妻の態度が無機質で近寄りたくないので愛人とばかり過ごしてましたが、不治の病にかかって最後まで一緒にいてくれたのは妻でした。 〜だから、人生がやり直せるなら最後まで君と添い遂げたい〜
花下内アンクル@瀬井鵺
始まりで完結
ぶっちゃけ俺の妻は嫌だ。
だって褒めてあげてもニコリともせず、手伝ってもありがとうとも言わない。
単に戦略結婚で無理くり結婚させられた俺は、この女が嫌いだ。
だからだろうか?
結婚したとしても彼女との子供はいなかった。
例え見た目が良くても、こんな人形みたいな女誰が好きになるか。
そうして夫婦らしい生活もなく、ただ時間が過ぎた。
俺は愛人を作り彼女たちとだけ夜を過ごす。
だが父の盟約により彼女の皇太后の称号は消すことができず、実質彼女はこの国のナンバー2だった。
俺は愛人との子供ができて後は皇位を譲るだけ。
そんなある日だった。
俺は不治の病にかかり、死を待つだけになる。
だというのに俺が病にかかると要らぬ存ぜぬ。
家臣たちも俺から離れていった。
次第に帝都から離れた辺境に押し込まれて、夏は暑く、冬は寒い。
ストレスで狂いそうだった。
病の進行により、しだいに手足は痺れ生活が不都合になる。
でもなぜ俺は今生きていられるか?
もちろんこんな小屋に使用人などいない。
ならなぜか?
それは彼女がいた。
あの無機質で感情もない人形のような彼女。
俺が飯を食う時は蒸せないように注意して食わせてくれて、服を着る時も絡まないように慎重に着せてくれる。
髭を剃る時も、体を拭くときも彼女は文句なくやってくれた。
なぜなんだ?
俺は彼女を知ろうとせず、別の女にかまけた。
最初は皇家の財産狙いかと思った。
だが逐一報告してくる部下の言葉では、彼女は贅沢もせず、基本買い物もしない。
それどころか、実家から持ってきた服を着まわして壊れたら直すの繰り返しだったと。
俺は当時、あっそうの一言で済ませていたが。
あの時の騎士は部下たちは彼女の状況を俺に知らせてくれたのかもしれない。
なぜ?なぜ彼女は俺に尽くしてくれるんだ?
だが気づいてしまった。
彼女は感情に出さず、声に出さなかったが最初のプレゼントも大切そうに抱え。
今もまだそのネックレスを大事そうにつけていると。
俺は女になれているつもりだったから気にせず、むしろ忘れていた。
だが。
彼女は……
俺は涙が込み上げてくる。
あと余生が限られた中、本当の意味で俺を愛してくれた女性。
今思えば、愛人たちは子供が産まれ王位を譲ってから態度がそっけなく、関わることも無くなった。
だけどいつも食事にも彼女はいてくれた。
それからの人生、俺は彼女との日々を大切に過ごすと決意する。
それから数年。
***
「セレヌ、君は……
なぜ僕に尽くしてくれたんだい……?」
もう力が入らない声で必死に絞り出す。
すると、いつも喋らなかった彼女が。
「わたしは、精霊を祀る一族の末裔でした。
それはこの国でも強大な影響力を持つほどの」
俺は絶句した。
精霊を祀る一族。
それはもはや俺ら皇族すら上回る偉大な一族だった。
父がなぜ彼女に盟約を課したかようやく理解した。
だが、なぜ……
彼女は僕に尽くしてくれる?
