あの空よりも青く。

霜月優斗

プロローグ 啄まれる鴉

 俺は有郷新夜ありさとしんや

 かつては傭兵をしていた…ところがある事情で俺は死んでしまい、別次元の違う歴史を歩んだ地球に転生と言う形で生まれ変わり、今は冒険者兼用心棒として生計を立てている。

 これはその前日譚、俺が死んだ日の出来事だ。


――――――――――――

2024年、5月17日

午後11時。

 

今日は小学校からの友人にとある依頼を頼まれたんで、明日は街から少し離れた倉庫で待ち合わせすることになった。

 『始末してほしい人物がいるからそいつを殺す手伝いをして欲しい』と言われたが、どうやらとある僻地の倉庫が待ち合わせになっている。何故そんな場所で待ち合わせをする必要があるんだ?

 まぁアイツと会えば理由が分かるだろ、多分。

 

――――――――――――

 何時も書いている日記に書き込みを終えた彼は早々とベッドに潜り、眠りについた。

 

 翌日、眠たい瞼を擦りながら身体を起こし、洗面所で顔を洗い意識を覚醒させる。

 今日起きてからというもの、脳裏でフルスロットルで嫌な予感が駆け巡る。

「妙な胸騒ぎがするが……気のせいだな」

 俺は自分にそう言って言い聞かせるように呟く。

「それじゃ……行ってきます、お養父とおさん」

 いつもは言わないけど、今日は何となくになる予感がしたから、仏壇に飾られている養父の遺影に挨拶だけして家を出た。

 

 俺の自宅から依頼先の住所は電車で凡そ40分ほど掛かるのだが、今も感じる予感とは裏腹に特に道中でなんかあったりは無いまま例の倉庫に着いてしまった。



 倉庫の扉を開けると、見覚えのある顔、今回の依頼主で俺の旧友である『藤原豊成ふじわらほうせい』が出迎えた。

「よう。珍しいな、お前が俺に依頼なんて」

 と言うのもこの豊成という男、東大卒業したのちに起業し今は大企業のトップにまで上り詰めた男であるからだ。

 巷では国会議員に近いうちに立候補でもするんじゃないかと噂されている。

「お前にしか頼めない依頼だったんでな、早速本題に入ろう」


 豊成はそう言って手に持っているカバンからタブレットを取り出して言う。

「『星埜守矢ほしのもりや』、現在37歳で財務大臣に任命されるほどの敏腕ではあるもののロシアや中国のお偉いさんに日本の機密情報を横流ししているらしい、そこで今回お前にはこの男を始末してほしい」


 どうやら近いうちに俺のオヤジをスパイ容疑を行っているとでっち上げて殺すつもりらしい、と豊成は付け足しながら説明してくれた。


「なるほど、俺はその男を始末すりゃあいいんだな?」

 俺がそう言うと豊成は首を縦に振りながら肯定した。


「そういうことだ。それと達成報酬は2千万、前払いの報酬は1千万だ」

 そう言って豊成は気が付いたらそばにいた黒服の男から渡されたアタッシュケースを開けて中身を俺に見せる。


 それの中には豊成が言った通り、アタッシュケースいっぱいに詰め込まれた一万円札が目に映る。


「おいおい、前払いでそんなに渡すものだったか?まぁ確かに今回は要人暗殺だからってのもあるが……」

 恐る恐る豊成から札束が入ったアタッシュケースを受け取ると、豊成は契約成立だなと笑った。昔からこいつはおっかないなぁホント。


「それじゃ作戦日時を伝えるぜ。決行日は5月20日の14時丁度だ、寝坊すんなよ?」

 豊成は揶揄いながら言った。

「寝坊は中学生で終わらせてるっつーの!」と返し、手を振りつつ、俺は豊成に背を向けてその場を後にする。

 いや、しようとした。

 不意に、俺の背後から、――の銃声がきこえた。

だまして申し訳ないが上からの依頼なんだ、……ここで死んでくれ」

 


 自分の胸元を見るとぽっかりと紅く濡れた風穴があいている。

 「…………え?」

 この状況を理解するのにはそう時間はかからなかった。

 俺は今、後ろにいる豊成あいつに撃たれた。

 そこまでは馬鹿な俺でも判る、ただ。

――どうして、どうしてなんだ。

 痛い、痛い、痛い、痛い。

 全身を突き抜ける痛みが駆け巡り、口から血があふれ出る。

「ごぼっ……、ほう…せい……?」

 途端、四肢に力が入らず地に臥した。

 次第に薄れそうな意識を根性でどうにか堪えつつ、彼の名前を呼ぶと苦虫を噛む表情をしながら言う。

「お前はやり過ぎたんだ……なんでお前は何の躊躇もなく、何の躊躇いも見返りも無く人を助け続けた。そしてその結果……つい先日、全世界でお前は大量殺人犯の犯人として指名手配されている。」

 あいつはそう言って地に臥す俺に見えるように手配書を見せてくる。

 確かにその手配書には俺が描かれていた。

 俺はただ、誰かを助けたかっただけなんだけどなぁ……

 すこし、ずつ。

 きがとおくなる。

 耳も、とおくなってきた。

「もうじきお偉いさんの傭兵どもがここに来る。これは僕の最期の独りよがりな願だ。……今からお前をどこか別の世界に送り出す」

 ははっ……

 あいつがなきそうなかおして、なんかおかしなこといってらあ。

「もしかしたら生き残るかもしれない、死んで生まれ変わるかもしれない……でもどうか、次は……」

 ああ、そうこうしてたら目も、みえなくなってきた。

 これが、いのちのおわりなんかなぁ……

 

 ――そして。

 いのちがつきる寸前。

 その声だけが強く聞こえ、この日、有郷新夜ありさとしんやは死んだ。



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