかな、俺は妥協が、本当嫌いなんだよ。ここは俺に乗ってみないか、いや、いっそ皆だ」


 実質リーダーたるマッチングアプリ:ボナンザ社長の明石内匠さんが、日本国のマイ・シリアルのマリッジアプリより、うちのアプリBETABOREの方が良いぞで、その場でアプリをダウンロードさせられ、クレジットカード登録をし、1ヶ月会員費3万円の規約を読んで会員になった。そう、このハイソサエティの面子で、会費が高いは誰も言わなかった。

 何よりBETABOREの由来のベタ惚れがキャッチーだ。BETABOREへのプロフィール登録は分かりやすく、生年月日出生地に経歴と、兎に角自己写真を無制限にアップし、キーワード登録として1000の言葉を打ち込めだった。これでBETABOREの中のAIで類語分析され、兎に角他社比上等な女子とマッチングされるらしい。

 これで、俺達やや暇だから一度は結婚出来るぞから、メンバーの処女を最後迄見届けられるぞで、大いに舞い上がる。

 ここでオーナーの楓さんがあなた達下品と、しっとりを促す様に、八戸の冷酒のお猪口が振る舞われた。味わいが辛い。楓さん、それではサイドメニューはとオーダー取りに入る。実に商売上手だった。


 その一見簡単なマッチングアプリBETABOREだが、いざ1000の言葉を打ち込もうにも、至る語彙がまるでなかった。

 俺は自室の本棚から、何かと書籍に、CDに、プレイリストに、映画を登録したが、こういうので埋め尽くしたら、同性ライバルとの差別化がなくなるのではと、改めて必要な1/3だけに絞り込んだ。

 ここからはブログを書く要領で、過去これ迄の出来事を、単語のみで入力して行った。明石さんとやり取りしたら、大凡の女子の入力方法はそれだから、大当たりの可能性はあると、高笑いされた。

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