「わたしは、当時一族でも希少の精霊竜になる力を持っていました。
ですが、精霊竜とは帝国ですら認知されてません。
もちろん、子竜と勘違いされたわたしは狩られて殺されるだけ。
幼い日は制御ができなかったので戻ることもできず」
そこでようやく思い出す。
昔、街に出ていたことだった。
王城は窮屈で外の世界が見たい俺は抜け穴を探して街に出る。
そこで。
「鎖に繋がれ、まさに生きたまま解体されそうになったわたしを救ってくださったのが当時の皇子です。
皇子は正体がバレればもう観光すらできないというのに、泣き叫ぶわたしを身分を明かして助けてくださったんです」
あの時、青く水晶のように綺麗な鱗を持つ子竜。
俺は竜の肉が珍味とされていたので食してみたかった。
だがその子竜の目の涙が胸に刺さる。
それで、思わずだった。
「わたしは助けていただいてからずっと皇子をお慕いしてました。
私の血縁を気づいた配下たちからは必死に状況を訴えてられましたけど、わたしはこれでよかったんです。
触れ合う時がなかったかもしれませんが、わたしは好きな人と一緒にいられればそれでよかった。
実家にいても別の種族に嫁がされてましたし。
それに、今がとても幸せです」
「セレヌ……
僕は愚かだった。
君の愛にも気づかず……」
俺は多分、生きてきた中で一番絶望しただろう。
あと余生が数時間だろうか。
意識が薄れて、眠い。
後悔のない失敗ない人生だと思っていたが、今まさに最大のしくじりだった。
「ジーク様……
わたしはずっと、ずっとあなたのことを愛します。
どんなあなたであろうとも、もうあなた以外は愛せません!」
初めて見る彼女の感情的姿だった。
ああ、ちきしょう。
俺はこんなクソみたいな人生で終わるのか……
もし、神がいるなら。
もし神がいたのなら、俺は人生をやり直したい。
今度こそ、今度こそ彼女を愛したい。
そんな無念と共に、俺の命は燃え尽きた……
***
「これ!ジーク!ジークハイド!」
俺は揺さぶられ意識が戻る。
すると視界には懐かしい顔が。
それは俺の父で先代皇帝。
とある大戦より殉職した父だった。
「おやじ……」
「おやじじゃない!
これ!セレーヌさんに挨拶せい!」
頭をグルンと向きを変えられ、慌ててピントを戻す。
するとそこには彼女がいた。
「セレヌ……」
皇族の一員になろうというのに質素な礼服。
きっと贅沢はしてこなかった貧乏貴族の末裔か?って内心嘲笑ったが、だがその美しい顔はこの国でも見ない美貌だった。
青く水晶のような髪は綺麗だった。
「綺麗だ……」
思わず口をこぼしてしまったが、当時もだった。
彼女を見た時素直に思った感情。
当時はこんな美人なら夜も最高だって思った。
だが今はそんな邪な心はわかず、ただ愛おしい。
すると彼女は顔をわずかに真っ赤にさせて目線を逸らす。
「ははは!
我が息子もセレーヌさんの美貌に敵わなかったか!」
後は若いのに任せよう、と父たちは退室する。
俺は真っ先に彼女に駆け寄ると、そっと手を握り。
「こんな俺でよければ結婚して欲しい!」
当時は下心でいつヤレるか考える日々だった。
だが今は違う。
「っ!
はい……」
彼女もわずかに声を出すだけで精一杯。
でもこの彼女は心の底から俺の言葉を喜んでくれている。
前回の過ごした日々がすぐに俺を知らせてくれた。
流石に初見で抱きしめるわけにもいかず、今はただ手の温もりを感じるだけだった。
***
俺は皇太子だが落ちこぼれ。
歴代皇族の中でも平凡だった。
学生時代は一位通過だったけど、それは周りが遠慮した結果。
だからこそ今世は自身を極めた。
まあ18歳でやり直すなんて思っても見ないし、鍛えられていない筋力はなかなか不安だが、今はただ鍛えるのみだった。
「ねえ、皇子が素振りしてるって!」
「ねえ!いつも女にだらしない皇子がどうしたのかしら?」
「そういえば、あの人形姫」
セレヌは人形姫と呼ばれている。
使用人もきっとどこかの貧乏国家の出涸らしで差し出されたのだろう。
とコソコソ嘲笑うだけ。
まあ皇子の心境の変化もすぐに飽きて終わるはずだ。
と、思われていた。
だがあの皇子は飽きずに素振りをして、才能は感じられなかったが、頼りなかった細い腕はたくましく、体付きも服からでもわかる筋肉があった。
その際、玉の輿を狙う女子もいたが。
「僕には彼女がいるから」
