第4話 異世界で奪い合い【デービーバック】
スマホのステータス画面には、私のレベルが2になった、と通知がきていた。
さっきの猿を倒したから、かな……それしか覚えがない。
新しく獲得したスキルや魔法もあり、
これらが、国籍を戻すとリセットされるということだろう。
「いいです! 元の世界に一刻も早く戻りたいですから!!」
「そうだね、じゃあ戻ろうか……。ただ、赤く染まったエリアは今後、全国を浸食するものだと考えた方がいいかもね……そうなった時、レベルが高い方がいいと思うけど……」
「それは……、じゃあ――
でも、国籍を異世界にしたまま、現実世界へ戻ることは、できないってことですよね……?」
可能なら、国籍を戻すかどうかを訊ねることはないはずだ。
できない、もしくは不都合があるから、国籍の移動を推奨している……。
「国籍が異世界にあると、現実世界に滞在できるのは『三時間』だけだ」
「やっぱり……」
「それ以上、長く滞在すれば……異世界のモンスターが君を狙ってくる――。
今日一日で、実例がたくさんあるからね」
現実世界では当然ながら、魔法もスキルも使えないらしい。
駅に入った段階で
「――国籍を戻します。とりあえず、お母さんとお父さんに無事を知らせないと」
二人がいる他県は、まだ浸食されていないから安心だけど……。
『――やっと電話が繋がったわ、音羽、大丈夫よね!?』
「うん……なんとかね。でも家が……」
『そんなこといいわよ、あなたが無事ならね』
お母さんの声でほっとする。
地元が異世界になってしまったことは、変わらないことだけど。
『私たちもすぐにそっちに向かうから。ただ……同じことを考えている人が多くて、道が混んでてね……ちょっと時間がかかるかもしれないから、その――』
「うん、私一人でも大丈夫。
友達もいるし、お金もあるから……ホテルとかに泊まるよ」
『……困ったら連絡してきてね。
絶対に! 異世界にはいかないこと! 分かった!?』
「うん。もうあんなとこ――ううん、分かったよ、だから心配しないで」
お母さんとの通話を切る。
お父さんの声はなかったけど、きっと隣にいたのだろう。お母さんのパニック度合が控えめだったのは、お父さんが隣で背中を擦っていたからだろうなあ、なんて想像ができてしまう。
連絡はした。これで安否確認は完了。あとは二人と合流するまで、どこでどう時間を潰すか、だけど……、友達に連絡をしても応答がない。もしかしたら、まだ異世界にいる……?
「音羽ちゃん、これからどうする?」
「……とりあえずホテルを……」
「空いてるかな? じゃあさ、嫌じゃなければ、僕の家を貸してあげるよ。
どうせ情報収集するために家には帰らないから――はいこれ、鍵。住所は――」
峠本さんに勧められ、彼の家の住所をスマホにメモする。
そういう機能は使えるらしい。
「……いいんですか?」
「うん。汚いから、掃除してくれると助かるよ」
「……汚そうですもんね」
「僕のモジャモジャ頭を見ながら言ってない?」
峠本さんとは知らない仲ではないし、襲われる心配もない……。
絶対、とは言い切れないけど、ジャーナリストをしている以上、未成年を襲ったなんてことが他のジャーナリストにばれたらと思うと……彼にそんな度胸はないと思うし。
他人の不幸があれば、自分が汚れても構わず近づく人だ。
自分の汚点が生まれれば、そこに群がる人が大勢いることを知っている……、自分のことをよく理解していれば、されることも分かるのだから――なのでこの人は安心に最も近い。
「まさか異世界にいくんですか?」
「奥まではいかないけど……ちょっとは調べるつもりだよ。
大丈夫、死なない程度に、深追いはしないようにするから」
「ジャーナリストのあなたがそれを言っても……」
でも、生きて届けるのがジャーナリストだ。
死ぬようなことはしないはず……。
「ちゃんと帰ってきてくださいね?」
「わあ、今の言い方、奥さんみたい」
ふふ、と思わず笑顔になる。
異世界だったら魔法を飛ばしていましたよ?
峠本さんを見送り、私は彼の部屋へ。
部屋の中は予想よりも倍以上も汚くて、掃除するのに丸一日を使った。
全てを終えたのは深夜……てっぺんを越えてだ。
ふう、と一息ついた私は、食事を作り、テレビを点ける……すると、
昼間はニュースがやっていたのに、気づけば画面が変わっていた。
『更新:今日のクエスト情報』
「『土の下の三兄弟』…………これ、って……――」
浸食が広がった。
既に私がいるこの地域も、異世界になっているらしい。
―― 完? ――
北改札を出て東口、【ダンジョン】前で合流を。 渡貫とゐち @josho
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