屋根の上の白鳥 🦢

上月くるを

屋根の上の白鳥 🦢





 立春が過ぎ、太陽の光があきらかに強さを増して来たある朝。

 川沿いの小さな平屋の屋根に、一羽の白鳥が止まっています。



 ――コー、コー、コー、コー……。(ノД`)・゜・。



 かすれ声をふりしぼり、けんめいに羽ばたこうとしています。

 けれども、よく見ると、片側の羽が傷ついているみたい。💧


 


      🌅




 その上空を、夜も明けぬうちから何十度となく旋回して別れを惜しんでいた十数羽の白鳥たちが、思いを吹っきるように一列になると、一路、北の空へ向かいました。


 昇り始めた太陽を受け、ピカピカ光り輝く太陽パネルのかたわらに立った白鳥は、片方の羽をバタバタさせ、去って行く仲間に、ひときわ甲高い声でいています。



 ――コー、コー、コー、コー……。(´;ω;`)ウゥゥ



 遠ざかる群れからも「コー、コー、コー」聞こえていた声が少しずつ小さくなり、やがて一点の白い塊りになると、真っ青に晴れ渡った空に吸いこまれてゆきました。


 坊やをひとり置いて発つことなどできないわ、おんおん声を限りに哭いて父さんの白鳥を困らせていたかあさんの白鳥も、いまはただ、うなだれ、黙りこくって……。




      🍃


 


 白鳥をはじめとする渡り鳥には、大むかしから定められているおきてがあるのです。

 あたたかくなる前に、なんとしても北のふるさとシベリアへ帰らねばなりません。


 でも、吹雪の日に電線に引っかかって大怪我を負った幼鳥には、荒々しい風が吹く海峡や気の遠くなるほど広い大陸を超えての四千キロの旅はとうてい無理なのです。


 北へ帰る父さん母さん兄弟姉妹のそばに少しでも近づきたくて、片羽で精いっぱい羽ばたいてなんとか屋根に上った白鳥は、幼児から少年に変わる時期にありました。


 そよ風になびく頭の柔毛にこげには、まだいくらか幼鳥の証しの灰色が混じっています。

 幼さをのこす漆黒の丸いふたつの眸から、おびただしいしずくがあふれ出て……。




      ⛅




 でも、大丈夫、この小さな物語をお読みくださっている方、ご心配はいりません。 

 置いてけぼりの白鳥に、お日さまはとびきりの光をやさしく注いでくれています。


 川面や岸辺からようすを見守っていた鴨やカイツブリ、バンなどの留鳥りゅうちょうたちが「さあ、ぼうや、こっちへいらっしゃい。一緒にあそぼう」と誘ってくれています。


 それに、川沿いの国道端に「野生動物クリニック」の看板を掲げる獣医師さんは、お昼休みにようすを見にやって来て、熱心にリハビリを指導してくださるでしょう。


 みんなに助けてもらいながら、白鳥のぼうやが夏を乗り越えれば、秋はすぐそこ。

 川岸に芒の花穂がなびくころには家族との再会がきっと果たされます。(*´▽`*)




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