第32話 囚われのヒト科は思い出す


「???はぁっ……こんなことが。奴隷……なんて……え?これ本当?」


いやいやいや。習ってきたものと違いすぎる。いくら先生の書いた文章とはいえ、こんな突拍子もない話が出てくるなんて、私は急に信じれる訳なかった。

「何万年も前の話……か。嘘だろ……、どうしてこんな関係無さそうな話まで説明しているんだと思ったら……スケールが想像を遥かに超えてるんですけれど。」
「怖い怖い……もう一旦この類の情報は十分だよ」

「もしかするとこの計画、延いては君たちの星はなんというか……複雑な発展を遂げてそうだね」



* * * * *



私はその歴史上の破られたページを見つけたとき絶望し、虚しくなった。ずっと昔から、不特定多数でも特定の人間でも、記憶を消したい分だけ消去出来るなどという、そんな一方的で都合の良い技術があっていいはずがない。私が、私たちがこれまでその事実を知れなかったのも……そういうことなのだろう。
 


ただ、こんなものではない。さらに私が知ることのできた歴史には続きはあった。奴隷のラノハクトからの排除が完了し暫く時は流れ、人々に再び不満が溜まってきたそんな日。我々以外にも別の知的生命の存在が確認されたというニュースが舞い込んだ。
それも複数、一度に三つもだ。先の知的生命の記憶操作に成功していた我々はその生命体たちを新たな仲間という名の労働力として歓迎するため、発見された知的生命は次なる計画の標的になってしまう。


その生命体らに対し悟られぬようにあらゆる事前調査を行った後、あたかも元々我々と仲間だったと思い込ますための緻密な【偽りの記憶】を捏造し彼らに注入したのだ。


結果、見事にその計画は成功してしまったのだ。


そして今となっては「イファイヤ人」「アシール人」「ロタレバート人」として本来の奴隷の枠を越え、惑星ラノハクトの欠かせない構成種界、本当の仲間となり、今日まで何の違和も問題も無く過ごせているのだ。

本当に凄いことだよ、こんなにも大勢の人々を欺いていただなんて。全てラノハクトが、厳密にはその上層部が決定し、起こした事なんだ。


それでもラノハクトの卑しい欲は止まることを知らず、多種界の混在計画がおおよそ成功したのを皮切りに、新たな知的生命がこの宇宙のどこかに存在していないか漁ることに夢中になり始めた。
もちろんそれはここに書き写せるほど簡単ではないし、一度成功しているとは言え、問題は山積みだっただろう。

そんな最中、奇跡的に一筋だけ発見することができた。

それは我々がかつて棄てた存在、忘れ去られていた【奴隷のなりそこない】であった。さらに彼らは我々の予想を遥かに上回る速度による繁栄を見せつけた。当時はそこを含め十の星に散りばめるように廃棄されていたらしいのだが、ここの他は何処を探しても確認されず、そこ以外の九つの星では絶滅してしまっていたようだ。


実は他三種の知的生命が発見されるより昔、少人数のノロールム人が昔の不確定なデータを頼りに実際に十の星々へと出向いており、その時にはすでにたった一つの星での生存が確認できていたらしく、そこでは声を上げずに水面下で交流を図ったものの、失敗に終わっていたと記録されている。

最後の授業でも取り上げた、所謂“鬼”にされた話だ。
二度目となる今回の調査は惑星全体を巻き込み大規模に、彼らの記憶を改竄し星ごと我々の仲間にするらしい。


* * * * *




「えっ……」
 
 




* *その星の名は【地球】。授業の調査対象である星、もとい、この計画の舞台だった。* *




* * * * *



私がその歴史を知ったのは計画の全貌が膨らんでいき、ラノハクトの上層部と教師らとで打ち合わせをした後。さらにいくつかの辻褄の合う情報を得たのは実際に地球へ着き、ここで与えられたシアター資料を探索したときに発見した。
ここで私が気づいたとして、もう手遅れでどうすることもできなかった。

計画の事前資料では地球の時間を“圧延”し、フィールドワークを行うという目的で予定されていた。
その調査の為だけに地球の“五秒間を五十年間”に引き延ばす――何故そんなに時間が必要なのか。


まず、ラノハクトの真の目的を簡潔にまとめると、この場所“トリアンドルス”によって生み出された五十年の間に地球上全ての人工物を、“ジオ・パラシトス”と呼ばれるマシンによって解体し、新たに我々の文化を混ぜ込んだ都合の良い街並みを作り上げ、資源と地球人ごと地球全土を乗っ取ることだ。
つまり、圧延は調査の為などでは無い。我々にも地球人にも反発させず、気付かせないための大掛かりな「仕掛け」である。
 
現地調査に出向いた我々のデータを装置に取り込み、時間圧延の効果範囲を地球人だけでなく、調査員、教員、生徒にまで広げ、同じように動きを止め、仕上げに我々と地球人に元からこの星で生活してきたという偽りの記憶を注ぎ込む。
そうして完全犯罪のように地球への侵略は完了し、植民地へと。
地球人は惑星ラノハクトの新たな仲間として大昔の奴隷が加わるのだ。そんな不自然さにもっと早く気づいていれば、まだ何らかの手立てはあったのかも知れない。疑えなかった、抗えなかった自分が悪い。
その圧延によって私の生徒を含む犠牲者は気づく事など無いまま凍結し、記憶を操作され、この後生まれ変わった地球で生活するのだ。

泣き喚いたり、抵抗したりする隙なんてない。
術を与えられていない。その方が幸せなのだろうか。
私にはわからない。


どうしてこうなったのだろう。



* * * * *


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私がキミを殺すとでも? 〜 異星人が見た地球 〜 混漠波 @mazaribakuha

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