第2話プロローグ②
赤くて温いドロドロとした水が胸から垂れる。どうやら自分の胸から出てるみたいだ。胸に穴が空いてるが痛みは余り感じなかった。何故なら次の事に意識を移す前に絶命したからである。
長瀬築、17歳高校2年生の冬休み初日の夜の出来事である。
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「空気清浄機を直して欲しい?」
冬休み初日の朝7時。家のインターホンを鳴らし無理矢理目覚めさせた私立石見高等学校の生徒会長こと#万葉修也__まんようしゅうや__#は身体を震わせながら俺に頼み事を押し付けてきた。
外の気温はマイナス1℃。手をかじかませ、鼻を赤くし身体を震わせるには十分な環境であった。
「どうやら生徒会室の空気清浄機が壊れててな…修理を出すにも直しに呼ぶにも金がかかるから…」
(この様子だと生徒会の予算をこの事に使いたくないと見えるが外に出たくないなぁ)
「なんだその嫌そうな顔は。まあこの時間にこの寒さだ。外に出たくない気持ちも分からんことは無い…」
「この顔は寝起きだからだよ。いいよ。直すことは得意だからな」
「…むぅ、いつも助かる。使う予定だった予算は後で茶でもしばく時に使おう」
「俺は嬉しいがそんな事に使っていいのか?」
「報酬はくれてやらんとな」
悪い顔飲まま笑みを浮かべる生徒会長。用意に少し時間がかかるため居間で待ってもらうことにした。
学校に行くため顔を洗い制服に着替え軽く朝食を取り会長に声をかける。
「会長、朝ご飯はもう食べたか?」
「ああ、当然だ」
(なら会長の分はいらないと)
手短に昼飯用のおにぎりを握る。用意を終えたのは会長が来てから30分経った7時半の事である。
「じゃあ行くか」
住宅街の端にある学校のため、いつもなら自転車で行こうとするが雪が積もっていたため歩いていくことにした。
こんなにも雪が積もっているため街の住人は皆自分の家や店の前を雪かきしている。小学生や中学生なら喜んで雪を使って外で遊ぶのだろうがこんな時間になっても店が開きそうにないところを見ると色んな事を遅延されていて何とも言えない気持ちになる。
バスも朝は通ってないらしく、この雪がどれだけの被害を生み出しているのかわかるだろう。ここまで降るのはこの街でも初めてなのだから。
「やっと学校に着いたな」
「それにしてもこの環境下でも部活はやってるのか、凄いな」
現在時刻は8時半だがサッカー部、野球部、バスケ部、吹奏楽部等などはもっと前から部活を始めた雰囲気を出していた。
「よし長瀬、寒いから生徒会室に急ごう」
「そうだな。余所見してる場合じゃなかったな」
「ん?まあいい。早く行こう」
本来なら補習の生徒が校内にいるはずなのだがどうやら昼からみたいなので職員室にいる先生達以外はいない。
「ガランとしてるなぁ」
「先日までここは学生で溢れかえってたからな。寂しい気持ちになるのは分かるぞ」
「休校日と間違えて学校に来た気分だ」
「冬休みに来てるからあながち間違いでは無いのだがな。それより長瀬は今日予定とか無かったのか?」
無いと言えば嘘になるが、無理して決行することでもないので問題は無い。会長に肯定の証として首を縦に頷いた。
「先に聞くのを忘れたのは謝ろう。流石に一日潰れるのに予定があるかを聞かないのは迂闊だった」
「大丈夫だ。暇してたからここに暇潰しとして来たんだ。謝る時間があるならいいお菓子かお茶でも用意してくれ」
「なら生徒会室に早く行くか」
「ああ」
静まり返る教室を後にして生徒会室に行くことにした。
教室の半分程度の広さ、溢れかえる資料の山、真ん中には長机が2つ並べてあり申し訳程度に椅子が置かれていた。そこは生徒会室という名の資料室であった。
「資料室といってもお湯がでるのありがたいと思ってるよ」
「ああ、そのおかげでここでゆっくりする事が出来る」
