暗闇の子

@ajatuki

第1話

暗いここには誰もいない、誰も入れさせないなぜなら僕のテリトリーだから。

それに僕を封じ込めるにはとっても適した場所だ。

そして、僕は時々ここに迷い込む、来たくない時だってあるけど気付いたらここにいる。

逆に行きたくても来れない時だってある。

ここはそんな場所、のはずだった。

なのに異物が1匹……それは親愛なる天敵の猫だ。

僕は猫が好きだけど、その気ままさは嫌いだ。

予測なんて出来ない、その気ままさは僕みたいな自分自身を忙しくさせるような、そんな時間に追われてばっかの人間なんかとは相容れない天敵だ。

まぁ僕に時間がないのは半分近く自業自得なところがある、僕は無茶に挑戦して失敗することが多い、その失敗の後始末で時間がなくなる。

「猫さんはなんでこんなところに来たの?」

答えなんて帰ってくるわけないのに話しかけてみる。

すると猫は喋った、そう何故か喋ったのだ。

「んー君に会いに来たんだよ?」

案外僕は猫が喋ったことには驚かなかった。

そう、ここがそんな暗闇だってことはわかっていたから。

ここは僕が僕のためだけに作り出した、欺瞞と空想の暗闇だから、本来喋るはずのない猫が喋るというありえないことが起きてもおかしくない。

とっくに分かりきってることなのに見ないふりしてたのは僕だ。

「猫さんはここが怖くないの?」

「なんで怖がる必要性があるの?」

いくらありえないことが起こる場所とはいえさすがにその答えには少し驚く。

「だってさここにはなんにも無いんだよ」

「んーなんで嘘つくの?」

確かになんにもないというのは嘘だここには沢山の壊れた失敗作が落ちてる。

「なんで知ってるの?」

「だって私は君の彼女だよ」

僕はよく彼女を猫に例えるとはいえ彼女を本物猫として見たことはない。

でもこんな場所でそんなことを言うなら本当なんだろう。

彼女は僕に聞いた。

「言いたいこと沢山あるんでしょ」

だから僕は叫んだたくさんのことを

僕がなんにもできないことを、僕が犯した罪のことを、

彼女をここに近づけなかったことを……

全てを叫んだら彼女はこう言った、

「よく出来ました」

それでここは晴れたのだ……晴れたのだ。

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