episode.4 Total Marriage
何とか捲り、婚約にこぎつけ、今日この結婚式とは、万感の思いだ。
何を置いても、サンミリオン・フィーユのメンバーの処女性を見送る為に、主催のグアムへの旅行を兼ねたトータルマリッジに、俺達壁男子4組は参加した。
そして世間もやや賑わう。日本国のマイ・シリアルのマリッジアプリを盛り上げる手前、元メジャーアイドルに対しては結構な密着報道となった。
ただ、総勢カップル数は36組に留まったのは、海外挙式の最低参加費250万円は思ったより捻出が難しいらしい。
そして平坦では無かった、俺日吉三十里と曽我部悦乃の7ヶ月の思いが巡る。
マッチングアプリBETABOREの引き合わせで、俺達は相性抜群評価で、一言も言葉を交わさず婚約が成立された。善は急げと翌日には、千葉の老舗ホテルのティーラウンジで、御縁の確認に入った。壁男子はこそっと隠れては、背中合わせに話をじっくり聞く。
曽我部悦乃の印象としては、過去芸歴名美畑悦乃でインターネット検索しては、ストレージにある、雑誌のグラビアに写真集2冊を眺め、普通にネイキッドな肢体も、つい溢れる知性だけは何故か感じた。
そしていざ出会うと、その知性だけが唯一残り、年齢以上に老成した感は否めない。
いや、むしろ落ち着いていて、俺がつい前のめりになりそうになると、話を丁寧に揉み解してくれた。この不思議な出来上がり感は、やはり究極のマッチングアプリなのかBETABOREしか無かった。
俺は至ってボンボンの自分語りをし、悦乃さんも話さなくても良い事と前置きしながら、NGワードのそれを氷解した。
悦乃さんは、大学時代に鹿児島出身のITベンチャー社長と9歳差で交際していた。薄っぺらく見えるが、それは手順を踏んだ真摯な交際だった。
しかしITベンチャー社長のスポーツカーが、東名高速で速度超過で大破し死亡。報道では助手席に婚約者の女優も死亡と有り、そのまま男性不信となり、芸能界から引退したと。
真っ先に不憫かで、俺と後ろの壁男子も泣き腫らした。悦乃さんは、もうそういう男性不信に拘るの不自然とBETABORE登録したのですが、三十里さんと巡り会えて良かったです。逆に何度も慰められた。
その後、悦乃さんとは定期に会談し、俺の家族にも紹介した。浮ついた俺が、丸坊主になって迄も誠意を見せた相手として、家族にかなりの好印象を与えている。
本来ならば、俺の操は一族の事情婚の駒と扱われる筈も。まあ、普段の明石さんの紳士振りから、それは大層なご縁と位置付けられる。
俺の両親のどうしてものリードで、悦乃さんの嫁入りを呈示する。ただ悦乃さんは、早くより父を亡くしていることから、まだ奨学金は300万円有り、今の会社で共働きとして返して行きたいと申し出る。
両親は何を些細な事、日吉兄弟弁護士事務所で働くなら、憂いが無い様にその満額である支度金300万円を用意しましょうになった。押し引きで2時間掛かったが、何事も御縁と、俺達カップルの未来設計の図面は几帳面に引かれた。
そう悦乃さんは、ボンボンとのやや玉の輿に乗ってしまい、どう諭そうにも、俺が主導権を握りがちになるので、深い話は避けて来た。
その折々は、日吉兄弟弁護士事務所の愉快な面々と、何よりの壁男子の絆が鉄板で、グッと盛り上がる。流れから、断固反対されるサンミリオン・フィーユ主催のグアムでのトータルマリッジにも、朗らかに了承された。それが今日、トータルマリッジ当日になる。
いや、普通の奥方だったら、何をアイドルのイベントと未来永劫何かと説教のネタになる筈も、そこはBETABOREのプログラム故にかで、意外に見所あるでしょうと、遅ればせながらのファンになってくれている。
中でも、唯一のファンキーチューン「Natural Born. Singer, Dancer, & Women.」が、壁男子の新婦達はコアファン由来かで、ホテルのディスコティークでヒップシェイクしまくる。壁男子はとしては感慨深く、もっと売れれば確実に刺さるのにと、負けじとファンキーに付き添う。
グアムの海岸沿いのパークホテル庭園には、36組のカップル、最低限の親戚、報道陣と、和やかに犇めきあう。結婚式の前に花嫁姿を見ると先行きが危ういと言われるが、もはや、そんな雰囲気では無かった。
俺はこの大混雑の中で、あっと家族、いや壁男子とぐるり見渡すもどうにも逸れた。
そこにレースのウェディンググローブを付けた、誰かのど偉い美人の新婦に右手を引かれた。ああ新郎が羨ましいなと過ぎるも、いや何だろう、手を引かれる以上、顔見知りがいたかと。
「ありがとうございます。参加カップル、そこ迄多く無いのに、本当かんなさんの仕切りと来たら。結婚式のスケジュールそろそろですから、良かったら、お相手を一緒に探しませんか」
「あの三十里さん、私は悦乃ですけど。お化粧はやはり輪郭強すぎますかね。今からでもお色直ししてきますね」
「ああと、上手く言えない。いや、まず失礼しました。でもここ迄お美しいなんて」
「おかしい、やっとですね。これで、サンミリオン・フィーユの処女をきっちり見届ける、なんて、その下世話さは、ちょっとは控えて下さいね。実は私も、その、あれと、処女でして。ぜひ大切に扱って下さいね」
「ああ、大切、はい。勿論です」
目の前の美人さんは、そう悦乃さんだった。そのノー眼鏡、突き刺す程の真摯な眼差しは、フィルターを通さずやっと見えた。それはとても見目麗しい。
俺は悦乃さんの両手を、極自然に握ってしまった。俺は大切な事を見失いがちだ。あらゆる交渉の手始めは、相手に何が大切な事かを確認しあう事を、やっと学んだ。
BETABORE 判家悠久 @hanke-yuukyu
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