第41話 人間って怖い2
どうしよう……出ようと思えば出られるんだけど…なんか人間が間抜けすぎて?なんて言って良いか分からない。
「どうしますか?こっちの正体はバレていないのでどうにでもなりますけど」
「バレてるバレてないの問題じゃなくてさ。ちょっと人間の頭を疑うよ?」
「魔族の方が人間より五感が優れているなんて今時知らない者なんて居ない筈。ですよね?」
「そうな筈なんだけど……警備が薄すぎるというか……」
「あの〜ひとつ思ったんだけどさ。俺らが規格外なだけなんじゃないの?確か魔王の血に近づけば近づく程強くなる。みたいな感じだったよね?ラノベみたいにさ上の人間が異常な程強いだけなんじゃ……」
……その考えをすっかり忘れてた。めちゃくちゃその可能性高いな。魔族軍の兵士達の個々の能力はそこまで高くない。魔族だからと言って全員が全員魔法が得意というわけではないし。攻撃系統の魔法が使えるわけでもない。屈強なイメージの魔族だと思うけど、実は大して強くない。魔族軍に配属されている者達はごく一部に過ぎないし。
簡単に言えばドワーフは戦う事に特化しているのではなく、武器を作るのに特化している。オーガは力持ち。コウモリ……は動物だけど、情報伝達に特化している。人間と一緒でそれぞれ得意な事が違うからそれぞれに合った職についているし、それぞれが好きな事をしている。それは魔族の良い所だと思う。何かに縛られる事なく。好きな事が出来るというのは。
「そう考えればこの扱いにも納得がいくかもしれない。ただの魔族ならそんなに大きな力を持っていない。だからこの位の拘束でも十分だし、ほとんどの場合何も問題がないんだ」
「ただ、今回人間は俺らの扱いを間違えている、という事ですね」
「そもそも魔王本人とその補佐官、そして転生者……ファルヴァント様の書類上の弟の涼牙様。この四人で人間界へ乗り込んでくるなど異常でしかありません」
「まぁ、絶対にあり得ないであろう面子で侵入を果たしはしたな」
「どうしますか?おそらくここには勇者がいません。この状況ならこの上を攻め落とすなど造作もないでしょう」
「涼牙、あのさ、一つ……武器持って来てないんじゃない?」
「……僕は持ってませんね。そもそもろくに戦えないですし」
「となると主戦力は二人」
「なんで二人!私はは戦力にならないのですか!?」
「クロムは涼牙のお守り。だから戦力外で」
「……人間と戦わせてくれないのですか?」
あの…そんなにしゅんとしないでくれませんかね。というか、涼牙を守りながら戦闘しなくちゃならないなんて一番大変だけど、やりがいがあって。信用されていると言う事に気が付かないの!俺はこれを口に出したくないから察してくれるかなと思ったのに……
「守りながら戦わなくちゃいけないという一番大変で重要な役だと思うんだけど……」
「っ!それは光栄です!喜んでお受けいたします!」
『クロム!声でかい』
小声で叱りつつ。作戦を煮詰めていく。幸い兵士は牢の近くにいない為、多少声が響いたとしても聞こえてはいないと思う。だけど念の為。
「じゃぁ、さっさと見張りをぶっ倒しますか。それよりこの城は綺麗に残しておいた方がいいですか?最悪の場合ここを第二の拠点にする可能性があるかもしれないのでしょう?」
「その通りだ。作戦通り頼むよ」
「えっと姿は魔王の姿?」
「そっちの方がかっこいいですが、嫌な事態は起こしたくありません。人間の格好でいいですよ。剣は持ちましたね?」
「今回こいつは使わないよ。こんな雑魚の為に使う剣でもないし」
「そうですか。ではファル様、お願いします」
「転移」
「行け!」
一瞬にして現れた俺達に対応できずそのまま倒される兵士達。思った事を素直に話してもいいだろうか?というか話すのだが、魔王軍の新兵でももっと強いぞ?こいつらはおっさんだし、熟練といってもいいのではないか?それなのにこの程度。所詮は人間だったという事だろうか?
