文明都市イェソド
ナースコールらしきボタンをカチャリと押してみる。
それから一分もしない内に何かがドタバタと疾走する音が聞こえ、看護師…の恰好をした女性の体形のロボットが機械音声を鳴らしながら駆けつけてくれた。ありがたいものだ。
「メガサメマシタカ、ホトンドヒンシダッタノニタイシタモノデス。」
その外観のイメージ通りでやけに片言な言い方でベッドからなんとか起き上がっている彼ににそう語る、ロボットと言う名の機械人の胸元には『レイア・アルストロメリア』と記載されている事に
この国の医療はどうなってるんだ、とか機械の人間がいるのか等と色々と突っ込み所は多々あるがこの際は目を瞑ろう。その方がこの良く分らない世界には馴染めるだろうし。
「そういうもんなのか、それより少し聞きたいことがあるんだが良いだろうか?」
俺がそう聞くと、彼女はまた片言ながらも”ナンデショウカ?”と答えてくれた。
「一体ここはどこの病院なんだ?イェソドと言う都市の中にあるというのは何となく分かるのだが、まだ記憶が混濁気味で良く分らなくてな……」
俺がそう言うと、彼女は機械らしくあまり抑揚のない声で応える。
「ココデスカ?ココハ『レーシュ地区』ノ、ミスターフォッグ病院デスヨ。由来ハ創設者ノ『Mr.ネブラ』カラ取ッテイマス」
「……なるほど、ありがとう。非常に助かる」
――レーシュ。
これは旧約聖書に記載されている、生命の樹セフィロトの木の中でセフィラ同士を繋ぐ
俺が目が覚める前にあの老人に教えられた都市名のイェソドなんてもろに第九番目のセフィラの名前だ、この都市の名前を付けた奴はよほど旧約聖書に心酔している信者か、それとも本当に聖書の中の人物がこの世界に実在しているのだろうか?
……考えても直ぐに答えが纏まるような気配は一向にないのでこの件は一度棚に上げてから考えよう。
「ところでレイアさんや。俺の戸籍とかはどうなってるんだ?」
俺がレイアさんに確認をするとやや苦慮の表情を浮かべて、さっきと同じようにあまり抑揚のない声で実は……と語る。
「ソレガデスネ、イチオウアルニハアルノデスガ……コノ都市ノ長デアル『ガブリエル様』ノ養子トカイテアリマス。」
「――――?」
なんといったのか。
都市の長の養子だというのはとても無茶苦茶が過ぎるがまだ分かる。
だが、『三大天使』の一人であるガブリエルの名が出るだと?可笑しな話だ、それは飽くまでも
そもそも俺がこんなに詳しいのは今は遠い所に行ってしまったアイツが腐るほど旧約聖書の話をしてきたからとは言え、そんな都合よく存在しているもんなのか?
仮にいたとして、わざわざ養子として迎え入れる奴なんて――――
『ようこそ、文明都市イェソドへ』
脳裏に明らかに何かの施しをしているであろう若すぎる貌の陽気な老人の顔がチラついた。
「新夜サン?」
その様子を視て心配そうにレイアさんがこちらの顔を覗き込んでいる。
「ん、ああ……ちょっとびっくりしただけだ。その場合だと治療費とかはそのガブリエルって人が払ってくれてる感じなのか?」
俺が念のためといったニュアンスで彼女に問いかけると彼女は首を縦に振って答えた。
「そうなのか。とりあえずそのガブリエルさんとやらが居そうな場所を探索したいんだけど……レイアさんから見て、俺はあとどれぐらい入院しなきゃダメ?」
「エエト――――」
「少なく見積もってあと一日はかかるわよ。別次元からの
俺の質問に目の前のレイアさんが答えきる前に奥から声が聞こえた。
ソイツは思わず見惚れてしまいそうになる程に美麗で美しい
代わりに俺が寝ているベッドの真横に立ち、俺の瞳を、宝石のように輝くトパーズ色の瞳が強く、異論は認めないとばかりに射抜いていた。
「アタシは
さて、とこの目の前にいる夢説ルカという女性はじっと俺を見つめた少しの間思案して言った。
「どうしても探索したいって気持ちは分かるけどねー、その前に質問だ。アンタは一対どうやってこの世界に入り込んだ?アタシの知っている限りじゃそんな芸当ができるのは何年も前にどっかに消えちまったアタシの幼馴染とその祖父しかいねぇ。」
その問いに、俺は思わず表情が固まってしまった。
あの空よりも青く。 霜月優斗 @simotuki1021
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