「じゃあお菓子と茶入れてくるからパイプ椅子僕の分も用意して座ってろ」
「おう」
机の近くにあるストーブの電源を付け自分と会長用に椅子を用意する。教室に入ったといっても外の気温と大差ない環境のためコートを脱ぐのはまだ早いだろう。
「長瀬、お前冬休みなにか予定あるか?」
「え…と、特には無いけど」
「なら冬休み生徒会の企画で学校の大掃除があるんだ。人数がまだ足りてないから来て欲しい…ってそこ露骨に嫌な顔するんじゃあない」
それはそうだ。これは学生なら誰でも嫌な顔はする。この企画は先日冬休み前に聞いた話だ。
代替わりした生徒会がとりあえずで企画した大掃除。その名の通り教室から校庭まで掃除しようと言うことらしい。その時の説明曰く最低でも3日間は潰されるらしい。冬休みを謳歌したい学生であれば回避は必須である。
(謳歌は考えたことないけど、休日を奪われるのは嫌だなぁ)
「お、俺なんかより星野とかどうだ?あいつは成績も良いし先生からの受けも良いだろ?」
「あいつはダメだ。根が気に入らん」
「なんでだ?」
「あいつは皆の前では猫を被ってるが本性はみなが恐れるような魔女だぞきっと」
「そうか?普通に話すし先生や他の生徒に態度良くするのは割と普通の事じゃないのか?」
「ぐぬぅ…それはそうなんだが…とにかく!僕はあいつが気に入らん!星野を誘うのだけは無しだ」
「ははは。あの会長がそんな事言うなんてな」
「あいつだけは別だ。星野は置いといてお前はどうなんだ?」
会長からの視線が痛い。
「あ、あ、明日までに考えとくよ」
(即断即決出来たら良いんだけどこればかりはねぇ…)
「そうか。良い返事を期待してるぞ」
「はは、は…」
会長が持ってきたお茶とお菓子で談笑しつつ30分。そろそろ室内暖まっただろう。
「よし。そろそろ始めるか」
「そうだな。もう少し話し足りない気もするが早く始めないと昼に差し掛かるしな。」
そう言って会長は奥から壊れたらしい空気清浄機を持ってきた。
「動くのは動くんだが異臭やなんか煙が出るんだ。何とかしてくれ」
「はいよ」
「工具箱は…職員室か。よし取りに行くか」
俺と会長はお茶とお菓子を片付けて工具箱を取りに職員室に向かった。
「冬休みなのに職員室あれだけ先生居るんだな。改めて凄いよな」
「自分はもちろん僕達の為に頑張ってくれてるんだよ。ほんと頭が上がらないな」
「ほんとだなぁ。教職ってのは取るだけでもキツイらしいのにそこから進んであの地獄に飛び込もうとするのは給料以上に得られるものがあるからなんだろうなぁ」
「自分で育てた生徒が無事に各々旅立ってくのはそれだけで嬉しいんじゃないだろうか?」
「まあ色んな事があるからなんだろうな。そういう事にしておこう」
俺達は生徒会の顧問の青木先生に工具箱を貸してもらい生徒会室に戻る事にした。
「ちょっと僕はトイレに行くから先行っててくれ」
「おう」
工具箱を片手に生徒会室に向かう。先程までストーブの効いた部屋にいた為コートを脱いできたのは間違いだった。つい声が出そうになるのを我慢して進む。
「星野じゃないか、冬休みの朝に学校にいるなんて珍しいな」
「あら、おはよう長瀬君」
「あぁ、おはよう星野」
先刻まで噂をしていた星野閃。白い肌に黒くて長い髪。整った顔立ちはモデルを疑う程綺麗だ。才色兼備を自分で言うだけあって何でもできる天才だ。友人曰く身長は165センチらしい。
それだけ絵に書いたような美人だとファンクラブが設立するのは時間が掛からなかった。というか入学式当日に出来上がっていた。通称「負け犬の残飯処理団」である。星野に告白して散っていき、それでも諦められない連中で組織されている。星野曰く「余り気持ちの良い連中じゃないけど言う事は必ず従ってくれるから便利」と評されている。
(中学の時はそんな事なかったんだけどなんでなんだろうな?)