そう、一方的な拒絶で女性たちは撃墜する。
あれから夜について進展があったか?と言われたが。
監視していた皇族の影の報告では、共に寝るが抱きしめるだけ。
一方的に夜を迫るわけでもなく、ただずっと一時も離れなかったそうだ。
皇帝は最初こそあの一族の姫が愚息と結婚したいと一点張りってところに驚愕だった。
あのクズ息子が失礼なことをすれば最悪あの一族に消されるだけ。
絶望感が半端なかった。
だがあのクズ息子が女性をそんなに大切に扱うとは思わず、まあ成長したなぁって軽く思う程度だった。
だがもっと驚いたのが、サボり気味で他人に苦労させればいいって堕落していた息子が急に鍛え始めたとのこと。
まあ数日持たんだろう、と軽く見ていた。
なのに。
気がついたら歴戦の猛者を彷彿させるたくましい筋肉を手にしていた。
剣の腕こそ凡人だが、その修練により帝国最強の騎士と撃ち合うほどに。
我が子の圧倒的成長に対して困惑したが、これもあの娘が来てから。
「精霊一族のセレーヌか……」
皇帝はただ、あの無機質な少女が息子にもたらしてくれる幸福にただ感謝するだけだった。
***
夜に進展ありましたか?
NO。
俺は確かに彼女を愛している。
だけど、過去の行いのせいか彼女にそんな発散のような行いをするわけにもいかず。
罪悪感だったが、でも俺は彼女と一緒にいられるだけで嬉しかった。
もう離さない。
死ぬ前に決意したその意思は、ただ彼女に尽くすために存在している。
なのに。
今夜、いつものように寝巻きになり彼女を抱きしめて寝る。
それがルーティンのようで、彼女の温もりを感じるだけで俺は幸せだった。
最強の騎士に一方的に打たれた時も、彼女といれば痛みが安らぐ。
なんかセレヌと結婚してからあいつ手加減なくなったけど、なぜだ?
そういえば、前回もあいつは必死にセレヌの現状を変えようとした。
仮でも俺の女に情欲湧かせるあいつが嫌いでよく死地に向かわせたっけ。
あいつもまたセレヌに恋していたのだろう。
「ジーク様……」
彼女が普段使っている生活の間から俺たちが寝ている寝室へゆっくり向かってくるのが感じ取れた。
「ん?セレヌ?
!!」
月明かりが照らされる中、雲が晴れと彼女の姿が見える。
それはネグリジェだが、とても薄く肌が見えていた。
「な、何をしてるんだい!?
は、早く服を着なければ!」
俺はかけてあるバスローブを彼女にかけようと取りに行こうとするも。
ガシッと手を掴まれる。
その手はか弱く見えて、極限まで鍛えた俺の剛腕を最も容易く抑えていた。
俺は思わず鼻血が出る。
彼女の透ける肌に、思わず気持ちが高まったからだ。
「せ、セレヌ?」
すると彼女は涙を流した。
「ジーク様が性豪なのは知っております。
でもそれでもわたしに手を出さず、優しく抱きしめてくれる日々は幸せでした。
ですが不安なのです。
ジーク様は他の女性にも気にいられているので、いつわたしから離れていくか……」
普段は感情を出さない彼女は、俺が死ぬ前同様に感情を露わにする。
「セレヌ、僕は君が大切なんだ!
過去の僕は確かにだらしなかった。
でも、僕は君といられるだけでいいんだ!」
俺は彼女を抱きしめた。
彼女の体温が肌を通して伝わり、だが彼女は緊張しているのか汗をかいている。
「ジーク様」
すると彼女はガシッと俺の顔を自分の顔に近づけて。
「わたしはあなたの誠意は伝わっています。
でも、せめてわたしに愛の形を残していただけませんか?」
そして、俺はまるで生娘の如く彼女に弄ばれるのだった。
***
チュンチュンと、スズメが鳴いていた。
俺はスッキリしたようで、何か重かったものを吐き出したかの如く開放感を得ていた。
「やってしまった……」
彼女を大切にすると決意したのに。
シーツに染みついたその血痕が事後を表していた。
だが、一番好きな人と過ごす夜もよかったかもしれない。
もう泥沼だ。
彼女無しでは生きていけない。
もうやり切った感が強いけれど、俺は決意する。
前回じゃ戦争漬けだった日々を俺が止めようと思う。
俺は後方で踏ん反り返るだけせいで父が前線まで行くことになり死んでしまった。
だが、俺がいけばきっと変えられるかもしれない。
先頭を切るリーダーが必要。
俺は他者に任せるだけの社長ではなく、皆を引っ張るリーダーを目指す。
そう決意して今日の訓練も参加したのだが。
「どうなってる!
