第21話
「お母さん。」
「遥架。」
幼い自分を背負って小学生の頃の友達の元へ戻っていると、右足を引きずりながらこちらに近づくお母さんの姿が見えた。
「ママ!」
「遥架!」
お母さんが気づいて声をかけたのは私じゃなくておんぶしている彼女の方だった。まるでお母さんは私の存在が見えていないようだった。彼女は私の背中から降りてお母さんの元へ駆け寄った。お母さんは彼女をだけ占めて安心したのか二人して泣いていた。
「良かった。」
私は無意識に独り言を呟いた。すると、スッと視界がぼやけていった。
―――・・・
「遥架!?」
「遥架ちゃん。おかえりなさい。」
ゆっくりと目を開けると白い天井が見えた。そしてゆっくりと声がする方へ顔を向けるとちゃんと、高校1年の顕斗とカンパがいた。
「ただいま。」
私はふっと笑った。
―――・・・
「「ただいま。」」
私たちは重なった声にびっくりして目を見合わせた。そしてお互いケラケラ笑った。言葉探し一日目を終えて家に帰った私と顕斗はへとへとだった。欠伸をして、リビングのソファーに荷物を降ろして私は台所へ向かった。
「どうしたの?」
「俺も手伝うよ。」
突然顕斗がそんなこと言い出すものだからびっくりして体が固まった。そんな私の反応に「なんだよ。」と、何でもないような顔で言われて我に返る。
「ありがとう。」
「ん。」
台所で料理をして、使ったものを洗っている間は基本静かだった。私は訊きたいことが沢山あったけれど、どうしてだか声が出なかった。
夕食を作り終えるとテーブルに二人分の夕食を並べた。お父さんの分はラップして 横に置いといた。二人で食べているときも静かだった。沈黙を破ったのは顕斗だった。
「おいしい。」
私はまたもや固まって顕斗を凝視した。
「本当?」
顕斗は静かに頷いた。
「今までごめん。遥架に対してどんな顔していいか分からなくて態度が悪かった。」
「ううん。私こそ。勝手にイライラして。えっと、私の作ったもの、まずくない?」
「さっきも言ったろ?『おいしい』て、いつも思ってる。」
私は嬉しくなって胸がいっぱいになった。
―――・・・
「私のせいで...お母さん...。もっと私が大人だったら。」
あの日。夏祭りのとき花火が打ちあがる根本のところでまで来てしまった私はお母さんに抱き上げられて一緒に逃げた。けど遅くて、花火が打ち上げられて火花がお母さんの足に直撃して思いっきり転んだ。私は強く腕を打ち付けてしまったがなんともなかった。お母さんはそのまま倒れて立ち上がれなかった。そのときに駆け付けた大人が救急車を呼んでくれたからすぐに対処できた。けど、私はずっと悲しくて怖くて泣きじゃくったのを覚えている。
入院しているお母さんの元へお見舞いに行った時だった。お母さんは本を読んでいた。
「いらっしゃい。遥架。」
お母さんは微笑んで私を向かい入れてくれた。けど、そのときも泣いてしまった。何故ならあの一件で夏祭りの廃止が決定したのを耳にしたからだ。理由は警備費不足。元々廃止にすべきという声が上がっていたのだが曖昧であったところを私がそれを決定づけてしまった要因の一つになってしまったという後悔と、お母さんをこんなにしてしまったという悲しさからきた涙が止まらなかった。
「私、もっと大人になる。もう『ママ』て、呼ばないで『お母さん』て、呼ぶことにしたの。」
それを聴いたお母さんは「そ。」と、どこか寂し気な表情をした。
「ねえ。遥架。『言いたいことを言わないでいい。』て、言ったらどう思う?」
「どういうこと?」
嗚咽を漏らしながらお母さんの問いに返事をする。
「私は大丈夫よ。多分、遥架は言いたいことが沢山あると思うの。でもね。大丈夫よ。ゆっくり考えて整理してからいいなさい。」
「はい。」
少しだけ項垂れた私をお母さんは頭を撫でた。
―――・・・
「大好き。」
私は退院したときにこう言ったのを思い出して声に出したのを「あっ」と恥ずかしさで口に両手を抑えた。顕斗は一瞬びっくりした顔をしてその後ぷっと噴出した。
「何よ。」
「ごめんごめん。遥架は俺のこと『大好き』なんだー。へぇー。」
私は「からかわないでよ。」と、目を反らした。そのニマニマする顔が一瞬カンパに見える程似ていたとか、なんとなく怒りそうだから言わないでおいた。
私達はご飯を食べながら明日のことについて話し合って今日の会話を終えた。
改訂版)届ロケ言葉の命綱〜言の葉の校舎〜 衣草薫創KunsouKoromogusa @kurukururibon
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