第19話

『問題1:?①と?②に当てはまる文字を入れろ。』


今回の俺とカンパだけで解く問題では二つに分かれていた。正確に言えば、一個目で出た答えを使って二個目の問題を解くという、物理や数学でよくあるような最初の問題が間違っていたら全部間違えという、意地悪な問題形式。


「これはあみだくじか?右にあるのは虫取り網。それと半分に折れてる折り紙。」


もっと詳しく言うと、あみだくじは五本の線でできていて、左から二番目には青い線でなぞられている。そこから右矢印が引かれて網の絵が描かれている。折り紙は半分に折られ、左側半分に赤い線で囲まれている。そしてまた右矢印があるが、その先に書かれていたのは「①②」。きっと、ここに問題の一個目の答えが入るのだろう。


「そういや、寒波。この問題はどこに入んの?」

「これは下から二番目の空欄だよ。」


俺が手紙を出すとカンパは「ほら、ここ。」と、小さな体で空欄を示した。内容は「できることなら、もう一度あの日を『    』たいです。」とのことだ。


「了解。」


と言っても、今回は複雑だ。この空欄に入る単語を考えてみると数パターンでてくる。俺は憶測でこの空欄の中身を考えるのを止めて問いしっかりと向き合う。


『縦五本のあみだくじ(左から二本目に青い線)⇒虫取り網?

 折り紙(左半分は赤で囲まれている)⇒①②       』


まずあみだぐじと虫取り網と思しきイラストを解明する必要がありそうだ。そしてやはり青い線が気になる。横の線は何かこうなる理由はあるのか?いや、理由はない。


「5本線。もしかしたら『あみだくじ』が五文字だから五本。と、いうことは左から二本目。これは『網』。」


虫取り網だと思ってたものは単なる網であることを示したかった。だとすれば、こっちの折り紙は半分になっている。折り紙は四文字。その半分は...。


「と、いうことは①②の答えは『おり』だな。」

「顕斗君順調だね。」

「カンパは一緒に考えてくれないのか?」

「僕のこの小さな脳みそが役に立つと思う。」

「それもそうだな。」


俺は納得したように言うと、言った張本人は何故か不満げだった。少しぐらい否定してやってもいいのではないかとか思っているのかも。いや、これは俺の憶測にすぎない。それよりも問題に集中しなくては。


『問題2:数直線に②と①を当てはめて5マスに文字を入れろ。』


「これは数直線だな。」


と言っても、この数直線ちょっと変わってる。矢印が左に向いていてそれでいて書かれた数字が4と7と8。そして4と7の間に②があって、7と8の間に①がある。実際①と②に『おり』を入れてみるとこうなる。


『←(数直線)

 4お7り8  』


左ってことは右から左に読めてことだろうか。だとしたら...。


「そしたら、『はちりななおよん』。」


声に出して読んでみたが、違うのか。首を傾げて考え直してみると、俺はまた別の回答を声に出してみる。


「『やりしちおし』。違うか。」


少しだけカンパの姿が目に入ると俺と一緒に腕を組んで首を傾げていた。ちゃんと一緒に考えてくれているらしい。


「寒波は何か分かったか?」


自分の手の裏をカンパに見せると、そこにちょこんと羽をパタパタさせて蝶が指に止まるようにカンパは座った。


「ううん。やっぱ僕には分かんないや。」


「まあ、そうか。」と、俺はまた「う~ん。」と唸りだすが、カンパはすぐに声を上げた。


「あ、でも。『やりしちおし』。て、顕斗君さっき言ったよね?」


俺は先ほど口に出したことを思い出しながらコクりと頷く。するとカンパは嬉しそうに羽をパタパタさせた。


「『やりなおし。』にならない?さっきの『しち』を『なな』の『な』にして!」

「本当だ。でかしたぞ!寒波!」


俺はカンパの言われた通りに読んで確認してみると『やり直し』になった。そうやって、気づかないうちにカンパと息が揃うようになっていたことにも少々驚きつつ問題用紙が再度、蝶になって文章の空欄に埋まるのを映画のワンシーンのように見ていた。


―――・・・


私は奈落落ちている。何処まで落ちるのだろうと思うほどに長々と。そのときに見た。


「走馬灯?」


私は死ぬのだろうか。でも、走馬灯にしてはあまり記憶がない映像だった。私は海の近くまで来ていて、夏祭りの雰囲気はないのに私は浴衣を着ていた。それも先ほどの 5歳のときの浴衣よりも大人っぽい浴衣だった。


「ここは何処なの?」


夜も遅いので光のない真っ暗闇。見えないだけかもしれない。ここは知っているはず。もしかしたら知らない場所に飛ばされたのかもしれないけど。それにしても蒸し暑い。嫌いな夏の暑さだ。


「顕斗!カンパ!」


もしかしたら?と思って声を張り上げるも暗闇に溶けるだけだった。


「痛い。」


歩いていたら何かの看板に思いっきり膝をぶつけたようだ。何の看板かは暗すぎて見えなかった。その時だ。どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。


「遥架!」

「お母さん?」


それは、紛れもなくお母さんの声であった。

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