第3話 駅の中、安全地帯

 気になったのは攻略のヒントだ……。


『群れとなり動くモンスターは、単独では獲物を捕らえられません』


 ……つまり、孤立させてしまえば、目の前のモンスターも私と同じってことでしょ?



 吹雪の中で、視界不良。

 行き先も、獲物も分からない……、今、自分がいる場所さえも。


 握っていたスマホがずしりと重たくなる……だけど持てないわけじゃない……。

 重さが加わったことで、逆に持ちやすくなり、手に馴染む。


 まるで最初から握っていたみたいに、自分の体の一部のように動かせそうだ。



 スマホの画面が細く、柄となり、上から刃が伸びている……、


 剣、だ――……私の武器。


 追加特典、だったっけ?


「なんでもいいけど……とりあえずこれで……――戦える」


 そして私の左手には、三回しか使えない魔法があるのだ。

 万全とは言えないけど、でも……なにもできなかったさっきよりは、状況は好転した。




「三回だけ、使える魔法…………え、三回!? じゃあ、使うタイミングって、いつ……?」


 そんなの、今しかないとは思うけど……三回、使い切ったらと思うと……使えない。


 魔法が『使える』と『使えない』とじゃ、今後の不安も変わってくる。

 魔法なしで進むことを考えると、一回は残しておかないと冷静さを失いそうだ。


 だから、二回だけ……できれば一回……、試し撃ちすらする余裕もないけど――



 足音が激しくなる。

 モンスターの動きが、活発になった!?


「もうっ、どうなっても知らないからねっっ!!」



 魔法を使用しますか?


 はい/いいえ



 剣として握っているスマホの画面に映し出された選択肢を、タップする。


『はい』を押すと――、


 私を包むように。

 生まれた赤い球体が、やがて外側へ広がって――膨らんでいき……、


 弾けた。


 周囲一帯の雪景色を晴らすような、大爆発が――――





 それから、私は晴れた道を進んで、駅へ辿り着いた。


 駅までの道は、知っている景色とはがらりと変わっていたけど、現実世界と似たようなランドマークがあったので、なんとか迷うことはなかった。


 たとえば歩道橋だったり、大きな道路だったり……。吹雪が晴れた後、私の魔法によって積もった雪も溶けてしまったようで――本来の『森』が見えていた。


 巨木が乱立する、古さを感じる森だった……。恐竜でも徘徊していそうな……なんて予想をしていると、目の前から出てきそうなので、足早に駅へ向かい……――幸い、恐竜の姿をした『モンスター』に遭遇することはなかった。元々、いなかったのかもしれないけど……。


 確か、さっきの猿がボスなんだっけ……? じゃあ、あの猿たちよりも強いモンスターはいないのかもしれない。恐竜がいたとしても、猿より脅威は下だったりして……。


 まあ、私からしたらどっちも怖いんだけどさ。



「やっと、辿り着いた……」


 駅の中は、私が知っている景色とまったく同じだった。


 東口から入ると、反対側には西口が見える。そして途中には改札があって――。

 すると、平日とまではいかないけど、それなりの人がいた。中には私の知り合いも。


「あ、峠本とうげもとさん……」

「おお、音羽ちゃんは無事だったんだね」


「あんまり心配してなさそうですね……」


 音羽ちゃん『は』、ってところが気になるけど。


 カメラを片手に、スマホをいじっているこの男性は、峠本 頼道よりみちさん……私がバイトをしているコンビニへよく来てくれる、フリーのジャーナリストだ。


 私からすると、フリーのジャーナリストって、野次馬となにが違うんだろうと思ったりもするけど……。


「野次馬との違いは、調べたことを記事にして、企業メディアへ渡したりするかどうかだね」


「知ってます。――そんなことより、なんなんですか、これ!!」


 東口、西口の先は、巨木が乱立する森になっていた。


 私が知る地元の姿じゃない……面影は、少なからずあったけど……。


「どうやら東京都の北部は、異変が起きているらしいね……、大雑把に言えば、北区赤羽から、板橋区蓮根あたりまでが、【異世界・デービーバック】へ変貌しているみたい」


 ジャーナリスト仲間と情報交換をしているらしく、峠本さんのスマホはさっきからひっきりなしにメールを受信している。


 私のスマホにはメール、全然こないのに……。

 剣の姿になっていたスマホは、駅の中に入ったら元の姿を取り戻し、見慣れたスマホになっている。充電をしなくてもバッテリーが減らなくなったのはいいけど、そもそも、他人と連絡を取るためのアプリが開けない。


 というか、ない。


 見られるのは私のステータスだけだ。


「音羽ちゃんは国籍を異世界にしたんだね」


「え、いや……知りません。勝手にされたんですよ……」


『はい』を押した覚えはあるけど、緊急事態だったし、押さないと死んでいた。

 だったら押すしかないよ。


「責めてないよ。駅の外に出るなら――異世界に国籍を移しておいた方がいい。……ただ、」


「ただ、なんですか……やめてください。もうこれ以上、深く関わりたくないですよ……」


「駅の中で、国籍を現実世界に戻すことができるみたいだ。……だけど、異世界で得た【経験値】だったり【スキル】だったりは、国籍を移した段階で全てがリセットされる。

 音羽ちゃん、レベルが2に上がっているけど、それもリセットされるみたいだよ?」

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