ちなみに身長を知ってる奴はファンクラブに所属してる奴である。
「長瀬君」
「ん?どうした?」
「長瀬君はどうして工具箱を持ってるの?」
俺が持ってる工具箱を指さして不思議そうにこちらを見ていた。
「ん?ああ、会長から頼まれて生徒会室の空気清浄機を直して欲しいらしい」
「学校の備品なんだから修理に出せばいいのに」
「そんな事で生徒会の予算を使いたくないらしいよ」
「ふーん。アイツらしい考え方じゃない」
(それはそうなんだがその分のお菓子とお茶を貰ったって言えないな…)
「僕のことを呼んだか長瀬…って何でここに星野がいるんだ?用もないのに学校に入るとは何事だ」
「生徒会関連で先生から呼ばれたのよ。私が聞きたいくらいだわ」
「そうか。失礼な態度をとってすまない。」
「いいわ。それで生徒会長私が呼ばれたことに関して何の用か知らない?」
「ん?僕は知らないが、長瀬は知ってるか?」
「さあ?俺は先に生徒会室に行っとくぞ。じゃあ星野、生徒会長」
「またね」
そう言って星野と会長を残して先に生徒会室に向かうことにした。
(まあ俺の作業風景なんて、地味すぎて人に見せられたもんじゃないし)
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午後、06時30分
作業を始めて数時間が経った。あともう少しで終わるが平日なら下校時間をとっくに過ぎてるため会長は先に帰らせた。何か言いたそうな雰囲気だったが仕方なし。
会長を帰らせた事で集中力が切れたのかウトウトと眠気が襲ってきた。
「死ぬほど眠いが何とか終わらせるまでは…!」
30分何とか耐え直し終えた瞬間眠気に耐えきれずその場に倒れこんでしまった。
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⬛︎⬛︎、⬛︎⬛︎時⬛︎⬛︎分
「うぅん…?うっわさっぶ!体いった!」
周りの様子を見るにどうやら終わった直後その場に倒れ込んで寝てしまったようだ。
「時間は…と…ん?18時?窓から見える外の様子を見るに18時な訳ないし…この時計壊れてるな?また今度直しに来るか」
(今日はもう帰ろう。体感的には日を跨いで無いはずだからまだ家帰って寝れるはず)
コートを羽織り生徒会室を出る。廊下を歩き階段を降り玄関に向かう…はずが…
「おかしい?」
歩いても歩いても玄関に辿り着かない。不思議なのだが、それ以上におかしいのが気温がドンドン低下していることだ。
「さっぶい…今は…何度だ…?」
窓から視認出来る職員室は電気がついてないから頼ることは出来ない。なら見廻りしている警備員
は…自分がこの状況だと余り希望は持てそうにないかも。
(そろそろやっばいな…一旦生徒会室に戻るか)
そう思い振り向いた瞬間
人がいた
長くて黒い髪
白い肌
整ったた顔立ち
そして俺達と同じ制服
「ほし…」
目の前の彼女に声をかける途中、胸に違和感を覚えた。
「い…あぁ?」
膝から崩れ落ちた。何とか周りを見るため仰向きに倒れる事になった。
違和感のある胸に手を当てるとドロっとした液体に触れた。
「これは…俺の血…?」
視界が霞んで見える。この状況を把握するために首を動かし周りを見ようとするが余り見えないため情報が入らない。
『まだ生きてんの?ふふふしぶといにも程があるよね?早く死ねよ?』
次の事を思考する前に今度は頭を貫かれ今度こそ俺は絶命。つまり死んだ。
長瀬築、17歳高校2年生の冬休み初日の夜の出来事である。
未完の魔術師 清白瀬見 @naduka
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