第3話

「HOUSE Aliceへようこそ!」

 アリスはそう歓迎しながら、私を窓際のテーブル席へ案内した。

「是非、ゆっくりしていってね」

 という言葉と一緒にお冷とお菓子を置き、重厚感のある本棚へと向かっていった。

 私は差し出された水を一口飲み、そして一つ違和感を持った。

 これはただの水。異物が入っている感じもしない。ただ一つ違和感だけが残る。だけど不快ではない不思議な感覚。

 もちろん炭酸水ではない、レモン水というわけでもない。

 流石に毒が入っているとか、そういう物騒なことでもないはず。

 そして有栖はしばらく考えた。

 ……あ、もしかして、これ硬水?

 あぁ、そうか。ここは日本じゃないから、水が違うのか。

 それはあたりまえといえばあたりまえの、だが意外と気づかない、ごく普通の違和感だった。

 硬水となるとなんとなく牛肉料理のイメージが強いけれど、この街はどうなんだろう。

 意外と水のことってわからないな……。


 と、有栖が考えていた合間、アリスは戻ってきた。

「あ、そうだ。もしかして、やることなくて暇だったりする?」

 有栖は内心、それは仕事を手伝えということなのか、と、考えながら返事をした。

「まぁ、そうですね。はい」

「ならさ〜」

 やっぱり。

「この本読んでみない?」

 ……じゃなかった。

 そう勧められたのは、革の表紙に羊皮紙の本文で出来た本だった。

 アリスは表紙を開き、ページを捲り、そして本文を読み聞かせてくれた。

「〜〜」

 だが、その声というのは私には聞き取れず、ただ音として流れていった。

 おかしい。今までいつも通り日本語を喋っても通じていたし、アリスさんも街の人々も日本語を喋っていたのに……。

「ふふ、きょとんとした顔してる」

「今のはね、魔法言語といって私が今喋っている言語とはまた別の言語なんだ。わからなくても無理はないよ。なんならそれが当然なくらい」

「魔法言語っていうのは、言語とはいうけど、人間が喋る言葉とも違う、動物たちの鳴き声でもない。分類としては木々を揺らす風の音や演奏時の楽器自体の音なんかに近い」

「すみません。えぇっと、つまり……」

「ほら、言語って声だけど、魔法言語は音に近い。なんというか、割と感覚的なもの」

「な、なるほど……」

 やっぱり、異世界って変わってる……。私、これから大丈夫なのかな……。


 ……でも、アリスさんが言った通り、暇なのは事実。

「で、どうする? 読んでみる? それとも……」

「あの、読ませてください!」

 百聞は一見にしかず。とりあえず、開くだけ開いてみることにした。

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突如森へワープしたら村人から石を預かったので、王様へ届けることにした 雨宮あめ @aaa_0122

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