第2話 ハルトのオモイ

「ハルト、お前はどこの高校に行くんだ?」

声をかけてきたのは宮崎祥平。幼稚園から一緒の幼馴染で、ずっと一緒に野球を

してきた。

「星南かな、公立で甲子園を目指すならあそこしかないだろ。」

「そうか。」

何かを考えている時、祥平は自分からは言わない。この相槌は俺からのお前はどうするのかという返事を待っている時だ。

「祥平はどうするんだ?」

テンプレートのようにその言葉を返した。

「森学へ行こうと思う。」

その言葉に息が詰まる。森学とは大森学園、の甲子園常連校だ。

「他県で甲子園を目指すのか?」

別に今時驚くことではない。ただこの辺は地方の、それも田舎だ。地元を離れて、ましてや他県の私立で甲子園を目指すなんて近所のジジババがなんて言うか。面倒はごめんだ。

「どうせ大人になったら東京に行くじゃねえか。社会人にまでならなくとも大学で都会に行く。少し早いだけの話だ。」


 祥平のその言葉を最後に目が覚めた。覚めないで欲しかった。このまま夢の中なら、違う返事をして、人生を変えられたんじゃないかと思う。夢から覚めてしまえば21歳のなんの取り柄もない大学生。あの時の選択は俺と祥平の人生を全く別のものにした。だって思わないだろ。14歳の夏の、だだっ広い練習場の端の水道での、ほんの30秒ほどの会話で人生が決まるなんて。一番思い出したくない、一番苦しい夏。親友が遠くに行ってしまうような、そんな時間。祥平とはずっと一緒に野球をしていくんだと思っていた。小学校、中学校と一緒に野球をして来たんだ。本音は高校でも野球を一緒にしようと言って欲しかった。他県に行くなら誘って欲しかった。多分あの時、祥平が描いている甲子園までの道のりに自分がいなかったことがあまりにショックだった。


「俺も一緒に行くよ。」

その言葉を言えば何か変わったんだろうか。祥平はあの時どんな思いで俺にあの話をしたんだろうか。ああ、あの時に戻って祥平の気持ちが知りてえ。そう思いながらベットに寝転びSNSを開く。

<大阪ビックス宮崎祥平 日本代表入り確定 大岩監督が明言>

ああ、見てしまった。そう、あの後、俺と祥平は別々の道へ進んだ。祥平は大森学園へ、俺は星南へ。祥平は大森学園で才能が開花。2年夏、3年夏、エースとして甲子園へ行き、3年夏はベスト4まで勝ち進み、父子家庭のあいつと父親の物語は日本中を涙で濡らした。そして高校日本代表入り、ドラフトで4球団競合の末、大阪ビックスに入団。今年はプロ野球の世界でも日本代表入りというんだから漫画のような話だ。

「何やってんだ俺は。」

つぶやきながら昔の写真を見返す。祥平が相手をゼロ点に抑え、俺がホームランを打って勝った試合。人生で俺の栄光はこの時が最後かも知れない。俺が進んだ星南高校は3年間で甲子園に出れなかったどころか、入学直後に監督が変わり、部内のバランスが崩れだした。部内喫煙、部内暴力で、3年間で甲子園へのチャンスがある大会への出場は1度だけ、2回戦敗退だった。

<あの時のあの人の気持ちが知りたい方はこちら>

「なんだ、この記事…」

見るからに怪しい記事。ただその記事をクリックする指は止まらなかった。











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今もまだあの時の夢の中で @paruseon

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