死の裏側
「お前は自分自身の為に生きてくれ」
僕がそう言って直ぐ、足元にいる彼が冷たくなってきた。
ごめんな、親友。
こうするしか無かったんだ。
「……あいつらに見つかる前にとっとと始めよう」
豊成はジャケットから瓶をおもむろに取り出して冷たくなった彼の周りを囲うように瓶の中身をチョロチョロとかけると、床に滴った傍から青白く光を放ちながらそれは彼の周りを円……否、それは魔法陣を組む様に広がっていく。
「我は繋ぐ。」
その輝きが青から紅く変わった。
「我は彼の地と此の地を繋ぐ禊に在り。」
辺りに突風が吹き荒れる、しかし詠唱を続ける彼には一切影響しない。
すでに物言わぬ骸になり始めている人間は見えざる何かが押し上げているのか徐々にその体が浮いていく。
「この身を依り代に今、彼の地に続く門を繋ごう。」
何もない空間がパスン、と裂けた直後に扉が姿を現す。
その扉はとても人の手では開けることなど到底敵わないと見ただけで分かるぐらいに重苦しい雰囲気を放っていた。
「さて、おじいちゃんが出てくれるかどうか……」
ごーん。一度、鐘の音が鳴る。
ごーん、二度目の鐘の音。
ごーん。
三度の音の後に重苦しい扉が開かれ、青白いホログラムが現れ、その中に一人の銀髪の老人が顔を覗かせて言う。
「随分と懐かしいのう、豊成。やっと帰る気になったかの?」
豊成と呼ばれた少年はほんの少し悲し気な
「いまからそっちに僕の親友を送るからおじいちゃんにはそいつを助けてやって欲しい、僕はもう五分もしたら来るであろう追手に殺されるのは避けようがない」
老人はあまりの出来事に狼狽した、なぜ自分の孫がこんな目に合わなくてはいけないのだろうと。
「何故だ。お前さんなら一緒にこの門を通れるぐらいの力まだあるだろう?」
「ない、前に女の子を送った時にだいぶ使っちゃってね。」
無理だとあっけらかんと少年はカラカラと笑って言った。
「お主というやつは…よかろう、最後に言っておくが…絶望の中にこそ活路はあるということを忘れる出ないぞ、愛しき孫よ」
老人がそう言った直後、触手のようなものが死に向かいつつある豊成の親友を包み込み開かれた扉の向こうに消えていった。
少ししてから重たい扉が唸りを上げて閉じると同時に、ホログラムと大扉はふっと消えた。
「まったく…活路はあるって言ってもなぁ、それをやるにはちょっとばかし厳しいってもんだよ?コレ」
背後に気配を感じ、後ろを振り返れば拳銃を構えた黒服サンが6人ぐらいがワラワラと。
ずいぶんな歓迎なことで。
「ターゲットはどうした、そこにある模様で何かしたのかネ?」
金髪のオールバックの髪形をして黒いインテリ眼鏡を掛けた男が僕に拳銃の標準を合わせて問うてくる、どうにかバレることだけは避けねば。
「…いやー背後から拳銃で撃ちぬいたまではよかったんですけど、何かよくわからない呪文みたいなのとっさに唱えてたらしくて逃げられてまったみたいです」
「……ほう?外界生まれのお前が知らない呪文とはネ。世の中不思議なこともあるものだな、Mr.藤原?」
感心するように見せかけて尋問を続ける男。
「そうですね、この天才たる僕でさえも理解ができない言語でした。…しかも心臓付近を撃ち抜かれたのに呪文の詠唱ができるなんてね……」
彼の
「そうだな。そうなると種類が違うといえ、同じく呪文が使える君が何かしたのではないかと私は踏んでいるのだがっネ!」
そう言いながら僕の耳元をマグナム特有の銃音が過ぎ去った。
「……いくら呪文使えるからって疑いすぎでは、ノーデンス・ライナー大尉?」
撃ってきたからには仕方ない。
『零脈起動』、第一から第三まで解放。
眠らせていた魔力生成のエンジンを始動させる。
しかし警戒せよ。本来この世界に存在しないものを使用するのなら、莫大な負荷がかかるということを。
『冥海走破』を発動、魔力の八割を消費して身体に備わっている運動技能、反射速度のリミッターを解除する。
赤黒く血みどろ色のオーラが豊成の身体から湧き出る、その姿は燃え上がる命そのものの様にも見えるし、奇怪な怪物の姿とも取れつつある。
「最期の仕事を、始めよう」
親友の為ニモ。
僕は前傾姿勢になりながら懐に差してあった脇差を無造作に引っ張り、豪快に鞘を投げ捨てるかの如く抜刀した。
「……随分物騒な姿だネ、……武器を持て、brother達」
「「「「「承知」」」」」
ノーデンスの部下らが彼の合図に合わせて黒鉄の銃口が僕の眼球、心臓、睾丸、あらゆる急所を狙う。
「君が逃がしたか逃がしてないかは重要じゃナイ。ここにターゲットが居ない、その責任は誰かがとらなければナラナイ。故に、申し訳ないが君には此処でゆっくり眠ってもらうヨ」
「貴方の方こそ」
どうせ僕は親友をあの場所に送った代償でもうじき死ぬんだ、最後ぐらい癇癪を起したって問題ないだろ?
拘束解除、排除開始。
赤黒い閃光と銃撃音が辺りに木霊した。
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