ジーク皇子の動きが明らかに良くなってる!」
いつもは鍛えた筋肉でギリギリ動いていた俺でもなぜか体が軽い。
あの帝国最強の騎士すら俺は降してしまった。
「何があったんだ?」
次は魔法の訓練。
俺の得意は基礎の基礎火の玉って下位魔法。
まあ他にも使えるけど、発動が遅くて使いものにならん。
なのに。
「お、皇子が上位魔法を発動させたぞ!」
俺は火の玉を出したはずが何故か、上位魔法の豪炎の大球を発動させている。
これは熟練の魔道士が数人がかりで発動する技だ。
なのに全然疲れてない。
「何故だ?」
俺は何か理由があったか考える。
今思えば、あったことといえば……
「まさか、あの夜が!?」
彼女とまぐわってからすこぶる調子がいい。
俺はその勢いのまま、練習用の剣片手に狩に出てしまった。
***
やってしまった。
つい調子良くてものは試しに渓谷に住む古代竜に挑んでしまった。
なかなか手強かったが、倒しちゃった。
それがもう世界中に広がっていく。
落ちこぼれで下半身だらしない皇子が覚醒!
的な取り上げで世界中の注目が帝国に集まった。
その偉業は、かの勇者が魔王を倒したレベルにやばい。
だからだろうか?
そんな危険兵器みたいなやつがいるこの国に好きで攻め込む国は消えてしまった。
父も、息子が抑止力的な発言で、『帝国に戦争が起きない理由』的な長ったらしい二つなをつける。
そうして、俺はのちに世界最強の皇帝として語り継がれるのだった。
***
「すまない、君との新婚旅行行けそうにない……」
有名になるってことは酷だ。
どこを歩けば大英雄と人だかりができて、彼女といつか旅行行きたいのに!って思ってたのが破談する。
「いいんですよジーク様。
わたしはただあなたといられれば」
あれからセリヌは子供を妊娠して、息子だったので竜殺しの英雄から取ってフリードと名付けた。
フリードも健やかに過ごして着々と育っている。
「僕も君といられればそれでいい」
とある帝国には皇子がいた。
だが皇子は女だらしなく、恋らしい恋はしていない。
だがそんなある日、彼を慕うという少女が現れる。
それは質素でどこかの貧乏貴族の令嬢かと誰もが思った。
きっとあの女は玉の輿狙い。
だが、努力も何もしない皇子はあの皇妃と出会い変わった。
そして世界を破滅に導くと言われていた邪悪な古代竜を倒す。
それは勇者が魔王を倒したが霞むくらいの偉業。
落ちこぼれだと言われていた皇子が努力によりそれを成し遂げたことは今でも物語として語り継がれている。
皇帝の代は代々代わり、皆水晶のような青い髪だったとか。
だが帝国に魔の手が伸びて絶望が襲えばいつだってそれは現れた。
皇族の象徴である青い髪のような鱗を持つ巨竜、そしてそれに付き従い背に乗る竜騎士。
世界が滅ぶ、そんな危機が訪れれば彼らは。
大空より舞い降りて世界を救うのだった。
妻の態度が無機質で近寄りたくないので愛人とばかり過ごしてましたが、不治の病にかかって最後まで一緒にいてくれたのは妻でした。 〜だから、人生がやり直せるなら最後まで君と添い遂げたい〜 花下内アンクル@瀬井鵺 @nikucake0018
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