「あの、ファル様。恐らく人間には見えないかと……」
「……なるほどな。こっちの方が楽だ」
「そうですか。地下から出られたら春樹は右を頼む俺は左を制圧しつつ、少し遠回りしてあいつを呼んでくる」
「亜陸ですね。あの子をどうして」
「少しばかり有用なんでな。意外とあいつは便利なんだよ」
「そうなんですか。それより、神気は大丈夫ですか?」
「大丈夫ではない。魔族領と比べ大分魔素が薄いせいか呼吸がし辛い」
「その程度なら大丈夫でしょう。少し耐えてください」
酷くないか?耐えてください。など。俺は苦しいと言っているのに。まぁ、亜陸に頼むけどさ。
『亜陸、急いであのネックレスを持って来い。絶対にそのまま触るな。手が焼ける』
『分かりました。ですが、何か異常が?』
『少々面倒なことになってな。どうしても城を制圧しなくてはならなくなった』
『えっと、応援は……』
『必要ない。そのネックレスだけ持って来いこれではまともに戦えぬ』
『直ちに』
『助かる』
少しスピードが緩んで来たか。上手く体が動かせん。理性があとどれだけ持つか。この調子では神気当てられ過ぎていつかおかしくなりそうだ。
「魔族が逃げ出した!地下牢に損傷はない!」
「はぁ?一体どういうことだ?」
「魔族が逃げたんです。牢から。それと、結構な人数がもう使えません」
「取り敢えずここを抑えろ。これ以上中に入れるわけにはいかない」
残念だな。俺はもう突破してるんだ。睡眠の魔法をかけつつ、致命傷は逃れるように少しばかり傷をつける。このくらいではすぐに死ねないだろう。
国宝の一つ、魔素の濃度が異常に高いと言われる魔道具の欠片を持ち帰らねば。それを果たす為の攻め落としだ。全く父上の形見なんて言い方をしよって。これでは逃げるに逃げられないではないか。それにその魔道具は父のものだが、多くの記録が残されているらしく、今後優位な情報が多く含まれている可能性が高いと言えるらしい。各国の宝物庫を漁り、その魔道具を完成させるのが人間と魔族の戦争で一番早く決着がつくとクロムが言い切る程の代物らしい。それは素晴らしいな。今は亡き父だが、誇り高く思う。
さて、この辺の豪華そうな扉が宝物庫であってる……
「いたぞー!」
俺は今開いてはいけない扉を開いたな。確実に……あー、やってしまった。
「いけぇ!陛下をお守りしろ!」
「スリープ……」
「状態異常の魔法、かかりやすいな…人間」
致命傷を避け、少し傷をつける。国王に無言で近づき、疑問を口にする。
「魔道具は何処だ。早く言え。さもなくばお前の首が飛ぶだろう」
「……」
「おい、いいのか?いいんだな。なら遠慮なく」
「自白しろ。命令だ。」
「この奥」
「……っ!!なっ」
ただの自白魔法だ…人間は使わないのか?
『ファル様ぁ』
「助かった…お前は戻れ。ここは荒れる。お前は重要だ」
「了解」
俺はネックレスに魔力を込めて発動させる。色々な機能が備わったこの魔道具は神気から体と魂を守るものだ。
「お前、早くいけ。出ないと死ぬぞ。お前ではこれに耐えられんだろう」
「その通りです。ですが、ファルヴァント様のお手伝いがしたいのです」
「無事に帰る。それがお前の仕事だ」
「……」
落ち込んだ様な亜陸は命令に従って大人しく帰った。あとは魔素をたどりつつ、正確な位置を確認する。奥の隠し扉の奥にある。厳重な警備が施された部屋に目的のそれはそこにあった。
「……これがっ!凄い力が…湧き出てくる………」
転生したら魔王だったので悪役演じてみることにしました! 与那城琥珀 @yonasirokohaku
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