第118話 サクラサク
三年生になり、同じクラスになった俺達は、これまで同様、いや、これまで以上に一緒にいる時間も増え、校内でも有名なカップルとなっていた。
最初の頃、俺は自分に向けられる好奇の視線を辛く感じ、色々と迷う時もあったけど、彼女のおかげでこうしていられたと思う。
でもその事を話すと、いつも「それはお互いさま。ありがとう」と優しい笑顔で言ってくれる。
夏には部活も引退し、本格的に受験勉強に専念する頃には、既に親公認の仲となっていたこともあり、それこそ殆ど毎日、朝から晩まで一緒にいて、彼女は俺の勉強に付き合ってくれた。
勉強漬けで辛く感じる時間も、彼女がいてくれたから頑張れたと思う。
そして、合格発表の日…
「あった…!」
「俺もあった…あった!」
「うぅ…」
「なんで泣いてるんだよ」
「だって…だって…!」
学科は違ったけど、俺はなんとか同じ志望校の大学に合格することが出来た。
「本当…ありがとな」
「うん…また一緒にいられるね」
「えへへ」と笑う彼女は、彩香はやっぱり誰よりも可愛い。
「うん。また一緒にいよう」
「あの…それでね?」
「うん」
「春から、引っ越すじゃない?」
地元ではなく都内になるので、頑張ったら通えないことはないけど、そこはやっぱり、普通に部屋を借りて、一人暮らしすることになると思う。
「そうだね」
「あ、あの…それで…」
「うん」
「えっと…その…」
「うん?」
「あの…今度一緒に…」
「うん」
「その…部屋…見に行こうよ…」
そっか。どうせなら近い方がいいよな。
「うん。そうだね」
「え!!いいの!?」
「え?なんでそんな驚いてるわけ?」
「だって!」
うん?どうした?
「だって…遥くん…や、やだ…」
彩香は真っ赤になって、ポカポカと肩を叩いてくる。
「ちょっと…本当、どうしたの?」
「だって…一緒に、部屋探すんだし…」
「うん」
「はぅ…想像しただけで無理!!」
「だからどうしたんだよ」
「もう…遥くんは平気なの?」
ちょっとうらめしそうな感じで、涙目で見てくる彩香。
「だって、近い方がいいよね」
「そりゃ、近くにいられるよね…」
「それなら場所もある程度分かってる方がいいんじゃないの?」
「え?」
「でも、彩香のお父さんやお母さんが気に入った部屋じゃないとね。防犯のこととかあるし心配だろうから」
「え?」
「え?」
「うちの親は…遥くんが一緒なら安心だ、って言ってる…」
「ん?」
「え?一緒に住むんだよね?」
「え!?」
嘘だろ…それは聞いてないよ…?
「え…遥くん…」
「彩香…あの…」
「遥くんは…嫌…?」
嫌なわけないだろ!!
いやいや、嫌だとかそうじゃないとかじゃなくて、ちょっと待って
「嫌なわけないよ…」
「はぁ…よかった…」
もう…そんな、ぱぁ…って嬉しそうな顔されたら。しかもちょっと恥ずかしそうに、もじもじされたら…!
「でも、うちの親にも相談してからじゃないと…」
「あ、それは大丈夫」
「え?どうして?」
「遥くんのお母さんは「いいよ」って言ってくれたから」
「嘘…いつの間に…?」
「うふふ…」
「は、はは…」
どうやら俺の知らないところで、話はもう出来てたらしい。まあ、俺としては有難い話なのは間違いない。
でも、さすがにビックリしたよ…
「じゃあ行こ?」
「え?何処に?」
「私、前からしたいことがあったの」
「うん、なんだろう」
「合格して、遥くんと…その、一緒に住むことになったら…」
「え…あ、うん…」
「あのね…お揃いのマグカップ…一緒に買いに行きたかったの…」
彩香は俺の手を握って、上目遣いで、少し心配そうにこちらの様子を伺っている。
(本当に可愛いな、彩香は)
「うん、分かった。行こっか」
「う、うん!」
俺の腕にくっついて、嬉しそうな彩香。そんな彼女と、俺はいつまでもこうして一緒にいたいと願わずにはいられない。
春が来るのはまだ少し先で、風も冷たく感じるけれど、構内の桜並木にはちらほら蕾が見え隠れしていて、それを見つけただけでも嬉しく感じる。
これからの生活が楽しみなのはもちろんだけど、それよりも今は隣の彩香の温もりが心地よくて、ただ幸せを噛み締める俺だった。
……………………………………………
お久しぶりです。作者の月那です。
ちょこちょこと書いてきましたアフターストーリーですが、無事二人も高校を卒業し、新しいステージに進んでくれたようです。
もしこの先大学生編など書きたくなっても、それはまた別の作品として、今作はここで完全に完結することとします。
最後までお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。
またどこか別のお話で、いつか出会えることを祈っております。
本当にありがとうございました。
【完結】八神くんと七瀬さん 月那 @tsukina-fs
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