才能の親
たくま
プロローグ
才能のある者には、才能の風が吹く。
才能の風は種を運び、自生し、花を咲かせる。
そうして咲き生まれた才能は、周囲の想像を遥かに超えた力を身につけて成長する。
…俺は、生まれて物心ついた時から、人の可能性を色として認識することができた。
はじめは様々な色が水に浮かぶインクのように混ざっているが、思春期を境にその色
は単色へと変化していき、その人特有の色の顔を見せる。
多くの人間は、途中色がくすみ始め、最終的には黒へと変化していく。
それは、輝かしい子どもの夢を諦めた哀れな大人の色だった。
賢い大人は、純粋だった頃の自分の姿をいつの間にか忘れていく。
聡い大人は、子どもの夢が絶対に叶わないことを知っている。
利口な大人は、挑戦という棘の道を歩むことを止め、成功が約束されたレールの上を、言われた通りに進んでいく。
そうして、自ら才能の芽を捨てていき、黒い大人へと育つ。
……俺は、それが、許せなかった。
いつだって、成功する人間というのは、愚かな子供の心を持つ大人なのだ。
才能のある者は、思春期での葛藤や失敗によって色の輝きを取り戻し、多くの成長を遂げて、大成していく人材へと育っていく。
失敗の経験というのは、成功よりも、難しい。
成功か、失敗か。その明暗を分けるのは、単純な努力の差ではない、と思う。
例えば、スポーツの試合ならば、実力で負けた。運で負けた。チームメイトがミスして負けた。審判の判定ミスで負けた。
例えば、テストの点数勝負ならば、勉強せずに負けた。寝不足で負けた。試験範囲を間違えて負けた。カンニングが見つかって負けた。
負けた=失敗だ。では、勝った=成功なのか。それは違うだろう。
運で勝っても成功とは言えないし、勉強していない相手に勝っても嬉しくない。
成功か、失敗か。それは、勝ち負けと同義ではない。
では一体なんなのか。俺が思うに、全力を尽くしたか否か、だと思う。
自分の全力を出し切り、全力で相手と、はたまた自分とぶつかることで、見えてくる世界というのが存在する。
これは、全力を尽くした者にしか見えない境地であり、一度見えるようになると、真剣勝負の楽しさがわかるようになる。
しかして、この境地に至らない人というのは、己の限界を決めつけるのだ。
これが、非常によくない。
ある時、才能の風を感じた。色を認識できるようになってから、感じたことのない風だった。
俺は、風を追った。追って追って、さらに追う。そうして見つけた、小さな芽は、ひどく弱っていた。
俺は、疑問だった。なぜあれほどの才能があるのに、大きな芽を出さないのだろう。
そして気づいた。彼女の色には、自身の持つ可能性に目をつむり、挑戦することを諦めた荒んだ色が現れ始めていた。
彼女は、進んで諦めることを放棄したわけではなかった。
彼女の両親によって進む道を閉ざされ、彼女の担任によって今歩んでいる道からの途中下車を進められる。よくある話だ。そう、よくある話。
彼女は、諦めることしか、選ぶことができなかった。
将来の芽を伸ばすことよりも、己の考えるレールの上に強制することに執着した、醜い悪魔によって、才能の色はくすんでいくのだ。
つまるところ、「親」のせい。「先生」のせい。「社会」のせい。
親が許さない。教師が許さない。社会のシステムが許さない。
自由なようで、何一つ自由な羽を持たない。才能の色をもつ思春期の少年少女。
もし、本当に才能の色が見えるなら。閉じていく芽を見つけられるのなら。
俺ならば、余りある才能をもつ子どもの将来を、救ってやれるのではないか。
……俺は、人に才能を芽吹かせ、「社会を掌握する」ことにした。
才能も未来もある若人の、全てを救うために、社会に巣くう闇を一掃する。
これは、俺、
才能の親 たくま @takuma07
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