曰く、目が覚めれば其処は見知らぬ土地。
ぐらりぐらり、死の間際、一度体が浮いたかと思えば段々とナニかに引きずり込まれるような感覚がする。
クラゲみたいな奴が俺の身体を包み込む感覚がしたのもその時だ。
不思議と瞼の感覚が戻ったんで僅かながらに瞼を開けると何もない空間……あいや、雲というか靄みたいなのは存在しているから何もないわけではない。
何と表現すればいいのか解らないが、靄以外に見えるものがないにも関わらず灯りがある空間。
「少年よ、この
な、誰かしゃべった…誰だ?
「ふぉっふぉ、わしは君の親友のおじいちゃんだと思ってくれればよい。」
「親ゆ……豊成のじいさんだと?」
おかしいな。アイツ、五年前にじいさんは死んだって言ったじゃないか。
「おお、うっかりしておった。おそらく豊成が言っているのはおぬしたちがいた世界でのおじいちゃんに当たる人の事を言っているのじゃよ」
なんじゃそりゃ、それじゃあクロじいさんは豊成とは血縁関係ではないってことなのか。
そんなアンジャッシュあってたまるかッ!!と言ってやりたいところなのは山々だが、こんな世界、いや空間?がある以上納得せざるを得ない。
「それで…何を望むだったか、そうだな――」
『自分自身の為に生きてくれ』
死ぬ直前にあいつが俺に言った言葉が脳裏にリフレインする。
「俺は、豊成に自分自身の為に生きてくれと言われた。だから、あいつの最後かもしれないお願いを聞いてみようと思う」
それがもう会えない親友にできる最後の手向けだろうと飲み込んだ。
俺がそう言うと、老人は少しの間沈黙しこう言った。
「そうか…あやつはお主にそう願ったのか、よかろう。」
老人がそう言うと徐々に己の体の感覚がはっきりしてくるのを感じる。
次第に辺りを包み込んでいた霧が晴れる。
「ようこそ、文明都市イェソドへ。歓迎するぞ少年。その旅路を成し遂げるが良い」
そう言って老人の貌が明らかになる。
60代ぐらいの声にしては見た目が随分と若く見える風貌、やや灰混じりの髪、サファイアよりも深い藍い瞳が俺を覗き込んでいる。
そしてなによりも、普通に過ごしていたら絶対に存在しないであろう左腕に刻まれた大きく切り裂かれたような傷が、ただの老人ではないことを物語っている。まるで不動の巨木のようだと言わざるを得ない。
ふと、身体に何かが刺さっている感覚がした。
「……っぁ」
海面に勢いよく飛び出すように意識が覚醒した。
起きたばかりだからか、身体は鈍い状態で眼でちらりと辺りを見渡すと医療器械のようなものが並んでいて、それに繋がる沢山の管が俺の身体に突き刺さっている。
いかにも医療用っぽい設備から察するに恐らくここは病院なんだろう。
ぱっと見は俺がかつていた世界の機械と何ら変わらないようにも見える。
尤も、その機械の上に不可思議な文字が浮かび上がっているのを除けばだが。
「病院か…世話になるのは何年振りだっけな」
確か俺と豊成がガキの頃、大体8歳位の時に学校の遠足で俺と豊成それとクラスメイトと引率の先生を乗せたバスがドライバーの不注意で高速道路から落っこちた時に病院に搬送されたのは覚えている。
あんときは冗談抜きで死ぬかと思った、衝撃で身体が吹っ飛びかけたし。
運よくみんな死なずに済んだからホント良かった、今思い返せばどう考えても死傷者が出るレベルの事故だったのに無事だったのってさっきの老人の事を考えると豊成がなんかやったんだろうなぁ。
「…ありがとう」
はるか遠くにいる友に向けて俺はその言葉を零す。
一度だけじゃなく二度も俺を助けてくれたこと、決して忘れない。
お前にもらったこの命で多くの人を助けられるだけ助けて見せるとも。
「まずは…一旦ナースコールしとくか」
左に身体を捻りながら見やるとナースコールボタンがあったからそのボタンをポチっとなした。
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