第20話 クリスマス・イブデート


駅前の大きな公園は、クリスマスのイベント会場となっている。

クリスマス・イブの深夜。

菫と榊は、佐和商店の仕事終わりに二人で、この公園に訪れていた。そろそろ日付も変わろうかと言う頃だが、人出はまだ多少ある。

「意外とまだ、人いるな」

「明日も平日ですけど、いるものですね」

並木道の木々には、クリスマスのイルミネーションの装飾が施され、幻想的な風景となっている。

「明日も、ケーキ売りロボットだよ。毎年とはいえ、嫌になる忙しさだね」

肩を回しながら、榊は息をつく。

「明日もありますけど、今年も大変です……」

菫も息を吐き出して、呟いた。榊は、そんな菫を見て小さく笑う。

「クリスマスは滅んでほしいが。菫とこうやってデート出来るのは悪くないから、多少は許す」

「何で上から目線なんですか」

「俺も疲れてんのー」

榊は笑って、菫の頭をくしゃりと撫でる。

「そこのベンチ空いてるな。少し座ってろよ。飲み物買ってくるから」

「ありがとうございます」

イルミネーションの施された木の下に、ベンチがある。飲み物を買いに行く榊を見送りながら、菫はそこに座った。

しばらくスマホを見ていたが、いつの間にか隣に人の気配がある。そっと菫が横目で見ると、黒いコート姿の男が座っていた。男はじっと、菫を見ている。

(何だろ……)

菫がそう思う間に、男の手が伸びて来て、菫の手首を掴む。その手の冷たさに、菫はゾクリとする。

「サミシイ……」

影ばかりの男の顔に、一筋何か伝って行くのが、菫には見えた。

「え」

(この人、生きてる人じゃない)

固まってしまった菫を、男は引き寄せる。

「ちょっと、」

手を振りほどこうとした菫の耳に、声が飛び込んで来る。

「ーーそのは俺のだ。触んな!」

男は、蹴り飛ばされて消える。

振り上げた足を下ろして息をついたのは、榊だった。菫は詰めていた息を吐き出す。

「晃さん。ありがとうございます」

「怪我は?何かされてないだろうな?」

「大丈夫です」

菫が笑って答えると、榊は安心したように笑って隣に座る。

「クリスマスで人出も多いし、あの手のは明るさにも寄ってくんだろうが。ーーおちおち一人に出来ないな、俺の可愛い恋人は」

温かいペットボトルの飲み物を菫に手渡し、榊はそのまま恋人を優しく抱き寄せた。

「何が出ても、こうして飛んで来てくれるでしょう、晃さんは。私は、それが嬉しいです」

菫は、榊に身を預けて笑う。

「可愛い過ぎ。腕の中から出したくねぇよ、もう」

おどけて言いながらも手の力を強める榊に、菫は僅か己の鼓動が跳ねるのを感じる。

(暖かい……)

「メリークリスマスイブ、ですね。晃さん」

「メリークリスマスイブだな」

菫が榊を見ると、優しく顎を掴まれ、額に口付けを落とされた。

「……唇じゃないんですか?」

物欲しそうな表情の菫に、榊は心臓に悪い思いで息を吐き出す。

「そんな顔するなんて聞いてない。俺の理性試すのやめてくれる?ーーそれは、これから暖かい部屋でゆっくり、な」

榊は菫の結った髪を梳き、その流れで髪へ口付ける。菫の頬が赤くなった。

「晃さんのそれ、心臓に悪いです!」

「お互い様だろ」

榊は菫を抱きしめ、愉快そうに笑う。

クリスマスの華やかな煌めきが、二人を照らしていた。







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佐和商店怪異集め番外編 宵待昴 @subaru59

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