第117話 おしるこ(彩香side)


 年が明け、私は遥くんと一緒に、この辺りでは比較的大きな神社にやって来た。


 駅で待ち合わせして、二人で電車に乗ってここまで来たんだけど、私達と同じように、皆初詣に行くのか、車内は混んでいた。


 私達はドアの近くで立っていたんだけど、遥くんは私を壁の方に立たせて、私を守るようにその前に立ってくれてる。

 距離もちょっと近くて、電車が揺れる度に顔が近付いて、このシチュエーションにドキドキしてしまう。


 ドキドキと言えば…


 この前のクリスマスの時は、お家で二人きりだったから、私、ちょっと大胆になりすぎちゃった…。思い返したら、恥ずかしくて顔が熱くなっちゃうよ…


 でも、もしお母さん達が帰ってくるのがもう少し遅かったら、私…あのまま…


「彩香?どうしたの?」

「ぅえ!な、なんでもない…」

「え…そう?」

「ん…」



 駅から神社へと続く道を、手を繋いで並んで歩く。

 お天気はいいんだけど、やっぱりこの時期、空気は冷たいし、耳が痛くなりそう。

 でも、こうしてくっ付いて歩いていると、そんなことも忘れてしまう。


「遥くん、寒くない?」

「寒いよ」

「え…正直だね…」

「ああ、まあね」

「そこは「寒くないよ。彩香は?」って言うところだったのに」

「あはは、そっか、そうだね」


「ごめんね」と謝るその笑顔が眩しい。


(…やっぱり好き……)




 鳥居をくぐり、先に見える境内に向かって歩いて行くと、参道には屋台が立ち並び、家族連れや恋人同士、たぶん受験生のような人もたくさんいて、


「やっぱり混んでたね」

「まあ、ここ、大っきいしね」

「あとで何か買おうよ」

「温まるのがいいよな」

「うん、そうだね」

「彩香は何か欲しいのあった?」

「あとで一緒に見ようよ、ね?」

「分かった」


 二人で過ごす時間はたくさんあった。

 時が経てば経つほど、彼への想いはどんどん強くなっていって、こんな何気ない会話をしてるだけでも、私は幸せでたまらない。



 ふと前を見ると、たぶんもうお参りを済ませた様子の、おじいちゃんとおばあちゃんが歩いて来る。

 二人はお互いの顔を見てはにこにこしてて、手袋をしてたけど、手はしっかりと繋がれていて。


 憧れる…

 あんなふうな、遥くんと二人で、あんなおじいちゃんとおばあちゃんになりたい




 本殿の前まで来て、私達もお参りをする。


 チラッと隣の彼を見ると、目を閉じて手を合わせ、お願い事をしてる。


 いったい何をお祈りしたんだろう…


 私は…


(遥くんと、ずっと…ずっと一緒にいられますように…)




 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 結局、屋台では二人でおしるこを買った。

 温かくて甘くて、なんだかほっとする。


「ねえ、遥くん」

「なに?」

「何をお祈りしたの?」

「え…えっと…」


 ん?なんだか照れてるよね?


「何なに?気になるぅ」

「あの…来年ね…」

「うん」

「一緒のクラスになれますように、って…」

「あ…」


 遥くん…


「あと…」


 え?あと…なに?


「同じ大学に行けますように…って…」

「遥くん…」

「一緒にいたいから…」


 もう…遥くん…


「遥くん…私もだよ」

「本当に?」

「当たり前だよ。ずっと一緒にいよ?」

「彩香…」



 二人で一緒に飲んだおしるこの味。

 たぶん私はこの先、こんなに美味しいおしるこを飲むことはないかもしれない。



 そして、私はおしるこを見かける度に、今日のこの時のことを思い出すことになるんだけど、それはまたこれから先の、未来のお話なの…





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