第20話
「お母さん?」
「遥架!!」
暗すぎて姿は見えない。けど、声と息切れしている音が聴こえ、その方向へと体を向けるといきなり思いっきり抱きしめられた。
「良かった。遥架がいきなりいなくなるものだから凄い焦っじゃないの。心配したわ。」
「えっと、ごめんなさい。一体ここは何処なの?今日はお祭りなんじゃないの?」
「ここは神社の裏方の森林の奥よ。イタッ。」
「お母さん?」
母の小さな悲鳴を聴いても暗すぎて何が起こっているのか分からない。私は手探りでバッグ母のポケットやらバッグやらに手を突っ込んでスマホを探す。自分のスマホを入れる場所が無くとも、お母さんなら持っているだろうと思ったのだ。スマホを見つけると電源を入れる。14%だけ残っていた。フラッシュライトで辺りを照らすと母の姿があらわになり、手で押さえている場所もしっかりと見えた。
「血が出ているわ。この坂を上るのは絶対無理よ。下に降りよう。」
そう、提案すると母はふっとライトに照らされた顔で笑いかけられた。
「大丈夫よ。大したことないわ。」
「ううん。駄目よ!絶対引き返させないわ。」
私はぶんぶんと首を横に振って肩を貸した。お母さんは本来であれば病院で寝込んでいるはずだ。その理由は私がお母さんを止められなかったということも要因の一つだろうと、勝手に後悔している。あれを再度繰り返すわけには絶対に行かない。母は一瞬拒否るが、すぐに大人しく私の肩に寄り掛かった。
「こんな役立たずでごめんね。」
「ううん。お母さんは役立たずではないわ。」
「そういや遥架、私のことを『お母さん。』て、呼んでいたっけ?」
「え?」
私はすかさずスマホで西暦を確認した。2016年8月。私が小4のときの夏。夏祭りが廃止になった年の前年。この頃はまだお母さんのことをママと呼んでいたのか。正直、あまり記憶がない。
「ごめんね。呼び方なんて何でもいいの。ただ驚いただけ。いつもの遥架のはずなのに、どこか大人びて見えるからびっくりしただけよ。」
それは先ほど、おじさんにも言われたことだ。私はいつになっても変わっていないのだと思っていた。でも、もしかしたら違うのかも。
「お母さん、光が見えたわ。もう少しよ。」
お母さんの引きずる足並みに合わせてゆっくりと、光が灯る方へ歩いて行った。
―――・・・
多くの木々を抜けると、ようやく道路が見えてきた。その道路の向こうには海が広がっている。夜の漆黒の海。昼までは見られないよの黒さに胸はゾワゾワと謎の恐怖が煽られる。
「お母さん。やっと知ってる道まで来たわ。」
そう言って、安堵したのも束の間。左肩のにかかっていたお母さんの重さがなくなっていた。
「お母さん?」
何処にいったのか分からない。姿が見えない。声も聞えない。もう一度「お母さん。」と大声を出してみても返事が返ってこない。私は焦りとともに血の気が引くのを感じながら冷静になろうと深呼吸を繰り返す。
お母さんは何処だ。とりやえずいつから肩の重さを感じなくなったのかを思い出して、どうすればこう一瞬にして姿が見えなくなるのかを頭の中で整理してみる。小4の夏祭りには何があっただろうか。この頃は学校の友達と来ていて家族とは別行動だった。でも、それ以降のことは何も覚えていない。もちろん私は迷子になったことも覚えていない。どうして覚えてない?そのときだ。頭に直接しびれるように聞こえた。
『遥架、戻ってきてくれ。もう一度やり直そう。』
顕斗?『やり直す』て、何を?
「顕斗!どこにいるの?」
誰もいない道路、車一つ通らない暗闇の中に溶けるだけの私の声。『やり直す』て、何?なんなの?
『あの日をやり直そう。遥架ならできる。』
「だから『やり直す』て、なんなの?今日のこの時間に私は何をしていたの?」
分からない。ぐちゃぐちゃになった頭で考える。思い出そうとこねくり回す。何処へ向かえばよいか分からないけど直感で決めた方角へ走りにくい下駄を脱ぎ捨てて歩く。すると思い出した。花火が打ちあがる時間だ。先ほどお母さんのスマホで見た時間帯を脳裏に浮かんで思い出す。
「お母さん!」
思い出した。ちゃんと思い出した。夏祭りが廃止になった理由。この日の出来事全部。
―――・・・
「危ないわよ!早く逃げて!」
私は花火が打ち上げられる場所へ来た。そこで蹲って泣いていたのは小4のもう一人の私だった。どうしてこんなところへ来てしまったのかなんて覚えていないし、この頃だって、気づいたらこんなところへ来てしまったのだろうから覚えていないのも無理はない。
「怖い。怖いよ。ママ。」
「あなたが逃げないとお母さんも危険に巻き込まれるわ。早く立って、逃げましょう。」
「無理。タてない。足に力が入らない。」
駄々をこねる彼女に私は心底呆れた。でも、自分相手だからか怒る気力もない。
「ほら、おぶってあげるから手を伸ばして。」
「ひっぐ。お姉ちゃん。うわーん。」
彼女は大人しく頷いて私の背中に身を預けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます