未完の魔術師
清白瀬見
第1話プロローグ①
「なんでこんなこともできないの?」
どうやら目の前にいる子は私と同じことが出来ないみたいだ。不思議に思った私は他意を含まずに質問した。
すると暴言らしきものを私に向かって吐き泣き出して私の頬を叩き部屋の隅に行きうずくまってしまった。
師は優秀な方を後継者として選ぶだけだ、と言い授業を続けた。
今日で私は10歳になる。だけど私はいつもと変わらない日常を繰り返している。
「師匠質問いいですか?」
「手短に」
「できないという事はどういうことでしょうか?」
頬の痛み、先程の出来事に対して理解が出来ないのだ。
「閃は私の言う事ことは全て苦なくこなすでしょうが相手の気持ちを考える事が出来ていない。叶が閃に訴えたいのはそういう事だ」
胸の引っかかった感じがとれない。私は納得が出来ていないらしい。
「師匠…」
「後は自分で考えなさい。今は理解できなくていい。出来ないことを見つけるのが閃の…いや私達の課題だな」
師匠はそういうと部屋を出て自分の部屋に戻って行った。
今は理解できなかったが近い将来私がここを継いだ時に理解が出来た。それはまた今度の話。
それはともかく魔術師見習いそれが10歳になった私の肩書きだ。
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ジリリリリリリ、ジリリリリリリ
「ふわぁ…ぁ…」
ジリリリリリリ、ジリリリリリリ
「うる…さい!」
目を閉じながらスマートフォンを手馴れた手つきでアラームを消そうとするがどうやら音の出処はそこではないらしい。
「電話?休みの日に一体誰なの…」
目覚めぬ体を精一杯動かし洗面所で水を顔にかけ最低限目を覚まさせ固定電話の元へのらりくらりと歩く。
固定電話の表示する番号は私が通う学校のものであった。
「もしもし」
「閃さんですか?」
「はい。冬休みの貴重な時間に何用ですか?青木先生。大したようで無ければこのまま切りますが」
「ちょっとちょっとまだ用件言えてないよ」
どうやら入ってもいない生徒会の用件で今から学校に来て欲しいとの事。学生の中でも優秀な成績と態度のため選ばれたらしい。
「分かりました。10時頃に行きます」
「ありがとう。断られたらどうしようかと思ってたよ」
電話越しでも分かる、あの常にヘラヘラとした顔が思い浮かび私はそこで電話を切った。
先日の夜降った雪が足首まで積もり冷えきった空気が身体を覚まさせる。
制服の上に黒いコートを着てアパートを出る。学校まで5km。近くにバスや電車は無いので歩いて行くしかない。
「うぅ~冷えるわね。何で生徒会に入ってないのに行かないといけないのかしら。今日の予定も全部潰れたじゃない」
そんな愚痴を程々こぼしながら向かい30分使い着いた。
『キーンコーンカーンコーン』とチャイムが鳴る。冬休みだが補習の学生がいるため平日と同じようにチャイムは稼働している。
玄関をくぐり抜け生徒会室に行く。
「星野じゃないか、冬休みの朝に学校にいるなんて珍しいな」
「あら、おはよう長瀬君」
「あぁ、おはよう星野」
ニコッと工具箱を持ってこちらに屈託のない笑みを浮かべながら挨拶を返す同学年であり同じクラスの生徒だ。
「長瀬君はなんで工具箱を持ってるの?」
「ん?ああ、会長から頼まれて生徒会室の空気清浄機を直して欲しいらしい」
「学校の備品なんだから修理に出せばいいのに」
「そんな事で生徒会の予算を使いたくないらしいよ」
あのケチだが自分には優しい生徒会長らしい考え方だ。いいように使われるのはあんまり良い気はしない。
「ふーん。アイツらしい考え方じゃない」
「僕のことを呼んだか長瀬…って何でここに星野がいるんだ?用もないのに学校に入るとは何事だ」
噂をすれば生徒会長が長瀬の後ろから階段を降りて来た。メガネをかけ品行方正を絵に描いたような人物である。
「生徒会関連で先生から呼ばれたのよ。私が聞きたいくらいだわ」
「そうか。失礼な態度をとってすまない。」
「いいわ。それで生徒会長私が呼ばれたことに関して何の用か知らない?」
「ん?僕は知らないが、長瀬は知ってるか?」
「さあ?俺は先に生徒会室に行っとくぞ。じゃあ星野、生徒会長」
「またね」
私達は各々別れて行った。私は呼び出した張本人がいる職員室に向かうことにした。
「失礼します。青木先生に用があって来ました。青木先生いらっしゃいますか?」
「お。やっと来たね」
こっちだよと、手招きしている糸目の教師。呼び出した張本人がそこにいた。
「青木先生、生徒会関連の用とは何でしょうか?」
「生徒会主導の冬休みの学校の大掃除。それを君に生徒会として手伝って欲しいんだ。今日呼んだのはそれの打ち合わせ」
「はぁ…分かりました。予定を合わせるので手短にお願いします」
十数分の打ち合わせが終わり私は職員室を出た。
今日来たせいで私の冬休みが3日間潰れた事が確定した。
「お、星野用事は終わったのか?」
「終わったわよ。来なければ良かったと思うわ」
「ははは、そうか。どうせ面倒を押し付けられたんだろ?よく引き受けたな。」
「先生からの評価を下げないために押し付けられた用事を断らないのは普通の事ではなくて?」
「頑張るな。無理だけはするなよ?」
「そういうあなたも生徒会長に押し付けられた面倒事全て引き受けるのはどうなの?」
「んー、俺は暇潰しみたいなもんだから良いんだよ」
「そう、せいぜい使い潰されないように耐える事ね」
「おーこわ」
そう言って彼と別れた。
冬休みで余り生徒のいない校舎を少し回ってから帰る事にした。どうせ今日一日予定潰れて暇になったしこういうのも良いだろう。
教室に行くと補習を受けている生徒がいた。大半が真面目に授業を受けてない生徒なので寝ないよう先生がマンツーマンでついてて大変そうだな。
この学校は県内でも上でもなく下でもなく中くらいの偏差値だ。この学区内に住んでる人は大抵この学校に行くため勉強が出来るやつから出来ない奴まで幅広いのだ。そのためこのような補習が行われる。
(私は文武両道、勉強から運動まで大抵の事はこなせるからからこんな所に来なくても良いのほんと助かるわ。そもそも休暇期間に勉強をしにわざわざ学校へ来ると考えただけでも怖気がたつ。)
そんな事を思いながら部活棟へ
「お!星野じゃーん!こっち寄ってけよ!」
声の主はこれまた同じクラスの古田さんからだ。
彼女は女バスケットボール部の現主将だ。体育会系の人間は基本嫌いだがこの子は話してて不快感を抱かないから不思議と話せる。
「おはよう古田さん。残念だけど今日は遠慮しとくわ。体育館寒そうだし私は一刻も早く家の暖房の効いた部屋に行きたいからね」
「ちぇっ。星野がそういうなら仕方がない。そういえば駅前にパフェ食べ放題の店が出来たらしいから今度一緒に行こうな!」
満面の笑みは周りを照らすような勢いだった。そんな今すぐにでも行ってみたい彼女の誘惑に耐え返事を返した。
「ええ、分かったわ検討しとくね」
「うん! 」
そんなやり取りを交わし、あっという間に校門に辿り着いた。コートを着てて尚この寒さなのはほんとにやる気など諸々削がれるため困ったものだ。だがしかし午後からバイトだという事を思い出し帰路に着くのを辞め、バイト先に向かう事にした。
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