エピローグ 秩序の守護人
『こちらX。XX年 ◇◇月〇〇日、△△県立川島高校に編入。任務を開始します』
一人の男子生徒が独り言のように呟くと、隣にいた女子生徒が男子生徒の尻を勢いよく蹴り上げた。
「な〜にが『こちらX。任務開始します』だァ! てめぇの実力不足のせいで任務が三ヶ月以上遅れた上に私まで駆り出されてんだぞ⁉︎ 人手不足だってのに一件に三人だぞ⁉︎ ありえねぇだろ!」
女子生徒が怒り狂った様子で暴れていると、二人から一人分距離を置いて歩いている長身の美男子が冷静に告げた。
「そんなこと言ってもしょうがないでしょアリナさん。今回はそれくらい手強い相手ということです。しかし、三ヶ月も修行したんですから、それ相応の成果は見せてもらいますよ、ミツルくん」
ミツルと呼ばれる男子生徒は顔の前で拳を握り締めると力強く頷いた。
「なにカッコつけてんだザコミツコラァッ!」
「痛っ! アリナさんあんまり暴れてるとバレちゃうよ!」
暴れるアリナに美男子が淡々と告げる。
「二人とも、はしゃいでいる場合じゃないですよ、いくら三人とは言え今回は……」
とんでもない速度で復旧されたであろうグラウンドや校舎にはまだところどころ怪物が暴れ回ったような跡が残っている。
「二ヶ月前の事件。アレの規模から見るに間違いなく今まで一番手強いなァ」
「はやく川島高校に“普通の学校生活”を取り戻さないと」
三人は真剣な顔つきで校舎を睨みつけた。
その隣を二人の生徒が通り過ぎていく。
「こないだのテストどうだった?」
「うん、手応えはあるよ」
自身ありげな男子生徒に女子生徒がオーバーに驚いてみせる。
「えー! 私全然だったよ〜音也くんすごいなぁ」
二人の生徒、井道音也と本田真琴は揃って教室への道を歩く。以前のように怯えることはなく、二人の表情は柔らかい。
教室に入ると誰からでもなく、挨拶を交わす。その中には高田哲夫や新人類たちもいる。
音也はその光景に毎日のように感謝している。最初は罪悪感で自らクラスと距離を置いていた新人類の生徒も少しずつ自然に接することができるようになっている。
全員が今までの全てを許したかと言われればそうではない。様々な問題や壁があるけど、お互いが歩み寄ろうとしている。その事実がここにはあった。
その後、大事な授業、友達との談笑、少しだけ退屈で、最高に幸福な一日を終え、帰路につく。
「帰りクレープ食べに行こう!」
「また? あんまり食べてると太るよ」
「太るとか女の子には禁句だよ!」
苦笑する音也に真琴はわかりやすく怒ってみせる。
外へ出ると空はどんより曇っていた。冷え込んだ空気が露出した肌をヒリつかせる。
「土曜日楽しみだな〜久しぶりの唯我くん」
土曜日は唯我がこっちに遊びに来ることになっている。転校して以来会うのは初めてだった。
「久しぶりってまだ二ヶ月くらいしか経ってないでしょ」
笑いながら、音也も真琴と同じように懐かしさを感じていた。
「えぇ〜、二ヶ月って十分久しぶり……あ」
真琴は手のひらを高くかざすと見上げてポツリと呟いた。
「雪だ……!」
空を見ると無数の白銀がパラシュートを広げているようにふわふわと地上に降り立っていた。
「冷たぁ!」
子供のようにはしゃぐ真琴を横目に音也は思わず笑みが溢れる。
「何笑ってるの?」
真琴の問いに音也は手のひらの雪を見つめながら答えた。
「季節を楽しめるっていいな、って思って」
これもまた、いつの間にか無くしていたものだ。きっと、この雪と同じように色々なものに感動できると思うと、音也はこれからの全てが楽しみになった。
「そうだね…………! よし! まだ小降りなうちにクレープ食べるぞ!」
「え⁉︎ まだ行く気かよ⁉︎」
駆け出した真琴を音也は追いかけるのだった。
そこはとある高校のとあるクラス。教室の中を薄暗い空気が漂う。
「どうも! 大門唯我です! 親の転勤で三盤宮町に来ました! ぜひ仲良くしてください!」
秩序の守護人 大石 陽太 @oishiama
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます